月夜編3
「さ、佐助は何故そんな……一体、俺のどこを気に入ってくれたんだ?」
赤い顔を気付かれたくなくて、幸村はつい強い口調になり、目をそらした。
だが、佐助は怒る風でもなく、
「どこって…、言おうと思えば沢山上げられるけど。…優しくて真面目で、誰に対しても馬鹿丁寧、何にでも一生懸命で、気持ち良いほど声がでかい、熱中し出すと人の話が聞こえない、たまの天然が、すっげぇ、か――……えーっと…良い味出してるっていうか」
「…褒められてるのかどうか怪しくないか、最後の方」
「ないない、全部褒め言葉!もっとあるけどさ」
笑った後、佐助は穏やかな顔で、
「でも、それだけが理由ってわけでもないような気がする。分かりにくいかも知れないけど、旦那が――旦那そのものって言ったら良い?旦那から出てる空気……エネルギーみたいなの。……大好きなんだ」
「――……」
幸村は、頭に血が上っていくのを感じながら、どうしようもできずにいた。
(恥ずかしげもなく、よくそんなことが言えるものだ――)
「俺様は、すっごいもらってるのに、旦那に何もあげられてないよね」
変わらず苦笑し、眉を下げる佐助。
…何故か、幸村を言いようのない腹立たしさが襲う。
「だから、さっき言ったじゃないか。俺もお前と一緒にいるのが楽しいと。…佐助が初めてなんだ、家族以外に俺が敬語を使わないのは」
(…違う、このような言い方をしたいのではない…)
――上手く、言えぬ…
「俺様、家族同然?」
幸村の葛藤とは逆に、喜ぶ佐助。
その顔のお陰で、幸村のもどかしさは静まる。
ホッと胸を撫で下ろしていると、
「……でも」
佐助が二人の間の距離を詰め、顔をすぐ傍まで近付けた。
(…何と澄んだ顔なのだろう…)
同性ながら、見惚れてしまう。
不躾だとは思いつつ、幸村は佐助の顔をまじまじと見ていた。
「俺様――欲張りだからなぁ」
「……?」
「――そこは、大人になんないとね」
「何……?」
離れていく佐助に、幸村は理解できず目を瞬かせる。
「何でもないよ」
あはは、と佐助はいつものように笑って言った。
どうしてか、幸村の胸がチクリとする。
――夢の最後で聞こえた、助けを求める佐助の声。…それに少し似ているような…そんな気がした。
「…どこか、痛むのか…?怪我をしたのではないか」
「えっ、まさか。してないよ」
と、佐助は驚いた顔を向ける。
「じゃあ、昼間の体調が治りきっていないのでは…」
「もうとっくに平気だって。…何か変な顔してた?ごめんね」
「――いや…」
妙なことを言ってしまった、と気まずい表情をする幸村。
佐助はそんな彼を、何か考えるように見ていたが、
「ねえ、旦那。一つお願いがあるんだけど」
「何だっ?」
今なら何でも聞きそうな勢いの幸村である。
…佐助は、少し言いにくそうにしながら、
「――ずっと――…友達、…でいて欲しいんだ…」
「……な、に……を」
幸村はカッとなり、「当たり前だろう!」
ボスッ!
「…ってぇ!何で殴んのっ?」
「お前が馬鹿なことを言ったからだ!」
「――馬鹿って」
「馬鹿だ。……そんなのは、頼むものなんかじゃない」
「だって……」
佐助は弱々しく、「ずっと――いたいんだ」
「だから……そう言えば良いだろう」
と、幸村は佐助へ両手を伸ばし、
「だ、旦那…?」
戸惑う佐助の身体を、ギュッと抱き――
「ぐぇっ…!だ……な、出る…っ!――内臓、はみ出るぅッ」
――締めた。…いや、絞めた?
すぐに離され、佐助は大きく息を吐き出す。
「…今度またつまらぬことを言ったら、さっきの倍だ」
ひぇ、と悲鳴にも近い声を上げ、
「二度と言いません!」
佐助は冷や汗をかいた。
「――頼むでなく、言うものだ。…そうしたいのであれば」
「……え?」
「だから」
憮然としたまま幸村は、
「佐助は、ずっと友じ――友達だ。…大事な。俺はそう思っていたぞ、頼まれずとも。……お前は違ったのか」
「あ……」
佐助はブンブンと首を振り、「ううんっ、俺様も同じ――」
「――良かった。…俺、そんなに薄情な奴に思われていたのかと焦ったぞ」
「ちがっ、そんな意味じゃ」
「…無理をさせるのは嫌だ。……特に、お前には」
打って変わって幸村は大人しくなり、
「すまぬ……痛かっただろう」
「旦那――」
伏し目がちになった幸村を、佐助は――…
――衝動的に、腕にしていた。
(……何、してんだろ……俺様…?)
ヤバい、絶対引かれるって……!
…しかし、今更どう言い訳をすれば良いのか…。というか、自分でも何故か分かっていない始末。
「――佐助も癖なのか?」
違和感など感じてなさそうに、幸村は尋ねてくる。
「え?――あ、その…」
(そういや、旦那の癖はこれかも?って、盗み聞きしたっけ…)
……た、助かった
「俺と、慶次殿と同じだな」
(―――は?)
「慶ちゃん……?」
「ああ、そうみたいだぞ?たまに…。――今日も、助けてもらった後に…」
「――……」
…佐助の中で、ある一つの仮定が生まれたのだが。
(――まさか、ね……)
と、すぐに振り払う。
(……だって、あり得ないでしょ)
「佐助……?」
茶色の瞳に月の光が映り込み、ガラス玉のように輝く。
その二つを見ていると、可能性もなくはない気がし――
……佐助の心を、不安が掠めた。
*2010.冬〜下書き、2011.7.18 up
(当サイト開設・公開‥2011.6.19〜)
あとがき
ここまで読んで下さり、ありがとうございます!
可愛い、と言うと幸村が拗ねるので、今回は自重してみたらしい佐助。
クサいの沢山ですみません;
幸村がふとそんなことを思ってしまうのは、自分の前での佐助があまりにも爽やかで優しいお兄さんだからです。すると、逆に信じられないというか、想像すらできないなぁ…と、純粋に首が傾くみたいで。
小旅行編はこれで終わりです。
が、もうしばらく夏が続きます(^q^)
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