旅館編4






幸村が静かに襖を開けると、


「あ、お帰り〜」


案の定、皆まだ起きていた。

布団が六組並べられている。三組ずつ頭が向き合う形で、話をするのにも都合が良い。

しかし、散々リラクゼーションを受けてきた幸村は、もう眠くて仕方がなかった。


「どこ行ってたの?…てか、また風呂入った?」

慶次が、幸村の下ろした髪を見て言った。

ブロー後なので、いつもよりフワフワな仕上がりである。


「いえ、かすがと岩盤浴に行っておりました」
「あ、そうだったんだ」


佐助が近寄り、「うわ〜、すっごいスベスベじゃーん」

気持ち良さそうに、幸村の頬を撫でた。


「――どれどれ?」

慶次と政宗も近付き、佐助の手を払い触る。


「おおー、ホントだー…」
「Hum…。岩盤浴、すげぇな」

幸村は、やはり恥ずかしかったのでエステのことは黙っておいた。かすがには口止めしているので、バレる心配はない。


くぁ…と欠伸をし、

「すみませぬ…。某、お先に…」

空いている布団へ潜り込み、「おやすみなさい…」


しれっと、その両隣の布団に入る慶次と政宗。


「親ちゃん、俺様のとこで一緒に寝るぅー?」

満面の笑みで、佐助は自分の布団をポンポン叩く。

「佐助、皆が寝てからにするのだぞ?はやる気持ちは分かるが」

「もっちろん!俺様、わきまえてるからねっ」

「さすが、紳士だな」

「でしょでしょ?親ちゃん、姫ちゃんに想い人がいて傷心だろうから、俺様優しく慰めてあげるね」



「はアァァァ!?」



それまで無視を決め込んでいた元親が、絶叫にも近い声を上げた。


「あ、ごめんっ。こーいうときこそ、激しい方が――?」

「黙れ黙れ!…だっかっらー…俺はあんなガキ、何とも思ってねぇ!ただの幼なじみっつったろーが!?」

「え〜、そんなの面白くなーい」

「んだとッ?」


「佐助、言ってやるな。…こやつは、自分はお前一筋なんだと伝えたかったのだ」

「……アァ?」

「親ちゃん…っ、きゅん」



「だああ、もう!お前ら消えッ」


元親から枕が飛び、元就が避け――佐助が受け取る。



「――あら?慶ちゃんとまーくん、もう寝んの?」

やけに静かな二人へ、佐助は意外そうに尋ねた。


「う、うん――明日に備えて…早めに…」
「海で勝負すんぜー?こいつ、泳ぎはどうなんだろうな?」

政宗が、幸村を顎で指す。

「不得意なわけがなかろう」

ふん、と鼻を鳴らす元就。


――学園のプールが改装中のため、水泳の授業はできず終いだった。
全員、明日が初泳ぎである。


部屋の明かりを消すと、


「あの映画…。――旦那が良い子で良かったよ。ま、俺様の説明が上手かったからなんだけど」

「あーあー、そうですね」


「しかし…」

元就が溜め息をつき、「これで、幸村の恋愛対象が幅広くなってしまった…」

「――え?」

「そうか、幸村真面目だからな〜。告ってきたのが女だろうが男だろうが、外国人や人妻や、オッサンでも中坊でも、あー…とにかくどんな奴でも、きっちり考えて応えそうだよな。…んで、自分が好きになる方も、範囲広がったからよー」


「――そ、んなアホな…。いくら何でも、旦那が真っ白けっつってもさ」

「初恋が、ザビー先生という可能性も…」


ザビー先生というのは、学園の外国人教諭で、自身の信ずる『愛』を掲げた、ツッコミどころ満載の教えを広げようとする、激しく迷惑かつ暑苦しい人物である。

見てくれも、ゴツく髭たっぷりの…この季節は、特にご遠慮願いたい。



「その前に…っ」

慶次は言いかけ、「…い、いくら何でも、そりゃねぇよ…うん」

「――だよね?…でも、俺様のせいでもあるしな…。旦那が変なのに引っ掛かんないよう、責任持って見張っとこ…」


「…………ウッゼぇ」

政宗が小声で言ったが、耳の良い佐助にはしっかり届き、

「え――何で?ちょ、ひどくね?」




……慶次は目をつむり眠ろうとするのだが、ウトウトもできない理由は、佐助たちがうるさいからなのではない。



――未だに治まらない。



……心臓の、踊り狂う音が。





(…何で、いきなり綺麗になってんの――?)



どうして皆、気付かないんだ…?いや、気付いてもらっちゃ困るけど。…俺だけ、一人こんな…。

格好悪過ぎる…



(ヤバい……何かもう色々と。…何だ、この動悸…)



初めて女の子とキスをしたときでも、ここまで動揺しなかった。
…一体、自分はどうしたというのだろう。


(確かに、あのときの俺より歳も若いし、経験少ないっつってもさ…)


記憶が戻ってから、自分は以前よりも落ち着いた……ように思えていたのだが…。



先ほど、幸村の頬に触れた指先を、自分の唇に当て――



(……うわ)


自分でしといてなんだけど……





(恥ず……!!)





慶次が一人悶絶している一方、



(寝相悪ィ振りして、こいつんとこ入っちまおうかな〜…)


政宗は、スヤスヤと眠る幸村の寝顔を、薄闇の中でもはっきり見えているかのように、左目をらんらんと光らせていた。







*2010.冬〜下書き、2011.7.14 up
(当サイト開設・公開‥2011.6.19〜)

あとがき


ここまで読んで下さり、ありがとうございます!

慶次ー!ホントに恥ずかしいぃ!!

…すみません、本当に。いや、もう全部…。
いつもの六人でも良いのに、つい…出したくて。不必要なくだりが多々(^q^)

幸村に色々学んで?欲しかったのか…。

謙信様のイメージを破壊しまくりで申し訳なく…!許可って。無理過ぎ(汗)

次は海ですが、これまた生かせてない;

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