巡る1
※幸村、慶次
佐助、官兵衛、三成、吉継
政宗 登場。他、孫市・元就・元親が脇役。
それぞれの話なので、ちょっとバラバラ気味…そして長いです;
完璧に、その三人を出したかった…!大好きなので(^^;
彼らの話を入れてしまい、幸村の出番が少ない(--;)
後書きで言い訳。
この学園の良いところは、何といってもその自由な校風と、個性的な教師と生徒が多いことで間違いないだろう。
だから、このような非常識な事態が起こっても、すんなり受け入れられてしまうのだ――
『祝・上杉先生、真田かすがさん。お幸せに!』
掲示板の前で、そう派手にデコレーションされたタイトルが載る学園新聞を、幸村は眺めていた。
二人のツーショット写真も、でかでかと印刷されている。
「この写真、よく撮れてるよな。かすがちゃん、別嬪さん!」
「…慶次殿」
夏の制服をそれらしく着崩した慶次が、いつもの笑顔を幸村に向けた。
あれから季節は夏になり、もうすぐお待ちかねの夏休み、という時期である。
…さて、非常識な事態というのは、正に学園新聞の記事に書かれた事実であった。
かすがの『探していた人』は、学園の教師であり、二人の仲の深まりようは出会った瞬間から光速の如く――何と、驚くことに早くも将来を誓い合うまでに行き着いてしまったのだ。
しかも、この上杉謙信という人物もまた浮世離れした性格で、堂々かすがとの婚約を学園で発表してしまう。あまりのラブラブさに、周りは苦笑しつつ祝福する他ないという感じだ。
謙信は、信玄の親友でもあるらしく、出会ったあの日に武田家では酒宴が行われ、それで幸村は佐助の家に行くことにしたのだった。
今ではその様子に呆れ笑い――と言っても温かいものだが――しか湧いてこず、幸村は妹離れが無事に済まされたように感じていた。
「…幸せそう。良かったな、幸」
慶次は、幸村の気持ちを察しているかのように優しく言った。
「はい……本当に」
「――皆は?」
授業も全て終わり、校内は閑散としている。
「元就殿は生徒会へ…佐助も手伝うと。政宗殿と元親殿は、合コン…に行かれました」
やや恥ずかしそうに報告した。
「相変わらずだね、あいつらは。…昔も今も」
「というと…中等部から?」
幸村が、頬を染める。
「――あ、いや……何でもない」
慶次はごまかすように笑った。
その顔を見ていた幸村だったが、
「慶次殿は……何やら雰囲気が変わったような気が致しまする」
と、その大きな瞳に慶次を映しながら呟いた。
「え――…どんな風に?」
視線から外れるように、慶次は掲示板に向き直る。
「あ、変な意味ではなく…。何と言いますか、こう――…大人っぽくなったというか…」
自分の言葉ながら、首をひねる幸村。
「……幸はすごいなー…やっぱり」
慶次は、ははっと笑った。
――その笑い方も、どこか以前とは違う気がするのだ。
それに、幸村のことを『ゆっきー』とは呼ばなくなったし、たまに同い年には見えない表情をすることがある。
元々優しい彼だったが、それがさらに増したようで。…自惚れかも知れないが、自分に対しては特にそうあるような。
幸村の視線に気付いた彼が、柔らかく微笑む。
すると、幸村はどうしてだか胸がじんわりと温まる気がし、どこか懐かしい心地好さに包まれる。
最近、こうしたことがよく起こるのだ…
「色々、分かって……思い知ってさ」
慶次は苦笑を浮かべ、
「悟り?みたいな。…すっげー嬉しいことと、辛くて悲しいことと。――寂しい…気持ちと」
両の眉を下げ、困ったような顔をした。
「慶次殿…」
案じるような幸村に、慶次はすぐにいつもの表情に戻る。
「や、嬉しいのがほとんどなんだから!大丈夫だって」
「ならば…良いのですが」
――それほどに嬉しいこととは一体。
『最近、慶次の付き合いが悪い』
と、政宗が言っていたのを思い出す。
実は彼女ができていて、それを隠しているんじゃないかと怪しんでいた。
「…かっ、彼女――…でござるか?」
彼にしては、思い切った質問を投げかけたものである。
「ううん」
あっさり否定されるが、
「…好きな人、できてさ」
「――!そ、そうだったのですか…」
何故か、幸村の方がどぎまぎしてしまう。
「うん…。一度、振られてんだけどな?――性懲りもなく、また……惚れちまった…」
「そう…なのですか」
「あのときは、相手にめちゃくちゃ好きな奴がいたからさー。…でも、今はまだいないみたいなんだよな」
慶次は、ふっと笑い、
「俺にもチャンスあるかな?…とかさ。
――しつこいけど」
自嘲するように言った。
「いえ…っ。あ…諦めない精神は立派かと!慶次殿ならば、きっと…。相手の方も、慶次殿の良さが必ず分かるはず…!」
「そ……かな?」
照れたように笑う慶次に、
「は…はい!頑張って下され、慶次殿!某…陰ながら応援致しまする」
と、幸村は拳に力を込める。
「――最強の味方かも。…頑張っても…良いのかな」
「あっ、当たり前ではありませぬか!」
「そ……っか」
じゃ、と慶次は幸村の手を引き、近くの空き教室へ入った。
「慶次殿?」
「幸……」
はあ、と一呼吸すると――
……え
幸村は目を見開いた。
あまりに自然だったので、声を上げる間もない。
――幸村は、慶次の逞しい腕の中に包まれていた。
果てしない優しさと、しっかり込められた強い力で。
「――ああ……幸だ」
慶次の声が揺れた。
「慶次…殿?」
これは――どういう意味なのだろう。
自分も、かすがや元就殿にしてしまうことがあるが、慶次殿にも同じような癖が?
だとしたら、自分の何がこうさせたのか。…全く思い当たらない。
「幸」
腕を外し、幸村の肩に両手を置く。
…正面から瞳を射抜くように見つめてくる。
顔が……いつもと全然――違う……
幸村は、知らない人物を目の前にしたかのような感覚に陥った。
「俺のこと……分かんない?――忘れちゃった…?」
訴えるように、切なげな声で囁きかける。
「え……」
慶次の瞳が近付いてくるのを、幸村はよく分からないままに仰視していた。
そんなことがあるわけがないのだが、その瞳の奥に、燃える炎を見た気がした…
「……って。これ、ルール違反だった」
短く息をつき、慶次は幸村から離れる。
「慶次殿……あの、」
「――さっき俺が言ったこと…誰にも言わないで?…てか、忘れて」
「え――」
全く要領を得なかったが、慶次の有無を言わせぬ表情に、幸村は頷くしかなかった。
またいつものような顔に戻り、
「幸が応援してくれる…頑張っても良いって言われたから。…それだけでも百人力だ」
と、幸村の頭を優しく撫でる。
(…もしかして、慶次殿…も)
かすがや元就殿たちと同じような…。
必死に思い巡らすが、やはりもやがかかってどうしても分からない。
「……今度こそ、自分だけの力で振り向かせないとな」
にっこり微笑む慶次の真意が、やはりまるで分からない幸村だったのだが。
どうしてか、先ほどの彼の瞳だけは、頭にだけでなく心にまで焼き付いたように消えることはなかった。
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