納涼祭4


「――ずっと昔に、両親と一緒に行ったことを思い出しておりました。…仲の良い親子連れを見かけて」


「――っ、」

慶次は一瞬息を飲んだが、


「そっ…か…。――聞いても良い?」


「え?」




「……何して、遊んだのかな、って…」


「――……」



無言の幸村に、慶次は慌てて、


「やっ、ごめん!覚えてないよな、そんなの。俺、ホント空気読めね――」



「ゲームや……輪投げに、射的…。ヨーヨー釣り…。父が全部得意ですごいと思った記憶がありまする。――金魚すくいは、飼えぬからと許されず、泣きながら母に腹を立て…。代わりにわたあめとお面を買ってもらい、簡単に機嫌を治して、皆を笑わせましたなぁ…」


喋る内に晴れやかな笑顔になっていく幸村。


「…楽しかった。――忘れておりました…とても大切な思い出だというのに」

慶次にその顔を向け、「…慶次殿のお陰でござる。ありがとうございまする」


それを見た慶次も同じように笑顔になり、


「…よし!今日は全部やろーぜ!?射的とか、さっけの腕前すげーよ?なっ」

と、後ろの佐助を振り返る。


「そうなのかっ?佐助!」


「う、うん」

隣にいた元就が、幸村に気付かれないよう、肘で佐助をつつく。


――佐助が、やはりまだどこか浮かない顔をしていたからである。


「まず腹ごしらえしてー、んで色々遊んで、また食って――最後に花火見て」

「Hey、幸村勝負しようぜ!ダーツとかもあんぜ、あそこ」

「おおッ、望むところでござる!」


楽しそうに盛り上がる彼らに、言葉少なに笑顔を貼り付ける佐助。

元就の刺すような視線をひしひしと感じていたが、自分でも分からない混沌とした感情を上手くコントロールできず、心の中で立ち止まり続けていた。














(あー、楽しいなあ!)


慶次は、心の中にて大声でそう叫んでいた。

外にも、その嬉々とした空気は、もれっぱなしではあったのだが。


その目に映るのは、出店の食べ物に目を輝かせたり、ゲームに熱中したりと表情の移り変わりが忙しい幸村の姿。


美味しいものに喜ぶ顔に目を引かれては、



(ああ、もう!可愛い……っ!)



政宗との勝負に熱くなる様子には、



(やっぱ……凛々しいなぁ……)



…結局、どんな姿にもウットリしている。





(ヤバいなあ……マジで。――好き過ぎて)



この気持ちだけでも幸せで、満足できる気もするけど。


――でも、やっぱり伝えたいや。


知ってもらいたいし、……その心が、欲しい。


まだ見たことのない表情を、見たい。


自分だけが見られるその顔は、一体どんな……



クレープを幸せそうに頬張っている幸村の口元を、つい、ぼーっと眺めてしまっていると、


「あっ、慶次殿!」

幸村が、慌てて慶次の手の下に、片方の手の平を持ってきた。


「え?――あ!」

慶次のクレープの下から、中で溶けたアイスやクリームなどの滴が幸村の手に落ちる。


「わーっ、ごめん!」


焦った慶次はとりあえず下から口に入れ、半分以上は減っていたそれを一気に食べた。


(――はっ、ティッシュとか持ってねぇし、ハンカチなんて問題外!)



「元就、何か拭くもん――」
「ああ、大丈夫でござる、慶次殿」


幸村は、手の平をペロッと舐め――、



「!!!」



元親以外は、しばし皆、硬直してしまった。



「…慶次殿のも、美味いですなぁ!甘い…」


「――……」


大好きな甘いものを食すときの彼の笑顔は、一種恍惚としたものがあり――




(――ヤバいヤバいヤバいぃっ!)



その台詞にその表情は……!



(クレープを省略したらダメだって、幸…っ)





「………エロ」


ボソッと呟いた政宗の声は、聞こえない振りをした。
…とにかく赤面しないことに集中する。



「ベタベタするだろ、洗って来る?」

――と言っても、近場にそんなところはないのだが。


「平気でござる、そんなに落ちなかったので」


幸村は、手の平を鼻先にかざし、

「はぁ……」

匂いだけでも幸せになれるのか、再びあの表情と、溜め息をもらす。




(――あ、もう無理。…絶対、夢に出る)



慶次の中の、倫理や理性は簡単に砕かれてしまったようだ…。


最後にかき氷を食べたいと幸村が言うので、ちょうど喉が渇いていた他の面子も付き合うことにする。それを持って川沿いに行き、花火を見ることにした。

幸村はイチゴ、慶次はレモン、政宗はブルーハワイ、元親はグレープ、元就はメロンと、かけるシロップまでそれぞれの好きな色というところが、単純でおかしい。

幸村については、味も好きだからというのもあるのだろうが。


「さっけは?」
「俺様はやめとくわ。絶対全部食べらんないし」

苦笑とともに手を振った。

そんな佐助を、幸村はちょっと見ていたが――


すぐに花火が始まるという時間になり、急いで移動するのを余儀なくされた。

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