波紋3






「――とりあえず、一発殴らせろ?」

「歯を食いしばるが良い」


完全に目がイッている政宗と、これ以上ない冷徹な表情の元就が言った相手は、もちろん――


「ちょっ、おい!俺は、ただ頼まれた通りに――」


ボスッ!

バフッ!!


元親は二人の手を避けはしたが、代わりに彼の座っていたソファが悲痛な叫びを上げる。


「……ッ」

ぞぉぉっ、と青ざめ、

「あんまりじゃねぇ?俺、悪くねーのに」


「うるさい、黙って殴られるが良い。そんなことは百も承知だが、お前が腹立たしいのに変わりはない」

「元就の言う通りだぜ!テメー、調子に乗り過ぎなんだよ!」

「乗ってねえ!!お前ら、歪んだ目で見過ぎだバカ!!」


「そうだよ、二人とも…。ちょっと落ち着きなって」

「……と言いつつ、その手は何だ?慶次」

「え?」


顔をヒクつかせる元親に、慶次は慌てて手を引っ込める。

「や、やだなー!んな、殴るわけねーじゃん!」


(…無意識…!?)



「おい佐助、こいつらどうにかしてくれ。そもそも、お前が俺に決めたし、頼んだことなんだからよ…っ」



「えーっと…」




――夜の十二時を過ぎて、幸村を除く五人は猿飛宅のリビングにて集まっていた。

幸村は、和室の方で一人早くから寝静まっている。
昼間あれだけ全力で運動していたのだから、当然の結果であろう。

かくいう彼らも、欠伸を噛み締めていたところ。布団の準備はできているので、いつでも寝られるが…


「とりあえず、ウチのソファ壊さないでよ?」
「俺の心配は!?」

「だから、『お願い』っつったじゃん。…こういう目に遭うのも含めて」


真っ青を通り越し、真っ暗になる元親。


「サギだ!俺は必死に…!…俺の意思じゃねぇのに」

その一言に、元就はピクリとこめかみを動かす。


「…何だ、幸村に好かれては迷惑だとでも申すか?元親のくせに」
「俺、どんだけ格下っ?」

「Hey、今すぐ俺と代われ」
「何言ってんの、こいつ?どうやってだよ」

「Shit!知らねぇよ、どーにかしろ!てか、満更でもなさそうだったじゃねぇか。鼻の下伸ばしてよォ」

「伸ばしてねぇぇ!!お前と一緒にすんなァァ!!!」




(――……何、コレ)




佐助は、目の前で繰り広げられるやり取りに呆れ返っていた。

どいつもこいつも幸村のことが大好きで、一つも隠そうとしていない。
しかも、既にお互いの気持ちをよく知り得ているようではないか。

元就も政宗も、他言していないと思っていたのに。前者に関しては、恋愛感情ではないはず(と思いたい)なのに、このブチ切れようといったら。



(……何だ)


――なら、もう……俺様も、気にすることないじゃん。


ゴチャゴチャ考えて悩んだり、ためらったりすんの…もうやめよう。



(…思う存分、これからも旦那の一番の場所を獲り続けてやる)



慶次にも政宗にも劣らぬほどの執着――を、今まで以上に、さらに……甘く優しい形に変えて。
幸村が好む、甘味にも似た…


『恋人よりも、佐助と一緒のときの方が落ち着く』――とかってな。


まだ見ぬ幸村の恋人に対し優越感に浸り、口角が上がりそうになる。


その心を得るためなら、いくらでも優しく、理解のある、一緒にいて退屈することのない……そんな理想の人間になってやる――





「さっけ、元親が大ピンチ」


現実に戻ると、元親は幸村の枕元へ避難しており、


「幸村を盾にするとは…カスめ」

などと、あまりに辛辣な言葉を受けていた。


「ハイハイ、まーくんも就ちゃんも、その辺にしたげて。旦那、寝てるから」


渋々ながらも戻る二人に、

「……ッ、理不尽だろっ…」

もはや、元親は涙ぐみそうな雰囲気である。


「悪いのは親ちゃんじゃなく、あの変態でしょー?仕返しと、あの薬撲滅する算段、考えといてよ?
……明日もあるし、もう寝よ?」


眠気と戦い、元親と(翌日まで)離れるのを抗う、あまりにいじらしい幸村の姿に、

『明日は、皆でどっか出掛けない?…遊園地、とかっ!?』

と、つい言ってしまうと、次に見られたのはやはり満面の笑みで。

元親と二人で、の方が良かったか、とも思ったのだが、


『皆で遊園地…!楽しみでござる!』

ギュッと目をつむり発せられたその言葉は、到底嘘には聞こえなかった。
そのことには、もれなく全員が胸を温めたはずである。



「ま、ホント一途だったもんねぇ。妬かれるのは仕方ねーわ、親ちゃん」
「……こいつらのは、んな可愛げのあるもんじゃねえ」

元親は、ぐったりと布団に身を沈める。


「――とか言って、ちょっとは心動いたりしたんじゃないの?……幸、犯罪的に可愛かったし…」

「……くぉら、テメーまで何言ってやがる?」
「やっ、冗談!ごめん!」

ごまかすように笑う慶次だが、その顔は明らかにホッとしていた。


「明日までの辛抱だよ。…旦那のために、皆頑張って」

それを言われると、皆も元親もめっぽう弱い。


…一方、佐助は色々スッキリでき、久々に熟睡できそう――と、まどろむ頭の中で思っていた。

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