Mからの助言2


「…マジで嫌なんですけど。――慶ちゃん、んなことしないよね?」


――完全に瞳孔が開いている。


「ないないないっ!それはない!あいつに限って」


(軽ーい妄想くれぇなら……してるかも知れねぇが…)


「…妄想でも許せないね」


(おいおいッ!俺、声出してねぇよな!?)


元親は、冷や汗が一気に噴き出すのを感じた。


「夢に見るのもダメ。…片想いなんだから」
「厳しいな、おい。じゃ、両想いになりゃ…」


「親ちゃん」


佐助はニコッと笑い――ただし、目は少しも笑っていないが――


「一つ言っとくね。…旦那の初恋は、可愛い女の子なの。初めて付き合うコも、可愛いオンナノコなの」
「そりゃ、あいつが決めることだから」

「そーでしょ?…けどねぇ、旦那のあの調子じゃあ、結局一番身近なのは――慶ちゃん。…時間の問題だと思わない?」

「ああ――かもな」
「だっから、俺様は心配してんだよ!もおぉ」


佐助は机に突っ伏した。


「……」

そのまま沈黙する佐助を置き、退散すべくソロリと立ち上がるが、



――がっしい



「!」

しっかりと掴まれる腕。…びくともしない。


「逃がさないよ……」


今度は、全身から血の気が引くのを感じる元親。


結局この日は、佐助の気が済むまでカラオケに付き合わされた彼だった。



――佐助のモヤモヤは、まだ消えない。






◆◇◆ 第二のM 『相談相手』◆◇◆





友達と思っていた奴――しかも同性の――が、自分を好きだと言ってきたら……


――普通、どう思うんだ?




「…孫ちゃん、聞きたいことがあるんだけど」


相変わらず入り浸っている生徒会室で、佐助は孫市と二人になったのを見計らい尋ねた。

放課後、体育祭準備の声が、どこかしらからも聞こえてくる。


「何だ?」
「相当不躾な質問だと思うのね。…ムカついたら、殴って良いから」
「分かった。…で?」

思った通り、サラッと応じる孫市である。


若干ためらいながら佐助は、

「女子校ってさ……、孫ちゃん、美人で格好良いじゃん?……女の子に、惚れられたりしたことあるのかなって」

「何だ、そんなことか」

意外にも孫市は笑って、

「そんなの日常茶飯事だったぞ。私は、生まれる性別を間違えたな、と思ったくらいだ」

「マジで…!?」
「お前や伊達よりモテてたかもな」
「すっげー……」
「まあ――男がいないから。あれは、一種病気みたいなものだ。熱が冷めれば、目も覚める」

フフッと微笑むその表情は、やはりどこか涼しげで、佐助はその女の子たちの気持ちが少し分かるような気もした。


「熱……ね。――でも、中には本気の本気で想いを寄せてたコとか、いたんじゃない?」
「……まあ……な」

「やっぱり!?」

ガバッと佐助は身を乗り出し、「どうだったの?孫ちゃん、どう……思った?」

「どうって…」


「…イイな、とか…、性別なんて関係ねーや、とか…」


(うーわ、なんつー質問…)


しかし、聞きたいのはそこなのだ…。



「まあ……正直、嬉しくはあったな。――可愛くて、いじらしいなとも思ってしまって、少し危ないところだった」
「おおー……」

想像すると妙に艶っぽいものが浮かぶ気がし、思考を閉ざすことにした。


「でも、てことは、付き合ったりはしなかったんだ」
「学年も違って、ほとんど知らないコだったからな」

「ふーん…」


じゃあもし、よく知ってるコだったら。
……どうなってたわけ?



「親友同士でそういう関係なコたちは、結構いたぞ」
「ちょっ…、俺様の心読んだ?」
「顔に書いていたぞ…烏め」


彼女語録では、烏イコール『阿呆』なのである。


「親友……か」


ああ――それは非常にマズいじゃん。



「はあ……どうしよう」


深々と溜め息をつき、ソファに横たわる佐助。――さながら、生きる屍。

そんな彼を、孫市はちょっと見ていたが、



「…あの噂は本当だったか」

「――え?」


「あいつと……」



(あ、あいつ?噂……!?)


まさか、慶ちゃんと旦那の……知らない間に、言われてたのか――?



「あいつは見た目よりも良い奴だぞ。――私はお似合いだと思う」


慶ちゃんのこと?

…そりゃ、俺様だって……


「まあ…良い奴ってのは分かってるけど、でも」
「今まで友達だと思っていたんだものな、戸惑うのは仕方ない。しかも、チャラチャラと女をとっかえひっかえだったから、尚更」



……ん?


慶ちゃんって、孫ちゃんの中でそんなイメージなんだ。

…何か、意外。



「あいつも、昔は可愛かったんだがな。女の子みたいな――って、お前らも知ってるか」



――へ?慶ちゃんが?


……そうだっけ…?



「きっかけは、あれか?林間学校の、肝試し」

「肝試し…?」


「ペアだったんだろう?――元親と」





……親ちゃんとペア


だったのは――俺様。



――チャラチャラと女の子をとっかえひっかえだったのも……俺様。(と、政宗)



…つまり、さっきから孫ちゃんが言ってたのは……





生徒会室に元就ら他のメンバーが戻ったとき、真っ先に目に入ったものは――佐助が孫市に全力で何かを弁解している、あり得ないほど格好悪い姿だった…。

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