災難3


「……おや?」


幸村の前にひざまずいていた光秀が振り返り、何でもないような顔で彼らを見やる。


五人の目に入ってきたもの――それは……


幸村を椅子に座らせ、その膝に顔を寄せていた、変態としか言いようのない姿。
しかも、幸村はあの赤いハチマキで目隠しをされているという始末。


「なっ、なな、何を――ッ!?」


「――慶次殿……?」


一番声が大きかったからだろうか、幸村がその声に反応した。


「皆来てるよ、旦那!――ってか、」
「これは一体…」

「てめぇ、明智ィィ!何してんだコラァッ」
「Shit!こんの変態が――」


あまりの状況に、目の前の人物が教師だということすら忘れてしまう元親と政宗。

――というより、初めから思ってもいない。


「何か、誤解されていませんか?私はただ、彼の怪我の手当てをしていただけですよ」

ほら、と幸村の膝小僧を見せる。

擦りむいていたらしく、少し血が滲んでいた。


「あっれ、旦那!いつの間に!?」

見逃していたとは、不覚――という気分である。


「最後の方の障害物競走で、知らぬ間にな。…いや、これは明智先生との約束だったのだ」
「約束…?」

ああ、と幸村は頷き、


「借り物競走のときにな、ともに走ってくれる代わりに、怪我をしたら保健室に必ず行くという――」

「そんな約束しちゃったのっ?…てか、交換条件出すなんて、アンタどんな教師だよ」

思い切り睨む佐助に、他四名も深く同意する。


「旦那、ちゃんと手当てしてもらったの?何か、声聞こえたけど――」

おかしな、あの…


「唾液には、消毒効果が…」

光秀はペロリと舌舐めずりし、


「美味しかったですよ。――若い血は、やはり良い」


――ぞわわっ……


五人の背筋が粟立つ。


「まともにしろよ、テメー!唾液はバイ菌入るって聞いたぞコラ」

ほとんどキレ気味に、元親が消毒用アルコールを棚から取り出す。


「親ちゃん、思い切りかけて浄化してあげてッ」

佐助も、おぞましいものを見るかのように、冷たい視線を光秀に送る。


「こんなものまで着けおって…」

元就が目隠しのハチマキを取ろうとすると、


「あ、ちょっと待って下さい」

と光秀は、どこから持って来たのか、ヘッドホンを幸村の耳に当てた。
デジタルオーディオを操作し、音楽を流し始める。


「先生?」

驚いたように尋ねる幸村の、ヘッドホンを少しずらした耳元へ、


「ちょっと聴いていて下さい。すぐに外しますから」

と囁くと、五人を自分の方に近寄らせた。


「Hey、ありゃ何だ?」
「ヘビメタです。私の趣味でして」


「いや、そういうことじゃなくって」

さすがの慶次も怒りを露に、

「幸は、何で目隠しなんかされてんの?」



「実はですね……」

光秀は、クスクスと楽しそうに理由を話し始めた。












「――冗談でしょ」
「……だよな?」
「うん――」

「まさか……」
「いや、しかし――」


五人はもう一度光秀を見るのだが、その顔はニタニタ笑っていて、嘘か真か全くもって計り知れない。



「……そんな、薬なんて」





――光秀の話は、こうだった。


一体何の目的で作ったのかは分からないし、知りたくもないのだが、彼はいわゆる、


『惚れ薬』


……なるものの制作に成功したのだという。

もし本当ならば、犯罪ものなのだが。…にわかには、信じがたい話。

だが、彼の逸話は、単なる噂としてはあまりに現実離れしたものばかりであったため、もしかしたら本当なのかも…?という気にもなってくる。

だいたい、本人の見てくれから怪しい上に、アブない。
いくら、この学園が変わっているとは言え――


「信じて頂けなくても結構ですよ?今、誰に最初に見せるか、考えていたところだったんです」

ククク、とイヤらしく笑う顔は、やはり鳥肌もの。


――確かに、この学園では他にも常識外れなことが、多々起こってはいるのだが。

例えば、家康の家は財閥で、父親は小さなロボットから宇宙ロケットの開発まで手掛ける一大グループのトップを担っているのだが…

…そこで改造された?のだろうか、――家康の、幼い頃からの執事役でもある、本多忠勝という人物は、実はサイボーグだとかアンドロイドだとかいう噂がある。

これがまた結構信憑性が高く、人間離れしたパフォーマンスを彼は頻繁に見せており、残念なことに五人はその体験者でもあった…。

家康が心配で仕方がないのか、初等部からずっと一教師として一緒に上がって来ているので、目撃者も当然増えていった結果だ。


…そんなものが日常のここ――ならば。

惚れ薬だのという、馬鹿げたものもあるいは…


鳥の雛の『刷り込み』のように、一番最初に見た者に惚れ、効果は一日。…まだ、開発途中であるらしい。

副作用などは誓って無い、とそこは強調していた。


「記憶はぼんやりしたものになるので、効果が切れても本人が恥ずかしい思いをすることはありません」

「――あ、そう」


「鏡を見せても、無駄ですよ?あくまで他人に対して発揮されるのです。見てから一日…という意味なので、飲んで時間が過ぎても薬が消えるわけじゃありません。…だから、むしろ急がないと」


「……」


ごくり、と五人は幸村を気の毒そうに眺めた。

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