砂浜編2


「寝惚けて、旦那が女に見えたってさ!あいつホント野獣だよねー!」
「何!?政宗殿は、そんなこと一言も…!」

「…あっ、ほら――旦那の髪が、長いから?」

「長さなら慶次殿の方が!…許せぬ!勝負でござる、政宗殿ォォォ!某が、男の中の男であることをお教え致すぁぁ!!」


いつもの雄叫びを上げ、幸村は海へ突進して行った。



「あーあー……」


(――手が女の子みたいだった、って言わなくて良かった…)



「さ、乾杯しましょう、片倉先生」

何事もなかったかのように、ニコニコと謙信が小十郎へ缶ビールを渡す。
小十郎も、何だかんだ言っていた割に、美味そうに喉を鳴らした。


「…慶次は何をしておったのだ、政宗に易々あんな暴挙を許して」

元就がコソッと言うと、

「だって…昨日なかなか寝付けなくて。気付いたら朝だった」

若干シュンとなった慶次が小声で答える。


「やっぱり、真田はあの色が似合うな」

小十郎が慶次へ言うと、たちまちその顔は喜びに溢れ、

「だろ!?俺って、やっぱ見る目あるよな?」

幸村は、赤に炎のデザインの入った鮮やかな水着を身に着けていた。


「――確かに。負けたわ」

佐助が、非常に面白くなさそうだが言った。


「よし、俺らも行こうぜー!」

慶次が、すっかり張り切って皆を促す。


パラソルには謙信と小十郎だけが残り、空いた缶がみるみる増えていくのだった。













昼時になり、海の家で食事をしていた彼らだが、何せ十三人という大所帯の上に、派手な容姿ばかりが集まっているので、周りの注目を浴びっぱなしだった。


「元親殿の波さばきは、本当に見事ですな!」

幸村が、感服したように言った。

決して大げさではなく、元親はサーフボードを巧みに操り、どんな波も滑るように乗りこなしていたのだ。


「そーだろ!?海といやぁ、この俺をおいてはいねぇ」

しかし、去年レクチャーを受けたという、佐助、慶次、政宗たちの腕前もなかなかのもので。

午前中はほとんど競泳にいそしんだ幸村だが、午後からは自分もボードを借りて、教えてもらおうと考えていた。

元就や吉継は興味なさそうだったが、三成は少しやりたそうな目をしていた気がするので誘ってみると、


「まあ…やってやらんこともない」

と言いながらも、かすかに口角を上げていた。

女の子たちはゆっくり遊ぶとのことなので、男連中は先にパラソルの方へ駆け出す。

クーラーボックスから飲み物を物色していると、


「――あの、すみません」

振り向くと、自分たちと同年代くらいの女の子が四人。

「はい?」

慶次がにこやかに答えると、彼女たちはホッとしたように、

「あのっ…、サーフィンすごいですよね…!プロみたい――。皆さん、そういうサークルの方とかなんですか?」

「いやぁ〜、全っ然!バカみてーにすごいのはコイツだけで、俺らただの高校生だし」

「ええ!?」

女の子たちは目を丸くし、「ごっ、ごめんなさい!てっきり同い年くらいかと思って――大人っぽいから」

四人は大学生で、サーフィンを始めたばかりなのだという。


「…あの、もし良かったら……コツとか教えてもらえませんか?」

自分たちが年上だと分かっても、丁寧に頭を下げてくる。

慶次はチラッと元親を見た。――彼は、こういうタイプに弱いのだ。


「うん、じゃあ皆でやろうぜ!なっ?」

爽やかながら、押しの強さはピカイチの慶次が言えば――というより、真面目そうな彼女たちを前に、嫌だとは言えない幸村と三成である。前者は恥ずかしさ、後者は面倒さが理由なのだとしても。

幸村と三成はボードを借りに一旦パラソルを離れ、再び戻る。

女の子たちには元親や政宗が主に教えているようで、佐助と慶次が海からこちらに手招きしていた。

三成を先に行かせ、先ほどは飲めなかったジュースを取り、喉の渇きから一気に煽る幸村だが、


「――!?」

予測していた味との違いに驚き、缶をよく見てみると、



(――しまった…)



…それは、一見ジュースに思える缶チューハイだった。


幸村はキョロキョロと周りに誰もいないのを確かめ、急いで手洗い所の排水溝に残りを流す。


(先生方、もったいないことをして申し訳ござらぬ…っ)


しかし…、間違ってしまっただけで、そんなつもりは…!



缶をゴミ箱に捨て、罪悪感から逃れるように、全速力で皆の元へ駆けて行った。

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