波紋4







カチャカチャ

トントントントン……


朝食を作る音が、遠くで聞こえる。


最近、かすがにばかりやらせている…休みの日くらい、俺もやらなければ――

まだ眠れそうな頭を奮い起たせるように、幸村は目を開けた。


「――……」


(ああ、そうか――)

……昨日は、佐助の家に泊まったのだった。



「佐助、おはよう…」


リビングで寝ている他の皆を起こさぬよう、静かにキッチンの方へ声をかける。

その際に、チラッと布団の中から銀髪が覗くのを見てしまい、幸村の目は一気に覚め、顔が熱くなった。


「あ、おはよ〜。まだ寝てて良いのに」

「いや、充分寝たから――!顔、洗って来るッ」


赤い顔を隠すように、リビングを飛び出した。

バシャバシャと冷たい水で洗うといくらか治まったが、自分でも分かるくらい……ほんのり桃色。

(は、はれん――いや、恥ずかしいと言うべきだな、これは)



……昨日から、自分はおかしいのだ。


元親を見る度、胸が締め付けられるように痛む。

彼が笑うと自分もひどく嬉しくて心臓が飛び跳ねるし、先ほどのように顔が熱くなる。

優しくされるとさらに、浮いているのではないかというほど、フワフワしてしまう。


(何なのだ、これは……)


くすぐったいのに、……苦しくてたまらない。

どうすれば治まるのだ――…一体。












「はい、カフェオレ」


テーブルに座ると、佐助が温かい笑顔でカップを差し出した。

二人分の朝食も用意されており、薄情にも皆より先に食べてしまおうという気らしい。

幸村は知らない。――豪華なラインナップは、彼だけのためにしか作られていないことを。


「ありがとう、佐助。…何だか、元気が良いな?」

珍しく、佐助がウキウキ(?)しているので、幸村は自分の悩みから意識をそらすことができた。

「えっ、そーかな?」
「ああ。…最近、少し疲れていたみたいだったから、ちょっと気になっておったのだが」
「………」

佐助の表情は、変わらなかったが…


(――俺様、どんだけ学習能力ないんだろう。もしかして、自慢のポーカーフェイス、下手になってんのかな…)


軽く落ち込みそうになるが、


でも、それも昨日で終わり…!モヤモヤにやっとケリつけられたんだから、今日からは旦那にそんな心配なんて、させやしないぜ!

――と、心の中で声高らかに宣言する。


「最近、寝不足気味だったからかな?昨日はぐっすり眠れたからさ〜、もう大丈夫だよ。ありがと」

「そうか……ならば良かった」

安心したように笑う幸村に、


(旦那は、こんなときでも優しいなぁ…!)


佐助は久方振りの幸せを噛み締める。



「…ねえ、旦那。あの約束覚えてる?」
「約束?」
「うん」

佐助は笑顔のまま、「好きな人ができたら教えて?協力するからさー、ってやつ」


「!!」


幸村は、危うく口の中のものを吐き出してしまうところだった。


「な、な……!?」

「今が正にその状況じゃん?相手は聞かなくても分かってるけど」
「は、あ…ッ?佐助、何を言って」

「だから、親ちゃんのことが好きなんだよね?旦那」



「……………え?」


完全に固まる幸村。


「あれ、もしかして分かってなかったとか?――恋だよ、それ」


「――――こ、い」


「うん。かすがちゃんが上杉先生にしてるヤツ」


「……!!」

ガタタッと椅子を後ろに下げ、思わず立ち上がる。


「な、何故……ッ」


「や、何故も何も。昨日、親ちゃんのハチマキ欲しがってたじゃん。バレバレ」

「――あっ……!?」

自分でも驚いたように、目を丸くさせた。


(…薬の力が発揮されたばっかで、暴走してたのかな…)


佐助もそう思うことで、自己解決しておいた。


「……これが――恋……」
「ん、とにかく座って?旦那」
「ああ…」

ぼぅっと、まるで魂が抜けたように幸村は再び座るが、


「佐助……」

と、今度は潤んだ瞳を向けてくる。


「だ、旦那…」

――佐助の頭に、納涼祭後のことがフラッシュバックする。


(ど、どうしよ…!俺様、んなヒドいこと言ったっけ…!?)



「こ、恋とはッ、……かように苦しいものなのか!?」



「――え?」


(……何ですと?)


理解の遅れた佐助の前で、幸村は切なそうに顔を歪める。


「かすがや姫殿は、ものすごく幸せそうであったのに…。――いや、俺も幸せなのだがッ」
「う、うん」
「だが、同じくらい……苦しい。――ここが、ギュウッとなるのだ…」

「……ギュ…?」



それって…俺様もよくなる、就ちゃん曰く嫉妬の…?

いや、でもこの旦那がぁ…?――あの、アイドルに対して?


てか、昨日俺様、嫉妬するとこじゃないのに痛かったのは、アレどうして……

(――じゃなくて!今は旦那の話…!)



「え、と……ドキドキするんじゃなくて?」
「……それも、する」


(わあ……聞いてるこっちまで赤くなりそ)


旦那、ごめんねー…俺様の方がまだ経験したことないから、偉そうなことは言えないんだけど…


「提案なんだけどさー…」

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