スキー研修@-2
「お待たせ〜」
元親と政宗を見付け、慶次は席に座った。
──夜のファミレス。
バイトが終わってすぐにあった、元親からの電話。
帰りに寄れ、とのお達しで…
「元親、夕方はどーもな!…んで、話って?」
ドリンクのみ注文し、座り直す慶次。
「…おう。こいつには、さっき話し終わったとこなんだけどよ──」
…………………
……………
………
「──ってことだ」
「………」
慶次は、しばらくの間、茫然自失としていた。
言うなれば、全身真っ白。…ついでに、頭の中までも。
政宗は苦々しげに、
「あの野郎…どさくさに紛れて、抱き付きやがって」
「…え、そこ!?」
その発言に、思わず我に返る慶次。
「…びっくりだな。…うん、まぁ…『やっと?』って感じだけど」
「ああ…。──と、すまねぇ。俺、もう帰んねーと」
元親はケータイを手に、立ち上がる。
…励ましのように慶次の肩を軽く叩き、店を後にした。
「………」
「………」
何となく無言になる、残された二人。
「…告るんだって」
「Ahー」
「………」
「お前も、すりゃ良いじゃねーか」
あっさり言う政宗に、慶次は目をむいた。
「あいつの言う通り、幸村にはそれ以外無理だろ」
(…そりゃ、こないだ思い知ったって)
慶次は、苦い顔でドリンクに口を付ける。
「余裕だなー…」
嫌味でなく、心から羨ましそうに、政宗を眺めた。
彼は、一つも焦っているように見えない。
政宗は、ハッと笑うと、
「慌てたところで、何の得にもなりゃしねぇ。んなことより、あいつと二人きりになる方法でも考えてた方が、何倍も有意義だぜ」
「…政宗って、本当にカッコいいよな」
「Ah〜?そりゃ、皮肉かぁ?」
慶次は真顔で、「や、本気」
そして溜め息をつくと、
「俺は…やっぱり、すげぇキたわ…。覚悟はしてたけど…」
「だとしても、何も変わんねーんだろ?俺ァ、むしろ燃えたけどな。これからは容赦なく、あいつをシメられんぜ」
「…普段と変わんねーよ、それ」
慶次は、眩しいものを前にするような顔になり、少し笑った。
「──……」
そんな彼を、政宗はじっと見ていたが、
「…俺は、お前とは違うからな」
「えぇ?」
「俺は、はっきり言って、昔よりも遥かに惚れてる。まぁ…こんだけ馴れ合えたんだ、そのせいもあるんだろーがよ」
「お、」
(俺だって…っ)
「まぁ聞けって。…俺は、昔できなかったことを、やれてんだ。ひたすらに惚れて、想いをぶつける。向いてもらえるように。ただ、突き進むことができる。何故ってな…」
政宗は一呼吸置き、
「お前と違って、全部が初めてだからだ。…俺は、あいつに相手にもされなかったし、振られてもねぇ。なもんで、今あんのは、伝えられた喜びと、楽しみだけ。
幸村から聞いたろ?…振られても、一生ダチでいることは止めねぇって言ったって」
「うん…」
「──お前は、俺とは全然違う。一度振られて…しかも、望みはあったかも知れねぇのに。だから、怖ぇんだろ。…今度は『ダチに』なんざ、無理だって思ってんだろ?」
「………」
慶次は微笑み、
「…やっぱ、すげぇや。政宗、すげー真っ直ぐで、潔い…」
と、目線だけを下に向けた。
「それだけじゃないよ。…俺なんかさぁ、お前らよりも、ずーっと見てたんだぜぇ?二人の、ラッブラブな姿。そりゃあもう、幸せそうで…。さっけなんか、デレデレで。
幸の幸せは俺のでもあったから、見る度嬉しくて。…そんな二人を見るのが、俺は大好きで…」
「………」
「──何だよ。そうなるなら、出会ってすぐ惚れてろよ。自覚しとけってんだよ、今になってさぁっ…!
だったら記憶なくても、幸はさっけに惚れてたよ、きっと!そしたら、俺だってこんな…」
(──っあ)
慶次は、ハッと、
「ちっ、違う!今の嘘!俺っ…」
「Ah〜…何だよ、もう終わりかぁ?」
政宗は笑って、「オメーのheat upなんざ、なかなか拝めねーってのに」
「──……」
慶次は額に手を当て、俯いた。
「…最低だ、俺…」
(何言おうとしてたんだよ…)
『だったら、諦めついたのに』?
『惹かれることなんて、なかったのに』?
『苦しむことも、なかったはずなのに』?
(ふざけんなよ…)
己の情けなさに、じわじわと怒りが沸いてくる。
慶次の握られた拳を見て、政宗は苦笑いし、
「お前って、やっぱ変わってねーな」
「ええ…?全然違うって。…すげぇダメだよ。ガキだし…」
「…俺みてぇに、自分のことしか考えなきゃいーのによ。馬鹿が」
「ひでぇ。…てか、俺だってそうだよ」
(──そうだ。元親と元就の前で、誓ったんだ。…今度こそ、振り向かせるって)
俺が、幸せにするんだ、…って。
「…ちょっと、ヘコんだだけだよ。俺、お前に負けねーくらい、ポジティブなんだから」
慶次は、恥じ入るように言った。
「んな調子じゃ、持たねーぜぇ?」
ニヤニヤ笑う政宗に、若干睨んで返す慶次だったが、
「ありがと。…やっぱ、お前はカッコいいよ」
と、いつもの彼らしく笑う。
「相変わらず、クセぇ奴…」
政宗は顔をしかめるが、その目と口だけは、確かに笑っていた…。
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