旅館編2

佐助の問いに、吉継は少しためらっていたが、


「実は…この映画と同じでな…。それで言えなんだのよ、三成」


再び、ざわわっとなる一同。


「そっか…。それで」
「何だよ、そうだったのか。…安心しろ、ここにいる奴らは引いたりしねーぞ!」
「そうですよ、大谷さん!」

皆、口々に言い、


「刑部、私がそんなことでお前を嫌がるわけがあるまい。早く言えば良かったものを。……馬鹿め」

三成は真剣な顔である。


「……」

吉継は決心したように、


「実はな――……






……徳川。――っ」



言った後で、ブッと吹き出す吉継。



――へなへなと脱力する面々。



「ちょっとぉ〜!すっげぇ真剣だったのに、俺!」
「なんつー悪趣味な嘘。ひでぇ、俺の純情を弄びやがって」
「もー…心配して損しましたよぉ…」
「やっぱなー…。大谷さんだもんなぁ」
「――あ、冗談だったのでござるか…」

「…我はすぐに分かったわ」
「Ha、確かに。途中で思い切りニヤけてたしな」
「生徒会にいれば、慣れるものだがな…」



―――………



「……ミッチー?」


三成が、下を向いたままブツブツ言っている。


「それで……この間も、あいつを見て…」


「石田ぁ…?」

元親も、その不気味な様子に不安そうな顔に変わる。



「…刑部、応援したいのはやまやまだが――無理だ。というか、何故あいつなんだ?趣味が悪いにもほどがあるぞ。いくら魔王の妹が手に入らなくなったとはいえ」

「えっ?何、何!?何の話!?魔王って、学園長のことだよね!?」

嬉々とする佐助を、吉継は冷たく睨み、


「三成、あれも冗談だったのだぞ…。まだ信じておったのか」

「悪いが諦めろ。でないと、あいつの首が飛ぶ。…秀吉様はどうだ?もしくは半兵衛様。それなら」

「ミッチー、目覚まして!てか、話ちゃんと聞いてっ」

「…すげぇ。鶴の字よりも重症だ、こいつ」


三成を説得するため、佐助たちが必死になっていると、襖がスッと開き、


「何を騒いでいるんだ」

かすがが呆れた顔で、「幸村、ちょっと良いか?」

「何だ?」
「悪いが、こいつ借りるぞ。結構時間かかるから」

主に、佐助や慶次に向かって言った。


「ああ――では、姫殿と孫市殿、石田殿に大谷殿は、おやすみなさいませ!明日は海ですぞ」

「は〜い!楽しみにしてますねっ」
「おやすみ」

女子二人はにこやかに言うが、

「海だと?」

三成たちは、水着の用意などしてこなかったのだろう。

しかし、幸村たちは出て行ってしまった。


「あ、大丈夫!俺ら余分に持って来たから、貸してやるよ」

慶次が、ごそごそとバッグを漁り出す。

「『俺ら』……?」
「俺も持って来た。あ、新品だから心配すんな?」

と、政宗。


「皆で買いに行ったんだよね。

――旦那の分」




「――は?」



三成たちは、少々固まった。


「や、旦那が新しいの欲しいって言ってたからさ。だって、今までこういうの買ったことがないんだって…。海とか小さい頃以来行ってないらしくて」

「皆で選んでも意見バラバラだったから、結局それぞれ好きなの買ったんだ。明日、この中から選んでもらおうと思ってさ」

「Ahー、だから余りもんで悪いが、どれになるか楽しみにしててくれよ」


「……」


三成は呆然としていたが、吉継はおかしそうに笑った。


「――毛利、長曾我部、ヌシらは?」
「…我が許すと思うか?――こやつらのセンスを」

「買ったのか…」

元親だけは、一心に幸村に似合う水着を選ぶ彼らを、どこか遠い目で見守っていたらしい…。



「真田さんは誰を――あ、いえ、誰のを選ぶのでしょうね?」

鶴姫が楽しそうに、広げられた水着を眺める。


(――え、今の確信犯?)


慶次と政宗は、目の前の可愛らしい少女を、戦いたように見つめる。


「…賭けるか?」


孫市が、それは素敵な微笑みを浮かべた。














「これは気持ち良いが…」


幸村は、汗を止めどなく流しながら、「夏より、冬にやりたいような…」

はふ、と真っ赤にした顔で息をついた。


「あれだ、暑い日にこそ、熱いものを食べると良いと言うじゃないか?」

かすがが、同じく滲む汗をタオルで拭いながら答える。

「…それ、一緒か?」

絶対違うだろ――と、小さく笑う幸村に、かすがも笑った。




――旅館の中にある、岩盤浴。
二人は、ここで大汗をかいていた。

作務衣のような衣服を身に着けるので、男女一緒に入ることもできる。
二人用の個室にて、正に兄妹水いらず。

旅館にはエステルームがあり、その中の岩盤浴コースを、かすがは幸村とともに受けるため予約していたらしい。

最近は、ゆっくり二人でいる時間が少なくなっていたので、幸村は素直に嬉しかった。



「あのな……お前は多分、破廉恥って思うだろうけど」

かすがが、やけに言いにくそうにモジモジし始める。


「な…っ?」

幸村は身構えるが、「――いや、最近は俺も成長してきているらしい…!何だ、…言ってみろ」

「…謙信様がお前に言うのは、さすがに私も耐えられなくてな…」
「昼間、言いかけてたやつか」
「う…そう」

かすがは白い顔を一層赤らめ、「これ、私じゃなく、謙信様のお言葉だからな…!」

「うむ、分かったから。――で?」

幸村は、暑さで茹でダコの一歩手前である。


「…その…私たち、婚約……しただろう?」
「ああ、そうだな」
「それで、謙信様が――」

かすがは息を吸い、「お前に許可をもらいたい。…と仰るんだ」


許可…?と、幸村は不思議そうに、

「別に、俺は反対なんてしていないじゃないか」

「そうじゃなくて…」

うう、とかすがは唸った後、


「――つまり…。…謙信様のお宅に、私を泊まらせて良いかと…っ」


たちまちに幸村と同じくらい、真っ赤になるかすがの顔。

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