納涼祭3







「よっ、男前の兄さん方!」


――実に高いテンションで、慶次が四人に手を振っている。

待ち合わせは祭り会場の入口だったが、奇遇にも手前の道にて会うことができた。

慶次は、落ち着いた緑色の浴衣をまとい、ポニーテールには和飾りまで着けている。
しかし、さすが彼のセンスから浴衣との兼ね合いも良く、行き交う人々の注目をことごとく集めていた。

四人が加わったことで、それはさらに増すことになる。


「ちょっと早く来過ぎたかなと思ったけど、良かった一緒になって」

ニコニコと慶次は全員へ、「良いねぇ〜!皆、粋だねえ」

「おー、お前もよく似合ってんぜ」
「こーいうの着けても、変じゃねーのがすげぇよな」
「意外にまともな色を選んだのだな。お前のことだから、もっと派手なものかと思った」

政宗、元親、元就が口々に言う。

「俺でもそこまでしねぇって」

と、慶次は豪快に笑い、「――お、さっけ似合うじゃん!渋いねー、黒」

「あ――うん、ありがと…」

いつもであれば、さらに調子づいた反応を返す佐助だが、やはりどこか笑いがぎこちない。

だが、早く早くと入口へ急ぐ慶次は気付いていないようである。


「幸は、まだだよな。どんな浴衣で…」

「――ん?もしかして、あれじゃねぇ」

元親の視線を皆が追う。


…入口の前に立つ、濃い茜色のシルエット。


祭りの提燈の灯を背後に浴び――軽く腕を組み、その瞳は出店に向けられているため、横顔しか見えない。

ぼんやりと柔らかい明かりに照らされたその顔は、普段よりも大人っぽく、また儚げに映る。





――ズキ、と佐助の胸が痛んだ。





「……?」



(何で…?)


いつもなら嬉しくなるはずなのに……





「――幸?」


本人には違いないが、そう尋ねたくなるのは誰もが理解できた。


「あ……!」

と五人に気付き、幸村は嬉しそうに駆け寄る。


「今着いたところでござった!待ちきれず…」

「そう、俺も――。…浴衣、似合うね。髪も…」

幸村の後ろ髪は、高い位置で結ばれていた。


「慶次殿と同じでござるな!かすががやってくれて。…これは、お館様が仕立てて下さったのです」

自身も気に入っているのだろう、小さな紅葉の模様が裾に入ったその浴衣を嬉しそうに見せる。

「皆もよくお似合いですぞ!」

順繰りに目をやり、幸村は最後にふと止まる。

「…佐助?」


「え…?」

ずかずかと幸村が歩み寄って来たので、佐助は少々戸惑ってしまう。

そのまま目の前まで来て、

「おお、一瞬分からなかったぞ!佐助も同じだな、髪」

ちょい、と佐助の束ねた髪に触れ、軽く持ち上げた。


「……短いから、尻尾みたいだ」


ははっと微笑む。


からかうでもなく、まるで小動物か何かを愛でるかのようなその表情。






――どっくん





佐助は、自分の中で響いた妙な音に首を傾げる。



(あれ……何か心臓痛いし、目がチカチカして旦那がよく見えない……)



何度か瞬きしてみると元に戻ったので、内心ホッとする。


「尻尾って、旦那ぁ…」

眉を下げ、佐助は口を尖らせた。

幸村はまだ笑いながら、

「すまん、すまん。でも、悪い意味じゃないぞ?浴衣とも合っておるしな」
「ホント〜?俺様、こんな髪じゃん?だから、ちょっとでも目立たないようにってさ」
「髪?」
「元親とこいつの色だよ。浴衣にゃ、ちょっと合わねーだろ?」

政宗が元親の頭をつつく。

「だから、やめろって」

しっしっと、元親はその手を払った。


ああ――と幸村は、

「そういうものなのか…全く思わなかったな」
「…変じゃない?」
「ああ」

佐助は微笑し、

「旦那が言うなら――いっか」



「お〜い、早く行こうぜ!腹減ったよ」

お祭り男のうずうずした声に、全員がハッとなり入口をくぐる。


両隣に並ぶ出店と人混みの熱気で汗が滲みそうになるが、それでもたこ焼きや焼き鳥などの熱いものも食べてみたくなる。


「幸、さっき真剣な顔して、何見てたの?俺らと会う前」

ちゃっかり幸村の隣で歩く慶次が尋ねた。


「え?――ああ…色々あるなと思っていただけでござるよ」

「……それだけ?」


「え……」

少し驚いたように慶次の方を向くと、彼は温かく、何かを慈しむような瞳でこちらを見ている。



(……また、その瞳……)



あの、燃えるようなものと――この、限りなく優しいもの。

どちらで見られても、幸村はひどく落ち着かなくなる。

燃える瞳は胸を突き刺すようで、優しい瞳は心を見透かされるような――

いつもの慶次と違うということも戸惑う要因の一つだが、その際に彼が考えていることが分からないというもどかしさや寂しさに見舞われるのが、未だに慣れない。

というより、理解したいのにできない自分が歯痒いのだ。

何故なら、


――たまに、慶次の方こそが……辛い顔をするので。


自分はこうだというのに、慶次には幸村の思っていることがほとんど読まれているのが不思議でならない。
自分は、そんなに分かりやすい性格なのだろうか…

最近では、隠すことが無駄だと悟ったので、その瞳の前では抵抗しないことに決めていた。

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