納涼祭2
「……そういや、合コン。…就ちゃんも行ったんだって?」
他の三人は、一気に力が抜けた。
「んなことだったのかっ?」
「や、違うけど。…で、どうだったよ?」
元就は眉間に皺を寄せ、
「お前や慶次が行かぬからと無理やり……我の意思ではない」
「そーだぜ、二人ともノリ悪ィんだからよー。あとは、家康に頼み込んで来てもらったんだからな」
元親が渋い顔で言う。
「いやー、俺様が行ったら、親ちゃんのお邪魔になっちゃうでしょ?」
「へーへー、色男は言うことが違うってか」
「じゃなくてさ」
ニコッと佐助は笑うと、
「俺様と親ちゃんの関係を知られたら、マズいっしょ?ラブラブさを見せつけちゃうと思って、遠慮したんだよ。俺様ってば、できた嫁!」
「は……」
最近、この手の冗談を言わなくなっていた佐助だったので、元親は乗せられることもなく開口したままになってしまう。
「…とまあ、それは置いといて」
「テメーがフッたんだろが!!」
激しくツッコむ元親を尻目に、
「皆に聞きたいこと――さ。……俺様、ちょっと推理してみたんだけど」
と、三人の顔を窺う佐助。
「……慶ちゃんさ、良いのかな?好きな人いるって言っときながら、夏休み中ずっと俺様たちとばっか遊んでてさ」
「あー……」
「今日もさ、そのコ誘って二人で行きゃ良いじゃん?…いくら祭り好きとは言え、あの浮かれようはないよね」
「まあ……な」
「就ちゃん、旦那ってハグする癖があるんだって?本人から聞いたんだけど」
「あ――ああ」
面食らったように元就が答えた。
(いきなり話題が…)
「そこで、まーくんと親ちゃんに質問です。――同じ癖が、慶ちゃんにもありましたか?少なくとも、俺様はされたことありませんけど」
「……そりゃあ」
「旦那は、よくされてるらしいんだけど…?」
「――の野郎」
政宗は悔しげに言い、
「あの万年春頭が」
と、元就が毒づく。
「あ、あれだよ…、幸村、ちょうど良いサイズなんだよ。ほら、すぽって」
元親だけは必死にフォローしようとするが、自分でも説得力がないのはよく分かっている。…だいたい、幸村はそんなに小さいわけでもない。
「我と幸村、そう変わらぬが?」
「…おめーは無理。怖ぇ」
「――とにかくさ」
ゴホン、と佐助は咳払いし、
「間違ってたら良いなぁ、って思うこと今から聞くからさ――温かい対応でお願い」
「何だってんだよ、さっさと言え」
若干苛々と返す政宗に、佐助は少しうろたえた瞳を見せたが、
「こないだの旅行の終わりから、慶ちゃんのことずっと観察してたんだけど……」
「ああ」
「……慶ちゃんの好きな人ってさ」
一つ息をつき、佐助は続ける。
「もしかして、……旦那――とか?」
シーン。
――静まり返る場。
「……あ、だよね。んなわけないよね…?俺様ってば」
ははは…と、佐助は乾いた笑いを起こすが、
「――やっとかよ」
「…一目瞭然であろう」
呆れた顔になる政宗と元就である。
「――え……」
たちまち顔を歪める佐助。「本当に……?」
「いや、本人から直接聞いちゃねーけどよ」
「聞かずとも分かる。……何だ、その顔」
厳しい口調で、元就が指摘する。
「……だって……、何で旦那…?――慶ちゃんなら、他にも沢山いるでしょ。……どうして」
「――さあな。でも、」
と元就は表情を和らげ、「ふざけているように見えるか?あの瞳…」
「あいつ、お前の言ってたこと、めちゃくちゃ喜んでたぜ?…好きになっちまえば、相手が何者でも止められねー、ってやつ」
困ったような、しかし微笑も加わる顔で、元親が言った。
「…そ――う……」
呆然としながらも、「じゃ……本気で」
林間学校で聞いた、慶次の言葉を思い返す。
『――すっげぇ好き。何よりも――』
「…ああ、そっか……」
合点がいったように、「慶ちゃんなら……優しいし、きっと大事にするだろうね」
「そりゃ、間違いねえ」
元親が力強く、「あの想いのでかさは半端じゃねえ。…あれをずっともらえる奴は幸せだと思うぜ、俺は」
「――でもさ」
佐助は顔を伏せ、聞いたこともないような暗い声になり、
「…旦那は一人…。俺様、こないだ言ってもらったばっかなんだよ、ずっと友達だって」
「……佐助」
「嫌だよ……まだ離れたくない――…一緒にいたいんだ。初めてこんなに…。――とられたくないよ」
「佐助、」
元就が拳に息をかけると、思い切り佐助の頭を殴った。
「いで!…何すんの、就ちゃんッ?」
他の二人も驚いている。
「我儘を申すな。自分だけがそう思っていると?…お前こそ、我の場所をすっかり奪っておいて」
「え、――あ」
佐助は気付かされたように、「ごめ…」
「謝るな。――一層みじめになるわ」
フン、と彼らしくなり、
「…別に、お前のせいではないしな。――さっきのは八つ当たりだ」
「えぇッ?」
「だが、我は謝らぬ。……何をブチブチ言っておるのだ?まだ慶次と幸村が通じ合ったわけでもなし。――嫌なら、幸村が慶次に向かぬよう、得意の狡賢さで阻止でも邪魔でもすれば良かろうが」
「就ちゃん……」
「…そのような辛気臭い顔を、幸村に見せるでない」
「そうだぜ、お前はいつもヘラヘラしてんだから、幸村でもすぐ分かっちまうだろーが」
からかうように言う政宗だが、彼なりの労りようである。
「だけどよ…」
元親は、真っ直ぐ佐助へ、
「…もし、幸村が慶次の気持ちを受け入れたら……そのときは、応援してやってくれよ。――な?」
佐助も、そこは大人しく、
「……うん」
(…そうなったら、親ちゃんが俺様を慰めてよね…)
いつもなら、そんな冗談の一つや二つも言えるというのに。
その口は、結局それ以上の音をたててはくれなかった――
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