スキー研修@-4
斜面の上の方から、同じウェアの人間が数人、華麗に滑り着いた。
一人がゴーグルをずらし、
「どーだった、旦那っ?」
と、よく知る、笑んだ目を覗かせる。
「何度見てもすごいな、佐助!皆が、お前を見ておったぞ」
「マジで?俺様、格好良かった?」
「ああ!」
「〜〜ッ!俺様、大感激!もっ回滑るから、絶対見ててよ?旦那」
おう!と、幸村が応じようとすると、
「Hey、Hey、俺とどっちがcoolだったよ?」
と、政宗も顔をさらし、二人に近付く。
「政宗殿も、すごかったでござる!二人なら、上級者コースも滑られそうですなぁ!」
「Ah〜、まぁチョロいだろーけどよ」
「コーチ殿に、尋ねてみては?もしかしたら…」
「いや、良んだよ。じゃねぇと、お前が見らんなくなるだろ」
「え?」
「上級者コース行きゃ、ここに着かねーからよ。せっかくなのに、お前といられなきゃ、意味ねーだろが。ただでさえ、班が違うってのに…」
「ま、政宗殿…」
「ハイハイ、寝言は寝てからってね!ほら、行くよ」
「Hey!痛ぇよ、引っ張んな!」
ギャーギャー言いながら、リフトの方へ去って行く二人。
にこやかに手を振る佐助に、幸村も返した。
他の一般客が、二人をチラチラと窺うのが、よく分かる。
「…あれがなけりゃな。周りの熱い視線も分かるんだが」
「coolも何も、あったもんじゃない」
「お二人とも、相変わらずですねぇ」
傍にいた、孫市、かすが、鶴姫たちが、囁き合った。
幸村は、彼女たちと同じ班なのだ。
──何と、つくづく悲しいことに、男子生徒は、全員が経験者。
一人あぶれた幸村は、人数の少ないこの班に、加えてもらったというわけである。
二人の後で到着した、慶次、元親、元就たちも、もちろん周囲の注目の的。
「皆、すごいですなぁ、本当に…」
「あの二人、どんどん行くもんだからさぁ…コーチが、てんてこ舞いだよ」
慶次が、リフトを見上げて苦笑した。
「あいつら、前より仲良くなっちまったな、色んな意味で」
「…あれでは、二人きりになるなど、確実に不可能であろうな」
「──だな」
「?」
元親と元就の会話は、当然幸村には通じていない。
「でも、四人ともさすがだよな。上から見てても、他の子たちより全然上手だぜ〜?」
慶次が明るく言うと、
「本当ですか〜?」
鶴姫が、目を輝かせて喜ぶ。
「お前ら、スノボはしないのか?」
かすがが、そちらをやっている男子生徒たちを見て、尋ねた。
「あ〜。別に、明日でも良いしな」
「幸、明日は一緒のコースでやれたら良いなぁ。余裕あったら、スノボもやろ」
「はい!…しかし、某はスキーだけでも充分でござる。精進して、明日までに上達しておきまする」
幸村は楽しげに、「皆がされるのは、見とうござるが…」
「さっけたちも元親も、すーげぇよー?」
「おお、それは…!元就殿は、いかがで?」
「残念ながら、未経験だな」
「んじゃ、やってみろよ!スキーより出来たりする場合も、あるしよ」
わいわい話していると、再び佐助たちが滑り着き、その後で彼らのコーチが、慌てたように声をかけに来る。
「…仲良いなぁ」
幸村たちの班のコーチ──まだ若く、なかなかの甘いマスクである──が、呆れたように笑った。
「いつも、あんな感じ?」
聞かれた孫市は、
「…そうですね。だいたい」
と、クスリと笑う。
「へぇ…」
彼は、心から珍しそうな表情で、輪を眺めていた。
「すごい人気だねぇ、彼ら」
幸村たちの班のコーチが、感心したように呟いた。
──ホテル内の、広いレストラン。
夕食はここで、バイキング形式。若者には、嬉しいばかり。
コーチの彼もこちらに泊まっているらしく、幸村が同じ席に誘っていた。
食事も進んでいたのだが、五人が彼らのコーチと立ち話を始めると、たちまち周りに人だかりが出来てしまった。
レストランはロビーに続いているので、そちらで相手をしているようだが…。
そのほとんどが──女性。
幸村も、改めて友人たちのカリスマ性を、思い知っていたところである。
「片倉先生まで…」
「ああ、あの先生も、すっごく上手かったねぇ。本当にすごいよな、君ら。高校生にゃ、とても見えない。外見も」
「そうでございまするか…っ?」
幸村が嬉しそうに見返してくるので、彼だけは年相応に見えることは、隠すことにしておいたコーチ。
「明日は、彼らと同じ班に入って大丈夫だよ」
釣られたように、笑いかけた。
「真にございまするかっ?」
幸村は、パッと顔を明るくし、
「ありがとうございまする!これも、コーチ殿の教えのお陰…っ。某、コーチ殿の班になれ、本当に幸運でございました!」
と、テーブルに着きそうなほど、頭を下げてくる。
つくづく変わった子だと思う彼だが、愉快な気持ちしか沸いてこないのが不思議だった。
「…君、モテるでしょ」
「はっ?モテ…!?」
目を白黒させ、うろたえる幸村。
「は、破廉恥な!──あ、いえ。某など、とても…」
破廉恥?と首を傾げながらも、コーチは意外そうに、
「いやいや、絶対そうだと思うよ?イケメンだし、面白いし」
「面白い…(──佐助にも、以前言われたような…)」
暑苦しい、うるさい、などは十八番でござる、と言えば、彼は本当に楽しそうに笑った。
「何ていうか…可愛いんだよなぁ。だからなんだろうね」
(はぁ…っ?)
幸村は、ポカーンとしてしまう。
…よって、少しも怒りが湧かなかった。
しかも相手は、呆れるほど爽やかな笑顔でいる。
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