Mからの助言3
◆ 第三のM 『認めたくない理解者』◆
「…何っか、腑に落ちねぇ」
政宗が、頬杖をつき呟いた。
見るからにスッキリしないその表情に、佐助は眉をひそめる。
珍しく、佐助から政宗の家に足を運んでいた。
帰りが二人になったので、何となく寄らせてもらったのだった。
「…何が?」
性懲りもなく慶次と幸村の話をしていると、政宗の顔が曇っていくのを佐助も感じてはいたのだが。
「お前の言ってることが。…とりあえず、幸村が女と付き合や良いのか?そしたら、慶次にもあいつに告る権利ができるってか?振られちまえって言ってるようにしか聞こえねーんだけど」
「…別に、そこまでは…。とにかく心配なだけ。普通とは違うし…慶ちゃんが離れたときのことが」
「元就にも言われたんだろー?あいつは、んなことしねーって」
「何の保証があって、そんな…」
「『目は口ほどにものを言う』?――てかよ、まだ何も起こってねぇのに、随分ビビってんのな。幸村がどうするとも分かってもねぇし。……結局よぉ、お前がただ嫌なだけなんだろ?二人がくっ付くのが」
「…違うよ」
佐助は政宗をジロッと睨み、
「――って、もうバレてるかぁ……」
はぁ、と観念したように溜め息をつく。
「『ずっと友達』ってアレか?幸村は、たとえ誰と付き合うことになろうが、その言葉は裏切らねぇと思うけどな。…お前、そうは思えねーの?あいつ、悲しむぜ〜?お前に信じてもらえなかった――って」
「…まーくん」
――たまには、まともなこと言うんだ…
「女だったら許せるのに、慶次は駄目なんてなー。…何でか、教えてやろうか?」
「え?」
だから、さっきから言ってんじゃん、最初が男とかそんな…。俺様は、旦那のためを思って――
そう言い返そうとするが、
「まずお前だが、今まで他人に興味がなかったせいで、ダチも俺らくらい。外面が良いもんだから知り合いは大勢いるが、向こうはダチと思ってても、お前はそうじゃねぇ。これまでの彼女に対しても、同じようなもん――だったよな」
「何いきなり。性格診断?…てか、どっかの誰かさんもそうじゃない?」
小馬鹿にしたように笑う佐助だが、反論をしないのは認めているも同然である。
「まあ聞けよ。……んで、幸村と会ったときのお前、そりゃーもうびっくりするぐれぇはしゃいでてよ。それからは、どっかネジ飛んだんじゃねーかってくらい、変わってった。――元親曰く、良い意味でな」
「……そう?」
恐らく自覚があったのだろう。佐助も、大人しく政宗の言葉に耳を傾け始めていた。
「ああ。…初めて執着するもんができたんだろ、おめーも」
「執着…」
――そうかも知れない。
……いや、その通りだ。
佐助は、元々の自分がいかに淡白だったのかを、今更のように思い出していた。
幸村に会うまでの自分は、何とつまらない人間だったことか。
それまでの十数年に対し、この約半年は、何て充実し色鮮やかなものだったことだろう。
「…それがなくなると思えば、そりゃ怖ぇよな。――怖ぇのは何でかっつーと、慶次だからだ。お前が敵わねぇって思ってるあいつだろ?せっかく得た親友の座もとられちまうってな」
「何で……」
政宗に、慶次への憧れを話したことなどないというのに。
「分かるさ、俺もそうだしよ。…だから、俺らがつるむようになれたんだろーが」
ま、そりゃ置いといて、と続ける政宗。
「お前が本当に怖ぇのは、慶次の気持ちだろ?…分かってるからだろ?幸村があれに応えりゃ、どうなるのか。――本当は、絶対うまくいくって思ってんだろ……」
「――……」
佐助は押し黙り、その表情はどこまでも冷たく固まっている。
(――図星だろうがよ)
心の中で、政宗は嘲笑する。
「お前が羨んでた、『自分からすっげー惚れた』相手、慶次は見つけたんだよな。周りにゃ、わんさか可愛い女がいんのに、わざわざ男のあいつにってことは、よっぽど参っちまったってわけだ――幸村そのものに。よりによって、お前が初めて執着した相手。…女なら、親友としての居場所はとられねぇ。だが、男……しかも、奴なら」
「――何で……」
佐助は、たっぷりと深い溜め息をつき、
「政宗なんかに……。あー…最悪」
「認めたな」
勝ち誇ったように政宗は笑い、
「しっかしよー、お前思ったよりガキだったのな。幸村に色目使われんの、そんな嫌か?」
「そりゃあ――」
嫌に決まってんじゃん、とすぐに思ったのだが。
…何故か、と聞かれると――はっきり答えられる理由が見つからない。
「勘弁してやれよ。そんぐれぇ好きだっつーことだろ」
「…そう、なんだろうけど。俺様、そーいうの持ったことないから分っかんね。好きだからそーいうことしたい、っての」
「さすが、恋愛感情欠落男」
ハッ、と政宗は鼻で笑うが――
「いっちょ、本気で惚れられる相手を探してみりゃどーだ?そうすりゃ分かるはずだぜ?」
「だーからー……これまでも探して来たつもりなんだってば…」
「気合いが足んねーんだよ、きっと。ま、気張れや」
クックッと、政宗は笑う。
佐助は、ぶすっとなりながら、
「何かなー……。俺様と同じ欠陥人間に言われたくないんだけど」
「悪ィな。あいにく俺も見つけちまった。『自分からすっげー惚れた』奴。――羨ましいだろ」
「えぇぇぇ!!」
それは、正に雄叫び。
(うっそぉ…。こいつには負けない自信があったのに…!)
「だ、誰…」
「知りてーかぁ?――お前の悩み、また増えるかもだぜ?」
(まさか…)
「――う、嘘だぁ……」
半笑いの顔で政宗を見るが――
「残念だったな」
返ってきたのは、満面の笑み。
「ま、安心しろ。あいつほどじゃねーからよ」
(…俺とあいつには、それとは違う絆があるんだ)
誰にも真似できねぇ――俺たちだけの。
これは、俺一人だけのものだ……
絶句している佐助へ、
「仕方ねーだろ、惚れちまったもんは。…お前も、頑張って相手見つけろや」
と、政宗は晴れ晴れとした表情で言った。
一方、また考えることが追加されてしまった佐助だったが。
(…でも、政宗は何か…)
何故か、慶次の気持ちを聞いたときと比べものにならないほど、衝撃が軽い。
驚きはしたものの、遥かに早く受け入れることができていた。
(てか、旦那モテ過ぎ。…男からも女からも)
さらにげんなりなるが、とりあえず夏休みに学んだアレ――政宗が幸村の布団に潜り込んでいた――があるので、こいつの動向には気を付けておこうと心に誓う佐助だった。
*2010.冬〜下書き、2011.7.24 up
(当サイト開設・公開‥2011.6.19〜)
あとがき
ここまで読んで下さり、ありがとうございます!
展開ゼロに近く、すみません;
悶々佐助。自分の感情のおかしさを悩むまでに行き着かないほど、とにかくあの二人を付き合わせたくないことで頭が一杯です。でも、幸村を心配してるのも、彼には可愛い女の子がお似合いだと思ってるのも本当です。
幸村が、自分を一番の友達だと思ってくれてるんだから、自分も当然、そうでなければと強く思ってます。
なもんで、慶次のは分かったくせに、自分の可能性に気付くことからどんどんそれていきます。ますますカオスな感じになっていきます(^q^)
あと、孫市。めちゃくちゃカッコいんですもん…(^m^) 政宗のこと、何て呼んでたっけ?と思いましたが、何となく苗字で(^^;
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