試合編3






翌日の試合は、小十郎も謙信も決勝まで勝ち残り――すごいことだと幸村は目を輝かせていたが、他のメンバーたちは二人の強さを重々知っていたので、予想通りだと思っていた。

決勝戦は一番緊迫した試合となったが、惜しくも小十郎は優勝を取り逃した。


その瞬間、

「謙信様ぁ……!」

という、かすがのうっとりした声が聞こえ、謙信もそれににこやかに応える。

その後は、いつものように手を取り合い、見つめ合い――周囲にバラの花びらを撒き散らし、二人の世界に突入するのだった。


皆、失笑するしかないところだが、鶴姫だけは二人を羨ましそうに眺める。


「片倉先生、準優勝おめでとうございまする!」

幸村を始め、他の皆も口を揃えて言えば、小十郎も素直に礼を言うしかない。
心中では、非常に悔しい思いを抱えていたが…。


「先生方が、こんなにお強いとは…!某、感服致しました!是非とも、今度稽古を付けて頂きたく――」

興奮そのままに訴える幸村を、かすががたしなめるように、

「謙信様はお忙しい身なのだから、あまり無理は…」

だが、謙信は微笑み、

「良いのですよ、いつでもお相手致しましょう。かすがが他の予定がある日に。…彼女との時間が最優先ですので」

「はあぁー……謙信様ぁ…!」

ますます恍惚の眼差しを向けるかすが。


(…兄貴の前でよく言うわ)


他の面々は、真顔で言ってのけられる謙信に、すっかり呆れ返っていた。


――結局、かすがたちに同行したのは鶴姫と孫市だけで、他の友人たちは様々な理由で行けなくなってしまったらしい。

移動にはこちらと似て、武田家の車が出動していた。


「ありがとうございまする、上杉先生!よろしくお願い致しまする!」

「ええ、あなたにはこちらからもお願いすることがありますので――」

と謙信が言いかけるのを、かすがが慌てて止める。

「謙信様っ、私から言いますから…!」

しぃーっと、唇に人差し指を当てた。


「?」

キョトンとする幸村に、「気にするな」と、かすがは何故か赤くなりながらごまかした。


「――あ、ミッチーたちだ」

佐助が目を向けた方を見ると、三成と吉継、秀吉に半兵衛がこちらにやって来るところだった。

三成も吉継も、痩身。三成は手足が長く小顔で、正にモデル体型だが、本人はそういうものに全く興味がないらしく褒め言葉にはなり得ない。

吉継は、色白というよりも青白く、本来大きな瞳を気だるそうに開けるため、伏し目がちという印象でしかない。単に、極端な出不精で、やる気がとことんないせいからのこの外見だったが…。
三成の目には病弱に映るようで、今の今まで騙され続けているとのこと。(官兵衛談)


「上杉先生、片倉先生、二人して素晴らしい結果だったな」

秀吉が、感心したように二人の肩を叩く。


「秀吉はもちろん優勝したよ。――当然だけどね」

フフッと、誇らしげに半兵衛が笑う。


おめでとうございます、と一同が言い、二人は笑顔で応えた。


「慶次が面倒を起こした際には、一つガツンとやっておいてくれ」

「保護者かよ」

笑みながら冗談っぽく言う秀吉に、慶次は口を尖らせ、

「自分だって、昔は相当だったくせに…」


「ハッハッハッ!何のことだか、さっぱり」

豪快に笑いつつ、秀吉の目は「余計なこと言うな」と脅していた。


「慶次くんに限らず、君らの行動は、普段から注意しなきゃならないところだらけなんだけど」

半兵衛は目を光らせるが、「まぁ…最近は良い子にしてるみたいだね?」

と、幸村の方をチラッと見る。


「前からちゃんとやってますよ〜?課題だって、全員もう終わらせてますしー」

佐助が笑顔で言った。


「おお、感心だな!慶次は、いつも最後の日に泣き泣きやっておったのに」

「泣いてねぇよっ。だいたい、いつの話してんだよ!すっげー昔のことじゃねーか」

少々恥ずかしそうに抗議する慶次だが、秀吉と対等に話している彼を、幸村はやはり驚きの目で見ていた。

謙信との睦まじさにもそうだったが。――ちなみに、かすがはその間中ずっと慶次を睨んでいた…。

そして、今度は半兵衛から面白くなさそうな視線を送られている。


しかし、半兵衛が佐助の言葉に反論しなかったのも無理はない。
何しろ、こう見えて佐助と政宗はいつも学年で上位に入るほどの優秀な成績の持ち主であるし、慶次と元親もそこそこ安定した位置にいつもいた。

だが、見えないところで、彼らがあまりよろしくはない行動をしているだろうことを、半兵衛は言いたいのだ。


「彼らまで、君らのようにしないでくれたまえよ」

元就と幸村を見て言うのを、四人は心外だと思いつつ、笑ってやり過ごす。


(…元就の本性知らねぇから)


誰が一番そう思ったか、他の三人にはすぐに分かったことだろう。

元就の学年トップは誰もが知る事実で、幸村は何事にも懸命に取り組む姿勢から、上位に入ることが多い。――かなり意外だったのは…口にしていないが。

品行方正な二人は、さぞや半兵衛のお気に入りの生徒に違いない。


「秀吉たちは、この後どうするんだ?俺らは政宗んとこの旅館に二泊するんだけど」
「ああ――少し足を伸ばして、実家の方へな。墓参りも兼ねて」
「あ…そか」

慶次は、ずっと静かに控えている三成たちに目をやり、

「え、石田くんたちも一緒に?」

「いや、我と半兵衛で――そうだ」

秀吉は、三成と吉継へ、「二人とも、こいつらと一緒に遊んで帰ったらどうだ?」


「――は…」

予想も(むしろ望みも)しない提案に、三成は目を丸くする。

しかし、敬愛する彼の言葉を無下に拒否できないのか、返答に詰まっていた。


「お、いーねぇ!お二人さん、そうしようよ!」

「ミッチー、せっかくだしさ!」

佐助は、「おい…っ」と目を吊り上げる政宗を、横目で楽しむように誘う。

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