巡る2






佐助は、夏休み中のイベントの準備を生徒会室で手伝っていた。

自由参加型の林間学校が行われる予定で、スケジュールを書いた手引きを綴じる作業を黙々やっている。

元就や他の役員は違う場所で業務しており、佐助と黒田官兵衛という同級生の二人だけが部屋にいた。

生徒会室に入り浸る内に、佐助への認識も最近ではかなり高まっていた。
無口でクールな性格ばかりに囲まれていた官兵衛は、佐助の明るさが非常にありがたいらしく、何とか今からでも役員にならないかとスカウトをかけてくる。

佐助にその気がない上に、そんなことが可能なのかも怪しいので、実現は難しそうだが。

元就と官兵衛の他には孫市、大谷吉継、副会長の石田三成、の五人で構成されていた。
確かに、彼以外は皆一匹狼タイプで、普通の生徒ならば生徒会室に入るのもためらってしまうところ。

官兵衛は大柄で長髪、前髪が長くてその両目は隠れてよく見えない。
見た感じは、悪く言えば鈍くて暗そうに見えるのだが、その実全く真逆の、常に強気でポジティブな性格なのだ。

それでも、元就、三成、吉継というドSトリオのパワーには太刀打ちできず、いつも悔しがっては返り討ちを狙っている。
しかし、毎回失敗に終わる姿が、本人は本気でも、ハタから見るとどうにもおかしくて、どこか憎めない。元就たちも、分かってやっているようにも見える。

ついでに言えば、孫市は彼を苛めはしないが、味方もしないという立ち位置にいた。


「ねーねー、黒ちゃん」
「何だ?」

正面に座る官兵衛が顔を上げる。二人の作業も終わりが見えていた。

「ずっと気になってたんだけど、ミッチーと孫ちゃんって付き合ってんのかな?」

官兵衛はブッと吹き出し、


「孫市に殺されるぞ!…あり得んね。小生と孫市が付き合うことよりも、さらにないな」

と、いかにもおかしそうに笑った。

「そうなの?仲良さそうだからさー」
「家が近所で、小さい頃からの付き合いだからじゃないか?あと、刑部もな」

刑部というのは、吉継の呼び名だ。
理由は知らないが、三成や官兵衛――佐助のクラスの家康も、彼のことをそう呼ぶ。

「そうだったんだ。大谷さんは知ってたけど…もしかして、徳ちゃんも?」
「ああ、仲悪いけどな。向こうは三成によく構ってくるが。…でも、何で刑部だけは『さん』付けなんだ?」

官兵衛が首を傾げる。

「あー…大谷さんって、何か大人っぽいっていうか、落ち着いてて同い年に見えないから、ついさ」
「そーかあ?落ち着いてる奴は、あんなガキ臭いことやらんだろうよ」

吉継の、楽しそうに官兵衛をおちょくる姿を指している。

「まあ、刑部は初等部に入る前に病気をしてな。一つ上ってのは当たってるぞ」
「そうなの!?病気は?」
「もう何ともないらしい。三成にしちゃ、刑部と同じ学年になれて良かったんだろうけどな」
「ふうん…」

佐助は、以前までに抱いていた三成のイメージが、最近は変わったことを考えていた。

てっきり冷たくて、人を見下している性格だと――

(…いや、それはやっぱり正解だったんだけど)

それだけではなく、意外にも頭に血が上りやすく熱い一面もあり、頑固で子供っぽいところさえ見受けられたので、正直元就のときと同じくらい衝撃的であった。

そういう彼を、吉継と孫市が上手く扱う――そんな光景が、生徒会では日常となっている。

佐助も初めはよく睨まれていたものだが、元就の際と同様、案外優秀で使える人間だと悟ってくれたのか、今では『ミッチー』という呼称も許される立場に。

吉継と孫市に関しても、彼との付き合いが長いためなのか、思っていたより穏やかで優しいということが判明している。

そんなことを思いながらやる内に、作業は終わりを迎えていた。


官兵衛のケータイが短く鳴った。


「――げ」
「どったの?」

官兵衛は溜め息をつくと、

「刑部が倒れた…二人の荷物持って来いだと、保健室まで」
「倒…!?大丈夫な――」

だが、官兵衛は手で遮り、

「仮・病。――三成は気付いてないがな」

「えー…?」

先ほどの話が浮かび、「ホントに?大谷さん、無理してんじゃ…。痩せてるし、か弱そう」

「騙されるな!?…多分、仕事が面倒になって放棄するつもりだ。…だが、三成に言うと何倍にもなって返ってくるんで、大人しくしといた方が平和だ」

と、官兵衛は三成たちの荷物をまとめる。

「俺様も付き合うよ」



そうして保健室の前まで来ると、

「――あ」


中庭を挟んだ向こう側の校舎に、幸村と慶次の姿が見えた。


(気付くかな?)


と手を上げようとする前に、慶次が幸村の手を掴み、近くの教室へ入ってしまった。



(――ま、良いか。もう手伝いも済んだし後で…)


しかし、佐助の瞼の裏には、掴んだ慶次の手が妙に鮮やかに焼き付けられていた。

何故かイラッとなった気分を外に出さないよう努めていると、


「――うわ。今度は孫市から」
「え?」

官兵衛はケータイをパチパチ打つと、


「すまん。これ頼んでも良いか?ちょっと先に戻っとく」

「え」


面食らっている間に、荷物をドサリと置かれ、官兵衛は素早く戻っていった。


(――大変だねえ)


苦笑し、保健室のドアに手をかけた。

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