納涼祭5
――ドン、ドン…、パラパラ……
夜空に次々打ち上げられる、彩り鮮やかな大輪の花。
川の水面に映る色のついた影もきらびやかで、上下に目を奪われ通しになる。
川沿いには多くのギャラリーが集まっていたが、その半数はカップルである。
六人は目立つ目立つ――
だが、女の子たちのヒソヒソ囁くような声と、コソッと窺う視線とあらば、全く悪い気はしない。
早速、政宗と元親は声をかけられて内心ニヤつきながら応じ、自然と幸村たちとは離れた場所に行ってしまった。
そんなことにも気付かず、幸村は花火に夢中になっている。
かき氷を口に運ぶのは忘れずに――
「……綺麗でござるなぁ……」
溜め息混じりに言い、隣を見ると、慶次と目が合った。
「――だな」
彼は微笑し、「俺、あれ好き」
と、夜空を指す。
上がったのは、赤一色のきらきらしい大きいもの。
幸村も、「おおっ」と歓声を上げると、慶次は続けて、
「幸に似てる。でっかくて、眩しくて……すっげ、綺麗」
「――……!」
あんぐりと口を開け、真っ赤になる幸村に、
「ちーっと、クサかったかな〜!」
あはは……と照れ笑いをする慶次。
……一方、幸村はそれどころではない。
(慶次殿といい、佐助といい……何故、そのようなことをサラッと言えるのだ……っ)
だいたい――
「は、花火は……綺麗でござるが、その…」
「――外見のことじゃなくてさ」
慶次は小さく笑い、
「もちろん、そっちもそうだけど。でも、どっちかってーと、可愛いし」
「は、はあ……?」
「……心が――さ、幸の」
今度こそ幸村は唖然とし、
「慶次殿は、某をかなり買い被っておられる…」
「んなことないって」
ニッと笑うその顔には、妙に納得させられてしまいそうになるので、不思議である。
「俺の中ではそうなんだから、いーんだよ。幸には、そんなつもりなくてもさ」
「そ……そういうものでしょうか」
「うん、――あ、また」
ほら、と慶次が目を向けた先には、あの赤い花火。
「やっぱり好きだ――…一番。…幸」
花火のことなのに、何やら自分に対して言われている気になりそうなのを振り払い、
「け、慶次殿は――」
「…うん?」
優しい笑みをたたえたまま、幸村の顔を覗き込んでくる。
「花火……より、花そのもののようでおられる。――華やかで…暖かい、春の。……例えば、桜のような」
「――え……」
慶次が少し目を大きくしたが、幸村は気付かなかった。
「……変、でござろうな」
と、気まずそうな顔をする。
「いや……嬉しいよ」
噛み締めるように言い、
「…昔、同じように言われたことがあったから、びっくりしてさ」
「おお、良かった。やはり某だけではないのですな、そう思うのは」
幸村は、胸を撫で下ろした。
「――幸は……」
言いかけたきり、慶次は黙りこくる。
「慶次殿?」
「……、何でもない…」
む、と幸村は口を曲げ、
「何でござるか!気になりまする…っ」
「うわ、ちょっ…」
勢いまかせに顔を近付ける幸村に、慶次は激しく狼狽した。
「……?」
何故、そんなに慌てているのだろう。
……ますます怪しい。
じー……と、その顔を見つめ続ける…
「やっ、あの、大したことじゃないから――」
「では、言っても差し支えございませぬよな?」
「う……」
諦めたように慶次は溜め息をつき、
「……ゆ、幸は――…好き?…春の花……とか、――桜、とか」
「え……」
慶次の横顔がどこか赤く見えたのは、恐らくまた上がった同じ色の花火のせい――なのだろう。
『俺、あれ好き――』
(…ああ、そうか…)
自分も同じような……良い意味のつもりだったのだが、分かりにくかったのかも知れぬ。
「もちろん好きでござるよ。暖かくて、綺麗で。桜が嫌いな人は、そうそうおらぬでしょう」
幸村は、ふわっと微笑み、
「だから、慶次殿は多くの方々に好かれるのでしょうな。優しいし――」
「――……」
「……いかがされた?」
突然、力強く握られた自分の手を、驚き慶次と見比べる。
――かき氷はジュースと化していたので、片手は空いていたのだ。
「あっ、ごめん、つい――」
ははは…と、照れたように笑い、
「……ありがと」
と、手を離した。
(…礼の……握手だったか)
なるほど、自分もよくやるしな――と、幸村は納得する。
そんなに喜んでもらえたなら、こちらも嬉しいというもの。
一層にこやかになり花火を眺める慶次に、幸村は柔らかく微笑んだ。
*2010.冬〜下書き、2011.7.20 up
(当サイト開設・公開‥2011.6.19〜)
あとがき
ここまで読んで下さり、ありがとうございます!
最後は、完璧二人の世界でしたが、ちゃんと佐助と元就も近くにいました(^^;
あ〜…クサぁ…; いやもう慶次はナチュラルにああなるキャラってことで。恋愛対象として好きってぶっちゃける以外なら、何言っても良いと思ってんでしょうな。そうさせたかったんですけど、甘過ぎて気持ち悪くないでしょうか(汗) 本当、色々すみません
クレープ、きっとバニラアイスに生クリーム。どうしたんでしょう?皆固まって。
…すみません×∞m(__)m深々
ついつい慶次に緑を着せたくなるのは、3の第弐衣装が好きなので…(^^;
次も同日で、その後です。あと少しで、ようやく夏が終わりそうです;
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