災難2


「ハチマキ……交換?」


何の話か分かっていない幸村が、首を傾げると、


「あ、このハチマキもらえるんだけどさ、体育祭終わった後、相手のヤツをゲットできたら両想いになれるとか、自分のと交換できたら、オッケーもらえたってことだとか、妙なジンクスがあんのよ」


「……?」


キョトンとしている幸村。


(…あ、分かりにくかったか)


「つまり、ハチマキ交換すんのは、そのコのこと好きですって言ってるみたいなもん」


「――ぬ、ぁ――ッ!?」


破廉恥、とは叫ばなかったが、幸村の顔はみるみる赤くなる。


「…おっ、俺もハチマキのことを聞かれた…っ!終われば、どうするのかと」


「「な、何ィ!?」」


見事にハモる、慶次と政宗の声。


「んでっ?幸どーしたのッ?何つったの!?」
「まさか、交換――」

「い、いえ!」

幸村は慌てて、


「…転入して、初めての体育祭でござろう?それも、某の大好きなこの色。…良い思い出になるので、記念に大切にとっておきまする、とお答えし申した」


ほー、と安堵の息をつく二人――に加え、心の中で密かにした佐助と元就。


「それに、皆と一緒のこのハチマキ……今日まで頑張って参りましたのに。いくらどのような相手とは申せど、渡せられませぬ」

好きな、とは恥ずかしくて言えないのだろう、少し照れたように頬を染めるのだった。


「もちろんだ。我もそう思い、断ったのだ」

しれっと言う元就に、


(このやろ――)


目で悪態をつく彼らだが、


「……俺も、そうしようと思ってたとこだ」

と、政宗。


「俺なんか、誰も言ってくんねーし!」

慶次が泣きむせぶ真似をすると、


「奇遇ー。俺様もだよ〜」

苦笑いする佐助だが、実際は二人とも陰で何人かに言われていたのを、元親は知っていた。


「――俺も。…好きな奴いねーし、こっちのが大事だな」


元親が、ぽん、と幸村の頭に手を乗せ、ニッと笑う。


それに向かって幸村がまた嬉しそうに返したので、辺りはどす黒い妬みの嵐に包まれようとしていた。














「大・勝・利!!」


うお〜!!と叫ぶ幸村や元親、慶次にクラスメイトたち。


これだけの運動神経が良いメンバーが二年生に集まっていたせいもあってか、体育祭は赤組の優勝で幕を閉じていた。


「今日のMVPは、佐助だな!」

幸村は、キラキラした笑顔と、尊敬の眼差しとで佐助を讃えてくる。


「お前が、あんなに足が速いとは知らなかった!だから、普段の練習に来てなかったのだな?冗談ではなく、風のようだったぞ!」


「あは…旦那、褒め過ぎだって」


最後のチーム対抗リレーで華々しい走りを見せた佐助。
終わってから、幸村はずっとこんな調子である。

彼だけでなく、慶次や元親、他のクラスメイトたちからも散々もてはやされ、そうなると逆に図に乗ったことを言えなくなってしまう。
…今まで、こんなことにここまで喜びなど感じたことは一度たりともなかったのだが。

狂喜するクラスメイトたちや、その中心にいる彼を見ていると、たまにはクラスに貢献するのも悪くはないか、と柄にもない思いが浮かんでくる。


(…来年は、もっと他の競技にも参加しようかな)


佐助は、ハチマキを綺麗に畳みながら、こっそり口元を緩めていた。


制服に着替え、明日は振替休日ということで、六人は打ち上げをする予定であった。
これからカラオケで、夕飯ももうそこで済ませてしまおうという気である。


「旦那〜?どっか行くの?」
「ああ、ちょっと明智先生に用があるんだ。先に行ってくれておっても」
「いやいや、待ってるよ」
「すまぬな、すぐ戻るゆえ」

そう言うと、幸村は素早く教室から出て行った。


「明智ってーと、」
「借り物競走、最高だったよな」


本日のイベント的競技の一つ、借り物競走では、物ではなく人――それも教師――が、その対象だったので、それは大いに盛り上がったのだ。

ただ借りるだけでなく、二人三脚をしたり、ユニークな被り物をさせたり、おんぶして走るなど――

幸村は、明智光秀という教師の、その長い銀髪を三つ編みリボンにし、さらにお姫様抱っこして走るという、なかなかの内容に当たった。

初めは光秀が良い顔をしていなかったようだが、了承を得られた後からは目にも留まらぬスピードで、意外と器用に三つ編みにし、自分よりも背丈のある彼を軽々抱き上げ、幸村は見事一位を獲得して見せたのだった。

光秀は、怪しい見た目と笑い方が非常に不気味なのだが、中身も結構な変態らしいと専らの噂である。

教科は生物の教師でありながら、保健医の免許も持つという変わった人物で、生物準備室では夜な夜なおかしな薬の開発が行われているのだとか何とか…

そんな明智に、一体何の…



「――って!」


バッと、佐助を初めに、他の全員も顔を見合わせた。


「やっべーじゃん!」


五人は、瞬く間に廊下を駆けていく。













光秀は、生物準備室にはいなかった。
――と、なると、


彼らは、保健室の前まで足を運び、ゴクッと息を飲む。

『外出中』の札が掛かっているが、十中八九嘘だ。…中に、人の気配もする。



「――あっ……」


中から何やら潜めた声が聞こえ、思わず皆扉に耳をそばだてた。


「…せん、せ……っ、何、を――」


幸村の戸惑うような声に、いてもたってもいられなくなった慶次が、ガラッと戸を開ける。



「――ッッッ!!?」



瞬間、中の光景に五人揃って固まってしまった。

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