足りない何か2
キィー…バタン
「!」
屋上への扉の開く音に、四人は身を隠す。放課後であるし別に構わないのだが、日頃の行いのせいで条件反射になっていた。
こそっと覗くと、一組の男女。
四人は、そろりと出て行こうとしたが…
「……!」
二人の身体が…顔が近付いたので、再び隠れる羽目になる。…全員、しっかり観察していたが。
彼らは、数分言葉を交わした後、手を繋いで去っていった。
案外気が小さいのか、元親がホッと息をつく。
「まだまだpureなお付き合いってか?」
政宗がニヤニヤと感想を述べた。
「何か…いいなぁ」
「――うん」
佐助と慶次は、何やらうっとりしている。
「Ha〜?あれくれぇが何で」
元親も不思議に思った。二人には恐らく羨む由などないはずだが。
「いやぁ…何か、すっごい幸せそーだなって」
「…二人とも、めちゃくちゃドキドキしてたんだろうなぁ…あの顔」
「やっぱ、すんごい惚れた相手だったらキスも気持ちいいのかなぁ」
「さっけ、何かエロいよ」
ツッコむべきところが間違えている。
「佐助はすんごい惚れた相手でもないのに、やることはやると…」
元親が、少々軽蔑の目を向けた。
「んもー、親ちゃん相変わらず乙女なんだから。俺様よりこの二人に言ったげてよ」
「ちょ、俺は違うだろ?ちゃんと真面目にお付き合いしてました!手だって、そんなすぐ出さねぇよ?俺。政宗なんかさー」
「俺ァ、相手が良さそうにしてたら自分も満足するたちだから、羨ましいとか思わねーなぁ」
「おーい…誰も、んな答えは求めてねぇよ」
ますます呆れるばかりの元親。
これはもはや、キスとか可愛いレベルの話ではなくなっている。
「気持ちいいけど…何か足んない」
「ひっでぇな、本当に」
元親がさらに蔑んだ眼差しを送る。…今さらなので本気ではないが。
「違うんだよ。こう…何て言ったら良いのか分かんないけど。多分…自分からすっげー惚れたー!みたいな、そういうのってきっと…。――だから、羨ましいなって」
「…言いたいことは分かった。でも他のとこで絶対言うな、反感買い放題だぜ。…てかもう、俺がムカついた。何でこんな奴がモテんだ。納得できねぇ」
「まーまー。さっけもさー、いつも来る者拒まずだから駄目なんだって」
「えー、だってどの子が運命の人?か分かんないもん。付き合えば分かるんじゃないの?…てか、俺様自分から好きになったことないからさぁ…で、羨ましいなって」
「…嫌味にしか聞こえねぇ」
恋愛欠陥人間だと知ってはいたが、まさかここまでひどいとは思いもよらなかった。
慶次と元親は、残念なものを見る視線を送った。
「てかさ、政宗や慶ちゃんだって俺様と同じようなもんでしょ」
「えぇ!?政宗はともかく、俺も!?」
慶次はギョッとなる。
「だって、さっきの二人に憧れるなんてさぁ。初めは好きって思っても、やっぱ違うなーってのが多いんじゃないの」
「そ…んなことねぇよ。俺、惚れっぽくて…冷めやすいんだって、きっと。――じゃなくって!…さっきのは、自分の初々しい頃を思い出してさぁ、んで微笑ましいなって思ってたんだよ」
前半だけ聞くと、当たらずとも遠からず――お前も大概じゃねーかと元親は心中で独りごちる。
「俺もまだだな。…会ってみてぇもんだぜ、そんな奴」
政宗が佐助に続く。…やはり、二人は似ていた。
「そういやさ!転校生が来るんだってよ、二人も」
思い出したように、慶次が話題を変えた。
「Hu〜m。boy or girl?」
「両方だってさ!しかもウチのクラスに。どんなんだろな?楽しみ!」
「可愛かったらいーなー」
「……」
佐助と政宗の好みじゃなけりゃ良いな…と、元親は今から見ぬ相手を心配する。
「…なーんか良いこと、あったらいいなぁ…」
佐助はポツリと呟き、空を見上げる。
他の三人も釣られたようにそれに倣った。
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