月夜編1
※佐助、幸村
プチ旅行編、最終話です。ちょっと短め。
色々とクサいです;
『お前にもうその資格はないよ』
そうだよね、だって……
『――守れなかったんだから』
…うん
『また、お前は守れなかったね。…あいつがいなかったら、どうなっていたんだろう?』
………うん
『やっぱり俺らは闇だね。傍にいると、引きずってしまうんだ。――分かってただろ、不釣り合いなんだって』
………分かってるよ
『じゃあ――』
でも、じゃあ……どうしてまた俺は生まれて――会えたんだ…?
『…それは……』
なあ、苦しいよ
――やっぱり、惹かれてしまうから
『……』
な……どうしたら――
『――よ』
……え?
『苦しめよ』
――そんな
『ねぇ、何我儘言ってんの……?自分のしたこと、分かってる?お前、もしかして…手にできるとか思ってた?だとしたら、すごい勘違い』
だって……
『そんな資格は最初からないんだよ。――また生まれたのはさ、苦しむためだよ。あのときの罰を、じっくり味わうためだ』
――そんなの……
……いや、それでも良い。…ただ、
もう一度、……もう一度だけ…
『……守りたいって?』
頼む……
『もう、それはお前の役目じゃない。お前はもう影にさえなれない……ただの――闇』
『お前はもう要らないんだよ』
『――でも、罰はしっかり受けないとね……』
…ゆっくり目を開ける。
――じわじわと戻ってくる現実感。
身体が強ばり、汗――それも冷たいもので、じっとり濡れていた。
(…喉、カラカラ…)
佐助は、他の皆を起こさないようそっと冷蔵庫まで行き、ペットボトルのお茶を取り出す。
広いテラスへの窓を開け、外に出た。
ガーデン用の白いソファに腰を下ろし、寛ぐ。オーシャンビューが楽しめる贅沢な場所だが、真夜中では船などの明かりが見えるのみ。
しかし、満ちた月が明るく、それはそれでなかなかの情緒がある。
この旅館は和モダンな造りで、洒落た建物と庭がほのかに照らされる様は、ドラマや映画の撮影場所にも適しているとまで言えそうだった。
今夜は、海の後は花火をして大いに盛り上がった。
政宗と元親が、偶然にも自分たちの地元に近い大学に通うらしい彼女たちとメールアドレスを交換したと自慢気に話していたことや、皆で今度合コンをしようと言えば、幸村が真っ赤になって必死で断っていたこと。
鶴姫、孫市、吉継の三人から元親の幼少時代の話を聞いたらしい元就が、彼を新たな方向でからかい始めたり。
すぐにポツンとなろうとする三成を、幸村と元親が、うるさく暑苦しいまでにぐいぐい手を引いていたこと。
…それにいちいちカッカと反応する彼を見て、吉継がこっそりニヤニヤしていたこと。
かすがと謙信の熱々カップルは、二人の世界にしょっちゅう入り込み、小十郎がやれやれと溜め息をついていたので、「羨まし〜い?」と言ってみれば、えらい目に遭って後悔したことなど――
(…楽しかったなぁ)
佐助は小さく笑う。
夜風が心地好く、かいた汗もほとんど乾いていた。
(――なのにさ)
何だって、あんな夢…
よく覚えてはいないが、とてつもなく気分が悪い。
目覚めて感じたのは、陰鬱さ、絶望感に喪失感。……痛みと哀しみ。
――何なんだ、『守れなかった』って…
思い巡らせるが、
(今日は……ダメだったなぁ…俺様)
結局、考えないようにしていたことに行き着いてしまう。
…あのとき。
幸村の姿が、波に消えたとき――
目の端で、彼の名を呼びすぐに潜った慶次が見えていたのに。
――佐助は、全く動けなかった。…自分の方が、近くにいたというのに。
…あの瞬間、まるで何かが、佐助を凍り付かせてしまったかのようだった。
(もし、あのまま……)
腹の下の方から何か冷たいものが上がってきた気がし、長いソファに横になる。
月を眺めながら、祈るように目を閉じた。
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