瞳5




「――ああ、いつの間にか下りになっておりまする。慶次殿、ちゃんと景色をご覧になられましたか?」


「…っああ、見たよ。――すっげぇ……綺麗だな」



「いや、見ていなかったでござろう?」


「見てたよ……」



「…?」


慶次がずっとこちらから視線を戻さないので、幸村は上半身をよじり、自分の後ろに見える外を眺めた。


「――まあ、なかなかのものですが、やはりこの窓からの方が――」

と、姿勢を正すと、「…慶次殿?」


慶次が隣へ来ており、幸村は面食らい見上げる。


「こっちのがよく見える。…良い?」

「あ、では――」


幸村が慶次のいた側に行こうとしたが、その手をしっかり掴まれ、引き留められた。


「一緒に見よ。…隣で」


「しかし…」


傾きませんかな、と幸村は車内を見渡す。

慶次は笑って、


「大丈夫だって!んなヤワじゃないよ」


「……では」


――大人しく座り直す幸村。


しばらく温かい西陽に照らされたせいか、慶次が隣に来たからか、身体がぽかぽかして段々と瞼が下がってきそうになる。


「…眠そう」

「いや、そんなことは!」

必死に否定するのだが、自分でも不思議なほど睡魔が――


「あのさ、…俺の瞳って、どんな?……おかしくない?」

その質問に、幸村のまどろみは一瞬薄らいだ。


「いえ!――某でも分かるほど……真剣で。…感心、致しまする」

「感心?…それ、俺喜んで良いこと?」


「は、い。……とても熱くて――別人のようで。でも、優しくて…。ああ、すごく想っておられるのだな――と」


「――うん。……すごく好きなんだ。どうして良いか、分からないくらい」


「は……」



「昔は、もっと相手のことを考えられてたはずなのに。…今の俺、てんでダメだよ……」


辛そうに歪められる顔に、幸村も釣られる。


「慶次殿はダメではござらぬ…!――そんなに思い詰めないで下され。某は、味方だと申したではありませぬか。某の頭では、少しも力になどなれぬかも知れませぬが…。何でも言うて下され、慶次殿…」


(いつものように、笑って下され。そのような顔…)



「……ありがと。――ごめん」

慶次は照れたように笑い、


「でも、気付かなかったなぁ……そんな瞳をしてたなんて」

「あ……その…」


――失言だっただろうか。


「いや、ただちょっと恥ずかしかっただけだからさ」

「あ――はい」


外では、地上が近付いてきている…


「…どうしても出ちまうんだろうな。…幸の前だから」

「――え?」


「あ、さっけたちちゃんと来てるよ、ほら」

慶次は、またいつものような温かい笑顔になり、


「付き合ってくれて、ありがとな」


「は……い……」


先ほどの言葉は、どういう意味だったのだろう…


考えようにも、再び睡魔――今度は遥かに強い――に襲われる。


「幸?…」


慶次のその声から先は、幸村の耳に届くことはなかった。







*2010.冬〜下書き、2011.8.1 up
(当サイト開設・公開‥2011.6.19〜)

あとがき


ここまで読んで下さり、ありがとうございます!

忘れるんなら、自分の気持ちを言ってみようかな…とサウナでふと考えた慶次。でも虚しいだけだし、フラれるだけじゃねーかと。
で、得意の?ストーキング。もちろん幸村がトイレから出て来るの見計らってましたよ。男二人の観覧車?あり得ん!しかし、幸村はそんなこと知らないから平気♪幸運にも客はほぼゼロ。チケット担当者はおじいちゃんだったので、オールオッケー(^q^)


慶次がいなければ、元親も少しグラッとしたかも知れませぬ(^m^)

幸村をモテモテにしたいがためのこの長編♪

もう謝りどころが分かりませんスミマセン;あり過ぎて。
次回でやっと、惚れ薬編は終了でございます。


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