お教えします!4


「そうそう、親ちゃん、旦那を見習わないと」
「猿飛さんの言う通りですよ、元親さん」


あーだこーだ言いながら元親は結局従うことになり、お堂の中で驚かすのは、幸村と佐助の役となった。

少し趣向を変え、お堂の入口に蝋燭を取って来るようメッセージを置いておき、二人が入ったところを見計らい、隠れていた官兵衛が扉を閉めることにする。
こちらの方が、密着度も増し、新しい恋が生まれるかも――という、佐助と鶴姫からの提案だ。

ただ、蝋燭を取ったときに、必死に格好を付けていた側――主に男子の方だが――の苦労が泡となるのは、見ていて気の毒やらおかしいやらで。

だが、もう二年生のみということもあり、佐助の憎めない性格のせいか、皆釣られたように笑うばかりだった。
次いで、ネタばらしの後の幸村のすまなそうにする顔を見れば、怒りなど全く沸いてこない。


「――結構来たよね。慶ちゃんと政宗、まだだけど」
「元親殿たちの首尾はどうであろうな」

長机の下から出て、喋る佐助と幸村。

扉が開く前に、即座にスタンバイできるようにしている。

佐助が幸村にした背後からの抱き付きはやめており――そもそもあれは幸村にしかしていないのだが――、二人して机の下から驚かすことに変えていた。

なら、別に一人でも良いような気がするのだが、さすがに少し怖いだろうし、孤独だろう。
それで、幸村も一緒にいることにしたのだが。


(…俺と違って、佐助は平気そうだがな…)


夜とは言えど夏の密室。それでいて少しも汗をかく様子のない佐助を、チラッと見る。


「やっぱ、あの二人って面白いよねー。俺様、前からお似合いだって思ってたんだけどさ」

元親と鶴姫のことを言っているらしい。


「あー…」

確かに、ケンカするほど仲が良いとも言うが。

しかし、鶴姫の恋の相手はどうやら元親ではなさそうだと、幸村でも推し測ることはできた。

だが――


「…確かにな。お似合いかも知れぬ」

「でしょ!?ビジュアル的にはアレだけど。――それなら、旦那の方が似合ってるよね、姫ちゃんと」

「――!?」

幸村は目を白黒させながら、「な、な、……っ」

「爽やかカップル、みたいな?」
「は、は、破廉恥…!」
「や、冗談だって」

「!馬鹿者…っ、冗談でも言うな、だいたい姫殿には――」

想う相手がいるのだぞ、と言いかけて何とか踏みとどまる。


「えっ、何?」

「――…俺なんかより、もっと似合いの方がいるはずだ。…あんなに、か、……可愛くて――性格も良いんだ」

どもりながら、幸村は顔を赤らめた。


「え――ホントに惚れちゃった?」
「違う…!」

幸村は真っ赤な顔で、「友人として素晴らしい方だと言いたかったのだッ」


「……そんな、必死に」

クスクス笑い、「ごめんね」

と、先ほどのお菓子を、もう全て幸村に捧げる。



「――旦那は、どんなコを好きになるんだろーね?」

「…知らぬ」

はは、と佐助は笑い、


「ねー……。好きな人ができたら、教えてね?」
「――何故…」

「だって、友達じゃん!――協力するからさ」

要らぬわ、と恥ずかしさから言おうとしたが、


(…何だ、その顔は…)


言葉とは裏腹の、どこか寂しそうな表情で自分を見ていた佐助に、口をつぐんでしまう。


「――い、……いずれ、な…」


そう言えば、いつものような笑顔になるかと思っていたのに。――佐助は、どうしてかそのままの面持ちで微笑のみ返す。

何故だと尋ねる前に次のペアが来て、そのチャンスは最後まで失われてしまった。












ガタン、と扉の閉まる音に、


「キャッ」

と、女の子が小さく悲鳴を上げる。


(――あれが最後のペア。…慶ちゃんたちだな)

佐助は幸村に目配せし、頷いた。


少し前に訪れた、政宗から聞いた情報である。…コソッと、その相手が自分の元カノであるということも耳打ちされ――

実のところ、佐助もその彼女とは微妙な関係があったため、はっきり言ってあまりお目にかかりたくはない。だが、政宗ほど気まずい立場ではないので、顔を合わせるくらいなら向こうも辛抱してくれることだろう。


「ちょ、っと……、歩けねぇって、んなくっ付かれると」

慶次の、苦笑いするような声が響く。


「だってぇ」

本当に怖がっているのか、そういうポーズなのか分からないが、女の子は舌っ足らずな甘えた声を出す。大抵の男なら、これだけで参ってしまうだろう。


(…ちょっとちょっと、慶ちゃんドキドキなんじゃないのッ?)


佐助は、思わずニヤついてしまいそうになる。

ここに元親がいれば、彼女への佐助の気持ちはやはりその程度だったかと、蔑んでいたに違いない…。



「彼氏に怒られちまう」

困ったように笑う慶次だが、


「あれは彼氏じゃないってば」

女の子はプリプリして反論する。


「いや〜…、でも向こうはそう思ってないと思うけどなぁ」

「ヤダ、もー」

絶望的な声を上げる彼女に、慶次は何も返さなかった。


――どうも、得意の恋愛相談…とは少し話が違うようである。


(珍しい…)


佐助は、慶次がどこか無理をして話しているように感じていた。



「ね、慶ちゃん。…今、彼女いないんでしょ?」
「え?――ああ、うん」

「じゃあさ…休み中、ヒマ?来週、皆で近場なんだけど、旅行するんだ。良かったら一緒に行かない?彼氏持ちじゃないコも結構いるよ」

そう言いつつ、彼女の狙いこそが慶次なんだろう、と佐助はすぐに悟った。


(いやー、相変わらず積極的っつーか、狩人的っつーか)


そういうところを、佐助も政宗も気に入っていた。…初めの内は。


「あー…来週かぁ」

バイトどうだったかなー、などと思案しているようだが、気乗りでないのは見え見えである。幸い、彼女は気付いていないが。

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