苛立ち4







「ねぇ就ちゃん、どっか良い病院知らない?」

「――病院?」


訝しげに、元就は顔を上げた。


正面にいるのは、至って健康そうな佐助の顔。
汗一つ滲ませないので、フェイスペイントも健在である。



――夏休みも終わる頃。


二人は、生徒会室にて雑務をこなしていた。

元就から頼むことはないのだが、佐助は暇なのか気まぐれなのか、こうしてちょくちょく顔を出す。
よく幸村を連れて来ることが多いが、今日は一人。


「…どこか悪いのか」

まさか、という気持ちで尋ねる。


「何かね、最近心臓痛いときがあんのよ。動悸がしたり」

「何だと…」

さすがに目を見開き、「大丈夫なのか?」

「んな大したことはないと思うんだけど、時々」
「階段の昇り降りや、激しい運動をしたときとかにか」
「いや?…あれ、そういうもんなの?」
「違うのか」

「うん、でも…」

と、佐助は思案顔になり、


「すっごい痛いんだよ。ギュッてなったり、ズキッてなったり」

元就は、頭の中で病院の名を連ね始めていた。


「そういや、こないださあ」

人に心配をかけておきながら、佐助はニコニコと別の話題を持ち上げる。

その内容は、先日の納涼祭の後、幸村が家に来たという話で、

「もお、超可愛いと思わない!?俺様持ったことないけど、弟とかってあんな感じなのかな〜って!ほんっと、どうやったらあんな風に育つんだろね?」


…それは嬉しそうに話すのだ。

対し、元就は幸村をからかったという佐助のセクハラ行為に立腹していた。

「泣かせておいて、よくもすぐにそんなことができるものだな」
「あ、ははは……就ちゃん、顔怖い」
「だから、普通にしろと言ったのに。お前、一体どのような顔をあやつに見せておったのだ…。――そのまま、破廉恥だと嫌われるが良いわ」
「うっ、痛い!就ちゃんの目と言葉が刺すように…!」

唸り声を上げながら、佐助は胸を押さえる。

元就は、相手にせず完全に放置を決め込んだ。


「いやん、怒んないで〜」

佐助は猫なで声になり、

「祭りのときは仕方なかったんだよ〜。慶ちゃんのこと聞いたばっかで、俺様でも普通にすんの無理だったよー。それに、さっき言った心臓痛いのが頻繁にあって、正直かなり苛々してたもん。旦那にゃ言わなかったけど」


「……何?」


佐助の最後の言葉に、引っ掛かったような表情になる元就。

「そのときからなのか?」
「うん。帰ってからも、ちょっと疲れてて――旦那が来てからも、たまに痛かったかな」

「……最近は?」


うーん、と佐助は思い起こすように、

「家にいるときはない…かな?何か、遊びに行くとよくあるね。しかも、旦那と一緒のときが多いから、心配かけないよう平然を装うのが、結構大変でさあ」


「佐助……」

はあ、と元就は小さく溜め息をつくと、

「お前は、思ったよりも頭が悪かったのだな」

「ええ!?何でそーなんの?」

本当に何のことか分からないらしい佐助は、目を見開いた。


「それは、幸村がいるとき……というか、慶次もいるときに痛いのだろう」
「え?どうして…」

首を傾げるが、「――あ、でも言われてみると…」


「…自分が一番の友人でいたいとか、とられたくないなどと拗ねておったろう。…苛々していたのはそのせいだと、自覚していなかったのか?」


「あー…」

目から鱗が落ちたかのように、佐助は頷いた。


「単なる嫉妬だな。病院なぞ行っても無駄足よ」

バカバカしい、とでも言いたげに吐き捨てる。


「えー…そうなのかな。俺様が嫉妬ぉ…?」
「どこからどう見てもそうであろうが」
「だって……俺様、嫉妬なんてしたことないよ、今まで」
「嘘をつけ。よく知らんが、お前も色々付き合いが派手だったのだろう?」

佐助の、これまでの恋愛遍歴を言っているらしい。

ああ――と佐助は、

「向こうが焼きもち妬くことはあっても、逆はなかったよ。だから……」

これが、そうなの?

とでも聞くように、元就をしげしげと見つめてくる。


「つまり、それほどに好――気に入っておるのだろう、幸村のことを」

「あ!」

佐助は、みるみる相好を崩し、

「うん、それはもう!」


そっかー、だからなのかぁ――などと、納得したらしい佐助を、元就は難解な試験問題につまずいたときのような顔で見ていた。


「佐助、一つ言っても良いか?」
「ん?何?」

「――この間の旅館で…あの映画を観たとき。お前、いかにも知っている風に『真実の愛』がどんなものかと幸村に語って聞かせておったが……嫉妬もしたことのない奴が、よくも偉そうに言えたものだな」

呆れたように、

「お前、さては恋愛などしたことないのだろう――実は」


「はーあ?」

心外、というように元就を見る佐助だが、


「自ら好きになった相手がいるのか?」
「そ、それは――…でも、後で」
「しかし、どれも長く続いておらぬのだろう?」
「ま、まあ……」


段々しどろもどろになってしまう佐助である。

ふん、と元就はいつもの調子で鼻を鳴らし、

「外見でばかり選ぶからそうなるのだぞ。人間、中身だ。…可哀想な奴め」
「就ちゃんから、そんな正論聞かされちゃうとは…。てか、可哀想って!」
「他に言いようがない。…ザビー先生に入信して来い」
「えぇ〜……」

佐助は口を尖らせた。

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