月夜編2















『だーんな』







……ん、佐助……?






『――好きだよ』





ああ……それは、今日聞いた…





『違う、そうじゃなくてさ――』




え……?






『――……あいしてる……よ』





……

…………


――……あ、あっ……い――?






『――たすけて』



えっ?

佐助、どうした?


どこか痛いのか、それとも――





『――――』





佐助……?



――返事をしろ、佐助……!
















ガバッと幸村は起き上がった。



(――あれ)



キョロキョロと見渡すと――三泊目ともなると、もう見慣れた部屋の中。

昼間の疲れからか、皆深く寝静まり、起きる様子もない。


夜中に目覚めるなど、自分にしては珍しいこともあるものだ。

何やら、佐助を必死で呼んでいた気がしたが…


チラッと佐助の布団を見ると、もぬけの殻。


(…どこへ行ったんだ?)



さあ、と風が吹いた気がし、窓を見ると隙間が開いている。

ロールスクリーンが少し上がっており、明るい月が部屋を柔らかく照らしていたのだということにも気付かされた。


――外か……


スッと立ち上がり、テラスに出る。



「佐助…?」


小声で呼んでみるが、何も返って来ない。

ソファに横たわる彼を覗き込む。


(まさか、寝ているのか……?)


いくら何でも身体に良くないだろう。


「おい、さ…」


だが、静かに上下する胸を見ると、無理に起こすのも忍びない気がしてくる。


どうにか自然に気が付かないだろうか…


そう思い、幸村はじっとその顔を見つめていた。



月の光に照らされる白い顔、オレンジの髪が今は茶色に見え、いつもの雰囲気と少し違う。

――キリッとした長く綺麗な眉に、閉じられた瞳と被さる睫毛の影。…形の良い、唇。


起きているときはチャラついているのが、ちょっと信じがたいくらいである。



(寝顔も整っているとはな…)



この外見だけでも女子が放っておかないであろうし、性格も頭も良いときている。

…きっと、昔から人気があったのだろう。


幸村の聞こえないところで(と、向こうは思っているらしいが、実際、何度素知らぬ振りをしたことか)、元親たちとアダルトな話を楽しそうにしていた彼。

彼女がいて、かすがの言っていたことなど、きっと既に――


それは、佐助に限らず他の友人たちも同様なのだろうが、自分の前ではそういうものを出さない彼だけに、一体どんな風になるのだろう、とふと思ってしまう。


佐助のことだから、いつものああいう感じで、そう変わらぬのかも知れぬな…


……って、何を考えているんだ、俺は。



「…ん」

やはり人の気配を感じたのか、佐助がすぅっと目を開けた。


「――え、旦那…?」

「こんなところで寝たら、身体に毒だぞ」
「あ、うん…」

まだ当惑したように肘を着き、


「えと……でも、まだ夜…だよね」

幸村がここにいるのが、よほど信じられないと見える。


「ああ、目が覚めてな…。お前の姿が見えぬので」
「あー、ごめん。俺様も起きちゃってさ。すぐ戻るつもりだったんだけど」

佐助は、隣に幸村を座らせ、

「珍しくない?旦那、寝たら朝までぐっすり――ってなイメージだったんだけど」

「……何だか、夢を見ていたらしくてな。お前を探しているような…」

正夢だったのかな、と幸村は呟いた。


「――気が合うね」

佐助は微笑し、「俺様の夢にも旦那が出てきたよ」

「おお、どんな――」
「ね、旦那」

尋ねた幸村の言葉を遮るが如く、


「今日は、本当にごめん……海で、助けらんなくて」


幸村は目を見開き、

「何を言う、悪いのは俺だ。佐助はちゃんと波のことを教えてくれた。お前が謝る必要など、どこにもない」


「…でも」

苦笑いし、

「助けたかった――俺様が。…目の前に、いたのに」


「佐助…」



「…旦那には、いつも助けてもらってばっかだ。…俺様も旦那のために、何か――」


「佐助、そういえば」

今度は幸村がそれを遮るように、

「海で言いかけたことを、まだ伝えていなかった」

「……え?」



「俺も、佐助と一緒にいるのがすごく楽しいし、…落ち着く」


「えっ――え?」

目を丸くし、佐助はいつものように振る舞うまでに、時間がかかりそうである。


「しかし…もしかすると、甘えているような気もするんだ。何か俺、お前に態度が大きくないか?と後で思うことが、よくある。佐助はいつも笑って優しいから、自分が気付かぬ内に、嫌な思いをさせていやしないかと――」


「なわけないじゃん!」


佐助は本当に嬉しそうな笑顔になり、

「どこがデカい態度よ?――旦那は、やっぱり面白いなー」

「いや、だが…」


「…てか、すっげー嬉しいんですけど。俺様、旦那にそう思ってもらいたかったからさ」


と少し顔を傾け、さらにまろやかな笑みを向ける。




『――あいしてるよ』




記憶から消えていた夢の台詞が突然甦り、幸村は赤面した。



(…夢だ、夢)


まあ、佐助ならば冗談のように、誰にでも言いそうなものだが…。

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