再会2

先に女子生徒、続けて男子生徒が入り、教室がシンとなる、
…それもそのはず。

スラリと伸びた手足に、制服の上からでも分かるメリハリのついた身体つき。それに、透き通るような肌の白さに金の髪、琥珀色の大きな瞳に小さな顔。
ほぼ全員が、その女子生徒の美しさに釘付けになっていた。

…雑賀ちゃんが洋画に出てくるようなお姉様スタイルとしたら、こっちはモデル系…ただし胸の大きい…

瞬時に分析する四人であったが、

「あー!!」

佐助と慶次は、思わず立ち上がった。

「…!あっ…」

二人を見た男子生徒が、目を丸くした。

さっきこそ話していた少年――真田幸村が、学園の制服を身にまとい、立っているではないか。

「ああ、お前ら知り合いか?――ま、後でゆっくりやるんだな。…じゃ、軽く自己紹介頼む」

女子生徒の方は、『真田かすが』というらしい。落ち着いた物腰で、クールな雰囲気である。
「双子?」という質問が出るが、

「いえ、双子ではありませぬが、兄妹でござる」

と、幸村ははっきり答えた。

その喋り方については、誰も変に思っていないようだ。やはり、佐助たちと同様、柔軟性が高い。

なるほど、誕生日が年度の始まりから終わりまで離れている兄妹というわけか。顔はあまり似ていないが…

「一時間目は自習だそうだ。毛利、頼むぞ。…良い機会だから、新人にここのことを皆で教えてやれ」

毛利、と呼ばれた彼は、「はい」と短く応じた。
幸村は、チラッとそちらを見てからすぐに視線を戻す。

クラスの委員長、毛利元就。
佐助たちよりも細身で、冷たく感じるほどの切れ長の目と端正な顔立ちは、表情を変えることが、ほとんどと言っていいほど、ない。
今期から生徒会長の座にも就いた非常に優秀な頭脳の持ち主なのだが、人付き合いというものに関心は皆無らしく、どこか周りから遠巻きに見られている。

小十郎が出て行くと、すぐに新人の周りに人だかりができた。

佐助たちも早速その中に入る。

「あ、昨日は――」

幸村が腰を上げた。

「そうそう、お前たち知り合い?」

がっしりとした体躯と短髪に、人好きのする笑顔を絶やさない少年が、二人に言った。
クラスの中でも明るく目立つ存在の、徳川家康という生徒。四人とも仲の良い友人の一人だ。

「うん、昨日知り合ったばっかり。まさかウチの転校生だったなんて」

佐助は、改めて昨日の礼を丁寧にした。

「いや…!それより、体調がすぐれないようだったが、いかがであった…?」

幸村は、本気で心配していたようである。

(本っ当に良い人なんだなー…)

その顔を見ながら、佐助はぼんやりとそう思うも、少々くすぐったい気分になっていた。
もう大丈夫だと笑みとともに伝えると、幸村もホッとしたように微笑む。


…俺様ってば、何でこんなに喜んでんだろ…

柄にもなくない?と、自身に尋ねてしまうほどだ。


「これからよろしくなっ、ゆっきー!」

慶次がニカッと笑いかける。
いつの間にそんな話になっていたのか…

「ゆ、ゆっきー…?」

どうやら本人の許可はスルーだったようで、幸村は戸惑ったように慶次を見る。

「うん、気に入らない?呼んじゃ駄目?」

寂しそうな表情を作る慶次。…これは、女の子によく使う、彼の手であるのだが。

「あ、や、その…っ、何と言うか、……女子のようではござらんか…?」

素直で疑う心を持っていなさそうな彼には、効果てきめんだったらしい。

「んなことねーって!――じゃ、ゆっきーは時々にすっから。よろしくな、幸!」
「は、はぁ…。分かり申した、前田殿。よろしゅうお頼み申す」

慶次の押しの強さに幸村は頷くが、下の名前で呼んでと請われ、

「で、は…慶次殿?」
「……うん!」

満面の笑みを浮かべる慶次。

「よー、俺らともよろしくな」

政宗と元親が遅れてやって来た。
先にかすがの方に挨拶…もとい、チェックでもしに行っていたのだろう。
周りが、『学園名物、眼帯コンビ』と、幸村に紹介する。
幸村の印象は二人にも好感触だったようだった。

わいわいと時間が過ぎ、休み時間まであと少しというとき――


「放課後、時間は空いておるか?」

急に、元就が輪の外から幸村へ話しかけた。…何となく、皆静かになってしまう。

「は、い…!大丈夫です…が」

幸村は慌てて立ち上がる。

「学園内を案内する」

と、元就はかすがの方にも向くが、

「毛利さん、かすがさんは私がバシッと案内しますので、大丈夫ですよっ」

可愛らしい声とともに、ぴしっと手が挙がる。
小柄でボブヘアーの美少女が、ニコニコとこちらを見ていた。
瞳がクリッと大きくて少し幼くも見えるが、クラスの副委員長でもある、河野鶴姫という生徒だ。
その天真爛漫な性格――少し思い込みが激しく暴走することも多々あるが――から、『姫』と呼ばれ、男女問わず人気がある。

彼女の隣には、セミロングの赤茶色の髪の、すっきりした美人――雑賀孫市が立ち、元就に頷いてみせる。
二人は生徒会で顔なじみなのだ。


「分かった。…では、放課後に」

彼女たちと幸村へ端的に言い、元就は席へ戻った。

「はい!ありがとうございまする!」

元気良い大きな声に――その顔は、嬉しそうだ。


(…案内なんて、俺らがやるのに)

そう思った佐助と慶次だったが、やはり相手が元就となると少々大人しくなってしまう。

代わりに、一緒に帰る約束を取り付け、ひとまず満足した二人だった。

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