スキー研修@-3









『…こっちは近付きたくて、たまらないってのに…』






……夢を見ていた。



浮かぶのは、笑う顔。
いつものように、温かく…


しかし、その瞳は──






ガタン、と席が揺れ、ハッと目を覚ます。


「お、起きたか?爆睡してたな」

隣の元親が、からかうように笑った。


「…つい…」

幸村は、笑って何度か瞬き、頭を軽く振る。

静寂に包まれる、周囲。
自分と同じような者が、多数であるらしい。

それから、通路を挟んだ斜め前の席に目をやった。…シートに流れる、長い髪。



──待ちに待った、スキー研修。

高速バスで向かい、夕方に到着するので、一日目はホテルに泊まるのみ。
明日・明後日がスキー本番で、とどのつまりは、三泊四日の旅。
最終日は、今日と同じく、ただ移動するだけであるが。


『旦那、やっぱ窓側が良い?』
『佐助の好きな方で良いぞ?』

『俺様はどっちでも、あ…通路側のが良いかな』
『では、そうするか』

『…の方が、景色見せてって、自分から密着できるよなぁ…』
『え?』
『いや、何でも』

『Hey、どけ猿。俺がそこ座る』
『やめてよ、んな危険なこと許せるわけ』

『テメーの方がだろーが!聞こえてんだよ。こいつが知らねーからって』

『何の話ぃ?分かりやすく言ってくれる?』
『…オゥオゥ、そー来るか。上等だコラァ』


いつもの光景だな、と思いながら、スケジュール表など見ていると…

次に気付いたときには、元親が隣に座っていた──という。

慶次と政宗が斜め前に座り、前の席には、佐助と元就。


「幸村、見てみろ、ほら」

何度かの入れ替わりで窓側にいた元親が、カーテンを開け、外を示す。


「おぉぉっ…!」

思わず、身を乗り出してしまう幸村。


どこまでも続く、真っ白な世界。

日が沈んだばかりの、紫の空。
山道になっているので、ホテルはもうすぐだと窺える。

他の宿泊所の明かりや、エントランスに置かれている雪のオブジェが、「リゾート地に来た!」という雰囲気を、一瞬で盛り上げてくれた。


「見事でござるなぁー…」

ほー…っと、溜め息をつき、恍惚の表情で眺める幸村。

元親は吹き出し、「口、開き過ぎだぜ」


(…目も)


子供のようだと言いたいのを、何とか堪える。


「某、このように雪が積もっているのは、初めて見ましたゆえ…。…本当に、サラサラしておるのでしょうか…?」

「パウダースノーってやつな。後で、好きなだけ触れんぜ」

元親も他のメンバーも、全員スキー経験者。
…初心者は自分だけという事実に、軽くショックを受けた幸村だったが。


「綺麗でござるなぁ…」

相変わらずのウットリ顔に、元親は、

「お前のお陰だな」

「え?」


「お前が頑張って、俺らにくれた。…最高のクリスマスプレゼント──にしような」

と、優しく微笑んだ。


「元親殿…」

幸村は、みるみる顔を輝かせ、

「はい…っ!」






「……なぁに、今の……」

「見るに耐えぬわ。迷惑物めが」

「『最高のクリスマスプレゼント』に『しような』…だと!きめぇぇ…。慶次かっつーんだよ」

「ひどッ。クサい言われた上に、キモいまで」


…知らぬ間に、四人が上から覗いていた。


元親は、幸村に笑顔で向いたまま、

「俺の夢はな、いつかこいつらをまとめて、ザビーのオッサンのとこに放り込むことなんだ、幸村」

「はぁ…」


「自分が行きなよ〜。親ちゃんでも愛が手に入んでしょ、きっと」

「我が、良い洗礼名を付けてやろうぞ。お前に似合いの、陰険なものをな」

「早速愛されてんじゃねーか、オイ。良かったな、俺らみてーなダチがいてよ。恵まれてんぜ、お前ホント…ッ?」


政宗の言葉は、ぷっつりと切れた。──他の面々も、息を飲む。

彼らによく見えるよう、元親が向けた、ケータイの画面によって。



……幸村の、寝顔。



「?何でござるか?」

固まる四人を不思議に思い、幸村がケータイを覗こうと…


「だ、旦那は見ない方が良いよ!破廉恥なやつだから!」

「なっ、何とっ?」

「貴様、そのようなものは校則に違反する!我が削除してくれるわ」

「っつって、自分のに送ろーとすんじゃねぇ、元就ッ」

一応は静かな声で、言い争う三人。


やはり変わらぬ光景だ、と幸村はしみじみ思う。


「…後で、俺にも送ってよ?元親」

こそっと頼む慶次の姿に、相変わらず、皆そういうものが大好きなのだな…と、一人頷く幸村だった。













結局、クリスマスにも関わらず、クラス全員が参加していた。

道具は一式レンタル、それも優勝商品の内に入るので、荷物が少なく、非常に楽である。
ただ、オシャレにうるさい者たちは、全員同じウェアということに、少々不満を感じているようだが。

一応、女子と男子でカラーは違う。
研修らしく、派手でオーソドックスな色合い。


「ちょっと、休憩しますかね」

男性コーチが、班員に指示する。


この班である幸村は、なだらかな斜面を見上げた。

リフトの到着地点から、美しいシュプールを描きながら、滑ってくる人々。


(早く、あのように…)


幸村は、羨ましそうにひたすら見つめていた。

数人ずつの班に分かれて、コーチが一人付く。
佐助たち五人は経験者ゆえに、コースも幸村とは違う。
初心者は、下の緩い坂でゆっくり教習である。

運動神経抜群の幸村なので、めきめきと上達し、コーチを驚かせてはいるのだが。
そう簡単に、彼らと同じコースに行かせてはもらえないのが、現実…。

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