巡る4








…そういえば、あいつはどんな風に歌うんだろう。


選曲リストをめくっていると、政宗の頭の中にそんな疑問が浮かんできた。

彼の選択授業は、美術や音楽に比べて人数が極めて少ない書道。佐助や慶次は、しつこく自分の取っている授業に誘っていたが…。

――そういうわけで、歌う姿など見たことがない。


「…今度、誘うか」

「え?」

知らずにもれていたようで、隣の女の子が不思議そうに窺ってくる。
少し茶色がかった髪に、二重の瞳。アイドル級の可愛さ。
政宗の好みは美人系だったが、こういうのも悪くねぇよな…と思うことが最近では増えていた。


「いや、何でもねえ。…そろそろ時間だよな」

と、元親の方を見てみると、もう一人の女の子に、それは熱心に何かを語っている。
恋などの甘い囁きではない。

自分の趣味の、バイクだとかプラモの――興味のない者からすれば、聞くのは苦行以外の何物でもない話を延々と。


(…ありゃ、またフラれるな)


政宗は心の中で笑うと、カラオケを出た後は彼のために二組で別れることにした。



―――………



「…本当に、美味しいっ!知らなかった〜、こんな店…」

「そりゃ良かった」


キラキラとした顔でケーキを食べる彼女を目の前に、政宗も自然と頬が緩むのが分かる。

以前ならば、こんな場所に入ったりせず、さっさと良い雰囲気になれるところへ直行、というのが普通だったが…まあ、今日は慶次がいない日だと知っていたし、たまには良いかと店に入った。


「アンタ…何となく好きそうだったからよ」


と少し笑うと、女の子が赤くなった。

母親はともかく、この顔に作ってくれたことには親へ感謝している。
男から妬まれはしても、逆では苦労した試しがない。
その後で色々ゴタゴタはあっても、色男の勲章だろ――と言っては、元親に冷めた目で見られているのだが。


「ダチで、ここのが好きな奴がいてよ…そりゃー美味そうに食うんだ。何がそんなに幸せなのかっつーくれぇ」

「へえ〜…」

「確かそれが一番気に入ってたみてーだからよ…。やっぱうめぇんだな、それ」

「うん…」


女の子が少し微妙な表情を見せたが、政宗が気付くことはなかった。


店を出た後は、談笑しながら街をブラついた。



「――ん?」
「どうしたの?」

政宗が、壁の貼り紙に足を止めた。


「Shit…!マジかよ!?」

「え?ちょっ…伊達くん!?」


突然走り出した政宗に、女の子が慌てて後を追う。

やっと止まったかと思うと、

「今日だったのかよ……Ah〜もう終わってやがる」
「……?」

そこは、小さなビルだったが…

「プロレス…?」

アマチュアのようだが、今日の夕方からタイトルマッチがあったらしい。

「す、好き…なんだ…?やっぱり男の子ってこういう…」


「Ahー…。あいつ知らなかったろうな…俺も今知ったし…。あーあ…シクった…」


「……」


「次は…。OK、これぜってー行くぜ、あいつ誘って――」


「あ、の〜、伊達くん」
「Ah?」

女の子は、引きつった笑みを見せ、


「私…帰るね」


驚いた政宗は、

「Ha?何だよ急に…これから――」

と、彼女の手を取ろうとするが、思いきりはたかれた。


「…私、好きな相手がいる人は好みじゃないや…。愛されたいタイプだからさ」

あはは、と笑いながらも、少しピリピリした雰囲気である。


「…Ha?おい、何言ってんだ?お前――ユキ…」



――プチッ



「そっちこそ何言ってんの?ずーっと他の女の子の話ばーっかりして!こっちは全っ然楽しくないっ!超デレデレしちゃってるし!

――それと、」


女の子は息を吸い込むと、




「私の名前は、ユ、イ!!」



最後に「バカ!!!」と大声で言い残し、彼女――ユイさんは走り去ってしまった。




「――え?」

(ユイ?)



政宗は、カラオケを出てから、ずっと彼女のことを「ユキ」と呼んでいたのを思い返し――

そう呼ぶことをどこか楽しんでいた自分を…



(Ha…?何でだ。何で間違えた?…俺、今フラれた?…あれ?)



見たときから、気に入っていた。

だから、名前を呼べるのが嬉しかったのだと――



(分かんねぇ…。てか、何勘違いしてんだよ、あの女…)

好きな女って……どうやったらそんな風に思えんだ?
どこにプロレス好きな女子高生が――いや、いるだろうが、なかなかいねーだろそんな…


最後に見た顔を思い出し、



(あの顔で気が強えのは――最高なのにな)



「…惜しいことしたぜ」



と呟きながら、その顔は悔しそうには全く見えなかった。








*2010.冬〜下書き、2011.7.9 up
(当サイト開設・公開‥2011.6.19〜)

あとがき


読んで下さり、ありがとうございます!

かすがと謙信CPダメな方すみません!に加えてごめんなさい、刑部が大好きなんです。どうにかしたかったんです、彼の青ルートを見て以来もう。この三成は親しくなると「貴様」呼ばわりをしない。…ということにしました(^^; 彼らは親友です。刑部は三成を死ぬほど騙してます。官兵衛よりからかってます。愛情表現♪

佐助がホント、ネジ飛んでる。しかし、あの二人の仲良しさだけは印象に残ったらしい。それで良いんです♪

政宗、初めての体験にびっくり。でも帰るときにはプロレスのチケット取りのことで一杯になってました(^∀^)

ますますやりたい放題ですみません;

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