試合編2






BSR夏杯とは、学園を運営するグループが毎年夏に開催している大会で、剣道に限らず空手や柔道、弓道に合気道など、球技以外の種目が行われる。

参加資格は社会人からで、グループ傘下の、学校や会社の、教師や社員が出場するので、政宗たちは出たくてもまだ叶わない。

伊達家の運転手付きの大きな車で、小十郎と六人は快適に開催地へと向かっていた。
大会は明日で、今日から三泊する予定である。


「豊臣先生も空手で出場されるらしい。石田たちも恐らく応援に来ているのだろうな」

元就の言葉に、政宗は「うげ」と嫌な顔をする。


「政宗殿?」

幸村が不思議そうに尋ねると、


「あのね、まーくんって昔から負けず知らずでさ、すっごい威張りくさってたのね?で、初等部の終わり頃だったかなぁ…初めて試合でミッチーとやって、ボロ負けしたの。それ以来ずーっと目の敵にしてんだよ。――向こうは鼻にもかけてないんだけどさ」

「中等部に入っても、しばらく認識されてなかったもんな?プライド、ズタズタ」

佐助と元親がケラケラと笑った。


「Shut up!…もう、今じゃ負けねぇよ。てか、あいつ性格悪ィし。だから嫌なだけだ」

「まーねぇ。でも、案外熱くて、人間らしいとこもあるんだよ?ね、就ちゃん」

「ああ、ああ見えて割とな。我儘で人の言うことを聞かぬ子供のようなところも…。そう思うと、政宗と似ている気もするな」

「No!!マジやめろ!」

頭を抱える政宗に、

「政宗殿と石田殿は似ておりませぬよ」

と、幸村が味方に付いた。


「だろ?だよな?」
「はい。石田殿もお強いのでしょうが、某は闘いたいと思いませぬ……政宗殿と違って。――ですから、某的には似ておらぬかと」

「そりゃ、あのとき――」

慶次と元親が同時に言いかけ、やめる。


「……?」

首を傾げる幸村と佐助だったが、


「OK…やっぱそう思ってくれんだな、今も」

フッと、満足げに笑う政宗に、まぁ良いか…と思わされた。


「しかし、言うほど悪い方ではありませぬぞ?某が黒田殿への無体を抗議すると、聞いていたような無理を強いる姿は見なくなりましたし」

「…それは、旦那の前でだけなんだけどね」

佐助の声は、幸村には届いていない。


「そうそう、実は結構面白ぇ奴なんだぜ?あいつ」
「え、元親もしかして仲良いの?」

初耳、と慶次が驚く。


「孫市や鶴の字と昔なじみっつったろ?家が近所でよ、保育園のとき一緒だったんだよ。あと、家康と大谷もな」
「あ、そうだったんだー」

へー、と佐助も同じような反応を見せる。


「おう。豊臣のオッサンは大学生んとき塾の講師やってたんだけどよ、そこに石田も通ってて…で、心酔するようになったみてぇだな」

三成の『秀吉様!』振りは、幸村の『お館様ぁ!』にも負けず劣らずの勢いなのだ。


「オッサンって!あの人まだ若ぇんだから、言ってやるなよー」

そう言いつつ、慶次は吹き出した。


「竹中先生と同い年…とかだっけ?――絶対信じらんない」


豊臣秀吉、竹中半兵衛も、学園の教師のことである。

小十郎と同じくらいの年齢なのだが、秀吉は明らかにそれより上に見え、半兵衛は若く見える。
二人は親友らしいのだが、あまりに見た目のタイプが違うので、皆初めは到底信じられない気持ちになってしまう。

それもそのはず、秀吉は大男で顔もいかつい、ついでに眉ももみ上げも濃い、言うなれば――ゴリラ系。
対し、半兵衛は女性が羨むほどの美しい容貌。立ち居振舞いも、優雅なことこの上ない。スラッとした体型は少し謙信に似ているが、大きな違いと言えばその瞳。

謙信は涼しげな切れ長の淡いブルーの瞳、半兵衛は大きくハッキリした紫の瞳にバサバサの睫毛。

さらに言えば、謙信は誰に対しても穏やかで優しいが、半兵衛は素行の悪い(と彼が思っている)生徒には、容赦がない。

いつも常備している伸縮性の指し棒が、たまに鞭に見える気がするのは、佐助たちだけではないはずである。
秀吉の能力に心底惚れ込み、彼を出世させるべく色々奔走しているらしい。


「半…竹中先生も、やっぱ来るんだろうなー。…俺、苦手なんだよなぁ昔から」

慶次が溜め息をつく。

それを見て戸惑う幸村へ、


「豊臣先生と俺も家が近所でさ、歳離れてっけど仲良いんだ。だからか、竹中先生は何っか俺を敵視してる感じがするんだよな。ま、俺がチャラチャラしてるせいもあるんだろうけど」

「慶次殿はすごいですな、上杉先生だけでなく豊臣先生とも」

かすがから、謙信も慶次と歳の差を越えた友人らしいと聞いている。

へへ、と慶次はどこか懐かしそうに笑った。


「かすがたちは、夜に着くそうで…」
「んじゃ、今日は会えねーかもな。広ぇ旅館だからよ」

元親の言葉に、想像の域を超えたらしい幸村は、


「すごいでござるなぁ……政宗殿」

ポカンと、目も口も丸くする。


「いやいや!政宗じゃなくて、お父様がスゴいんだよ、旦那!そこ、間違っちゃ駄目!」
「しかも、すっげー男前でさー?超親バカなんだよな!俺、大好き」
「そーそー、俺らにも良くしてくれるしよー」


幸村は目を輝かせ、

「それは、いつか是非お会いしとうござる!」

「…かなり見てみたいな」

元就は、からかう口調である。


うるせーなー、などと呟く政宗だったが、父親のことを褒められ悪い気はしていないようだ。

助手席に座る小十郎は、その様子を横目に入れ小さく微笑む。

試合の勝算はどうかと小十郎に尋ねてきたり、旅館では何をして遊ぶとか、明日はかすがたちと合流しようだとか、車内は次から次へと話題が上がり、始終楽しげな声が絶えなかった。



(…やっぱり、その中心にいるのはお前なんだな――)


後ろを窺えば、ころころと表情を変え、見る者を退屈させることを知らない幸村の顔があった。

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