瞳3
「――よお」
先ほどのベンチから少し離れた場所で、元親は政宗たちを出迎えた。
そこから見える大観覧車を臨んでいたらしい。
「せっかくだから、乗ってくか?」
「……」
元親の、明るく言うがどこか元気のない顔に、政宗も元就も憎まれ口を叩くことができなかった。
幸村はトイレに立ったらしく、彼一人である。
「――親ちゃん…約束が違うじゃん。何で……」
まだ、やや放心状態に近い佐助が呟いた。
「すまねえ…」
「どうして――あれは、薬のせいなんだよ?旦那の本当の気持ちじゃないんだから。…信じらんない……てか、バカじゃない?嘘に対して、マジに答えるなんて。本気で惚れられたと勘違いしてない?ねえ」
(…うわ、久々にキレてんな、こいつ)
政宗は、その刺すような言葉と冷え冷えした瞳から、馴れ合う以前の佐助のことを彷彿させていた。
「…まあ、そう言われるよな」
元親は苦々しい顔で、「安心しろ、んな自惚れちゃいねーから」
「じゃあ――」
「ただよ、…どうしても言えなかった。あの顔を前にすると――分かってても、嘘つきたくねえって思っちまって。あんな真っ直ぐなあいつの心が、明智のせいで捻られたことにムカつくと同時に…これ以上騙したくねぇよって…。気付いたら、ああ言ってた」
元親はもう一度謝り、
「…殴ってくれて良いぜ?約束破った上に、幸村に嫌な思いまでさせちまった…」
佐助の腕を掴み、自分の方へ導くが、
「――もう。…これじゃ、思い切り俺様が悪者じゃん」
と、諦めたように溜め息をついた。
「んなことねえ。…お前はただ、幸村に笑って欲しかったのにな」
「…そうだよ。――皆だって、我慢してたのにさ」
佐助は軽く睨み、
「……ま、親ちゃんらしいっちゃらしいけどね。旦那も最後は…嬉しそうだったし」
「そうだな、あのフォローは良かったぞ。礼を言ったり、気持ちは嬉しいだのと…」
「いや、あれも本心だけど」
―――………
しばし流れる沈黙。
「――んだよ、結局自惚れてんじゃねぇのか?」
「…よくよく考えてみると、思わせ振りな態度であったな。まさか貴様、本当に――」
「親ちゃん……?」
殺気立つ三人に、元親は、
「だから、殴れっつったろ。…しゃーねーだろ?違うと思いながらも、嬉しかったんだからよ…!」
「よし、今度こそ歯を食いしばるが良い」
「でも、お前らみてぇのなんかじゃねーぞ?てか、断じて違う」
「親ちゃん…頼むよ、ホントに」
「おいコラ。この目を見ろ、嘘ついてるように見えるかぁ?」
蒼い目をぐん、と近付けて憮然とする。
それを見ていた佐助は、ふとあることを思い出した。
「そういやさ、旦那……親ちゃんの気持ち分かってた――って、ホントかな」
「あれだろ、俺がよく合コンとか行ってっから、相当女好きと思ってたんじゃねーか?」
「や、それは正しい見解でしょ」
「あれは、交友を広げようとだな…」
「いつもそればっかり!俺様という嫁がありながらッ」
「…おい、いきなり入んなよ」
「佐助、また噂が広まるぞ」
「いーよ、もう。孫ちゃんの誤解は解いたし、他の連中に何言われよーが、別に困んないし〜」
「俺が困るわ!!」
「――つか、慶次は?大丈夫か、あいつ」
政宗が、一向に戻る様子のない彼をさすがに案じ始めた。
「…一人になりたいのではないか。大分煮えたぎっていたようだったからな」
「明智の野郎んとこに乗り込んでんじゃ…」
佐助も、慶次のあの顔を思い起こすと、あながちないとも言い切れないような気がしてくる。
「ま、その内戻るっしょ。――親ちゃん、覚悟しといた方が良いかもね」
「……歯、食いしばっとこ」
四人は、大観覧車を見上げた。
「旦那、乗りたいかなぁ」
「絶叫系が好きみてーだから、要らねぇかもな」
「あれ、一周に結構時間食うぜ」
「デートで乗った?」
「女って、あーいうの好きじゃねぇ?」
「そうなんだろうね〜。俺様、遊園地デートしたことないから、分かんないけど」
佐助はケータイを取り出し、
「今、五時前。…もうすぐ、薬が切れる頃だと思うんだけどなぁ」
続けて、着信音が鳴った。――音は、佐助の物一つではない。
「……?」
全員がケータイを手に取ると、「…メール、慶ちゃんからだよ」
「なになに?――『幸と……』」
「『観覧車乗ってくから、』」
「『乗り場で待ってて』……」
「………」
四人はもう一度観覧車を見上げ、飛び出すように走り始める。
乗り場に着くまで、政宗と元就は、慶次に対して始終悪態をついていた…。
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