苛立ち5
「てかさー…、そう言う就ちゃんこそ、どーなの?んな相手いたように思えないんだけど」
何気にひどい反撃を放つ佐助。
「そんなことはない。お前よりかは幾分マシだ」
「えー…うっそぉ……」
確かに親しくなるまでの彼はあまり知らないが、分かる範囲では、女の子はおろか男友達さえいなかったように見受けられるのに。
「ずっと憧れて――何より大事だと思う相手はいる」
「――へえ。……誰」
問う、というよりは呟きに近いそれに、元就は小さく笑い、
「…もう、分かっておろう」
「それってさあ……」
佐助は、元就をじっと見据えて、
「俺様みたいなの?それとも――慶ちゃんみたいな……?」
「――……」
元就は、しばらく佐助を見たまま沈黙する。
深く思案を巡らせていることは間違いないだろうが、微動だにしない表情からは何一つ読み取れない。
「……お前も、大概鈍感だな」
フッと、やはり馬鹿にしたような目で笑った。
「何でさ?旦那ってのは、すぐに分かってたよ?」
「そのことではなく」
と、今度はおかしそうに、「自分に対してな。…不安定な奴め」
「……?」
佐助は、言われている意味が全く理解できなかったが、聞き返すこともしなかった。
…きっと、教えてくれる気などさらさらないのだろう。――この、涼しい顔をした友人は。
(…まあ良いや)
俺様が思うに、就ちゃんは前者だ…
さっきの質問は、――何となくしてしまっただけで……うん。
「就ちゃんは、旦那のお父さんみたいだよね」
「…何だ、それは」
「んで、俺様は兄貴ね。何となく、キャラ的に?」
「では、父親の言うことは聞かねばな」
「……長男は、もう自立してますから」
「どこが。肝心なところが、小学生以下の分際で」
ぐっ、と佐助は詰まりながらも、
「んで、お父様?…慶ちゃんのことは、お許しになんの?」
「許すも何も、まだ」
「だーかーらー…」
大げさな溜め息をつき、佐助は、
「あの旦那がさー、今の真っ白な状態で慶ちゃんに言われたら、どうすると思う?旦那、慶ちゃんのこと良い奴だって思ってるでしょ?仲も良いし。
『考えてくれないか』とか言われたらさ、真面目だからすっげぇ考えるでしょ?んで――何やかんやで付き合うことになっちゃいそうじゃん!旦那、慶ちゃんの甘えに弱いしさぁ…」
「確かにな…。まあ、その可能性を作ったのは、お前なわけだが」
「うっ、それを言われると心苦しいもんがあるけど…」
とにかく、と佐助は気持ちを切り替えるように、
「初めて付き合うのが男ってどーなの?それも、相手は散々女の子と恋愛し尽くしてるよーな」
「お前が言うか」
「俺様のは恋愛じゃないんでしょ?就ちゃん曰く」
「…もっとタチが悪いわ」
しかも開き直るとは、と元就は冷たい視線を寄越す。
「あの映画は、抵抗ないのにか?」
「…別に、嘘言ったわけじゃないよ?慶ちゃんのことだって、びっくりはしたけど引いちゃいないし。あれは、本当に俺様の考え」
「ならば…」
「ただ、俺様は…」
佐助は、言い直すように、
「――考えたんだけど、旦那なら好きなコや彼女がいれば、慶ちゃんには応えらんないよね。…でも、そんな兆候は全くないからさぁ」
「言ったであろう?そういうものは、幸村が自然とそう思えたときにゆっくりやれば良いと」
「ま、そうは思うけどさ…」
佐助は、ふと顔を陰らせ、
「俺様が心配なのは、いつか慶ちゃんが旦那を離すんじゃないかって……。その後で、まともな恋愛できんのかな、旦那。トラウマとかになったらどうしよう――みたいな」
「……飛躍し過ぎだ」
「だって……」
「それに、慶次が幸村を離すことなど、万に一つもないだろう」
「……何で言い切れるのさ」
眉に皺を寄せ、
「だいたい、まだ会って間もない旦那に……しかも男なのに、何だってあんなに惚れてんの?」
何だ、と元就は苦笑し、
「お前もよく分かっておるではないか。…だから、逆はあっても、奴から離れることは、確実にない」
「そう……かなぁ」
「ああ。…いつものように押しが強くないのは、幸村の性格をよく分かっていて――大事にしたいと思っているからなのではないか?ゆっくりじっくり、その心に自分を刻んでいくつもりなのだろう」
「…ヘタレって言ってたくせに…」
「そっちも正直な感想だ」
「あ、やっぱり」
佐助は笑いながら、「慶ちゃんも大変だねー。こんな舅が二人もいてさ」
「慶次より、お前の方が幸村にとって害になりそうだがな、今のところ」
さすがに佐助も焦って、
「ウソウソ!もうやりませんから!」
(多分――とりあえず、就ちゃんの前では)
「あまりにひどいときは、正真正銘の小姑が屠りに来るぞ」
かすがの、たまに見せる鬼のような顔を思い浮かべ、佐助は身震いした。
「以後、重々気を付けます」
(でも、たまーに、からかうくらいは…。――愛情、だから。
佐助は心の中で、言い訳をする。
正に、小学生以下レベルの…。
元就には、恐らくお見通しのことであろうが。
――外ではひぐらしが鳴き、残暑の終わりを告げていた。
*2010.冬〜下書き、2011.7.22 up
(当サイト開設・公開‥2011.6.19〜)
あとがき
ここまで読んで下さり、ありがとうございます!
幸村、泣き虫ですみません!佐助がめちゃくちゃ甘やかしたため、初めてのキレっぷりにさすがの彼でも相当ショックだったらしく、ちょっと子供返りしちゃったみたいな。いや、ウチの幸村、だいたい泣きますが。私のせいで。
この長編は、恋愛の展開が最強に遅いです; 何故なら、幸村が誰かとどうこうなる前に、沢山やりたいことがあるからです(@゚▽゚@) もう早く終われって感じになりましょうが、妄想がやめられないので本当に申し訳ない。
だから、皆ヘタレ傾向です。幸村アイドル状態を長く…っ。
佐助は、恋愛を知らないから分かんないんです。ってことで。就様がそれを教えてやんないのは、デリケートな問題だし…と思っているのは一割程度。残りは幸村ラブゆえのもの。
二つの話をくっ付けたので、夏が終わりました!次からは二学期です。どんどん突拍子もない妄想が広がります;
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