初恋2


「良かったな、元親。お似合いだぞ」

フフ、と元就が馬鹿にしたように笑う。


「テメーらは、…っとに」


元親は低い声で凄むが、二人には一つも効かない。

幸村は、彼が何をそんなに怒っているのか、さっぱり分かっていなかった。


「ゆっきー、ケーキ見に行こうぜ」

幸村が食べ終わったのを見て、慶次が誘う。

「はい!」
「あ、俺様も行く」
「では、我も」

二人はまだ途中だったが、佐助と元就も一緒に席を立つ。

「佐助も甘いものが好きなのか?」
「いや〜、どっちかってーと苦手。でも、ここのは美味いから好き。甘さ控えめだし」

「そうなのか。俺は甘いのが好きだが…確かにただそれだけでは美味くないものな。――こちらの菓子は本当に美味い。元就殿も是非!」

幸村が力を込めて言うと、

「それは楽しみなことだな。――ほう」

と、元就も惹かれたようにケース内のケーキを見始める。

「どれでもどーぞ!俺のオススメは、これと――これと…」


「ふおぉぉぉぉ…!!」


みるみる目を輝かせていく幸村。

「どれもこれも美味そうだ…!これ、…いや、これも…、――ああ、決められぬうぅ…!!」

さながら、重大な悩みか何かのように、苦悶に満ちた表情になる。


「…三つくらいならいけんじゃない?俺様、二つオゴってあげ」
「幸村、我は二つ頼むので、半分ずつ食べてくれぬか?」
「ちょっ、俺が初めからごちそうする気だったのに、さっけ――」


三人が口々に言ったのでよく聞き取れなかったが、いやに都合の良い言葉ばかりだったような――


……いやいや。


幸村は首を振って我に返る。


「そ、そのような…っ!自分で買いまするよ。それに、三つなど贅沢、かすがにバレたら――」

食べ過ぎだ、といつも注意してくる彼女の顔を思い出し、少し寂しい気持ちになってしまう。

元就にはそれがすぐ分かり、慶次も昨夜の盗み聞きから何となく、佐助は単に妹への恐れと理解し、

「良いじゃん良いじゃん、今日くらい。かすがちゃんには黙っとくから!」

「そうそう!――じゃ、俺とさっけに一つずつオゴらせてよ。普段からゆっきーには、世話になってんだから。なっ」

「そんな――。世話になっているのは某の方で…」

「幸村、好きにさせておけ。こやつらは引き下がらぬぞ」

元就が静かに言い、「我は、これと――これにする」

ケースを指し、慶次に見せる。

「元就殿――」
「…昔、お前はこれが好きだったが、今は…」

ぱっと幸村は顔を明るくし、

「今でも大好物にござる!まさか、覚えて下さったとは…!」

感激したように元就を見た。




(――くっそぅ)




心の中で舌打ちする佐助と慶次だったが、


「あの……本当によろしいのだろうか…」


おずおずと二人を見てくる幸村に、いかにも心の広そうな、満面の笑みを投げかけるのだった。











「――やっぱ、可愛いってのは正解だよな」


ボソッと呟いた慶次だが、運の良いことに誰にも聞こえなかったようだ。


幸村は、それは幸せそうに――また大変美味しそうに、一つ一つのケーキを食している。

一口頬張る度に感動の表情になり、周りはおかしいやら呆れるやら、見ているだけで飽きない。


「――そんなにうめぇのかよ」

政宗が苦笑しながら、余ったフォークでケーキの端をすくい取った。
そのまま自分の口へ運ぼうとし――悲哀に満ちた幸村の瞳に固まる。

「Ahー…sorry…」

気まずそうに手を止め、幸村に返すと、



――パクッ



「――!!」


幸村が口を大きく開け、ケーキの欠片は一瞬で姿を消した。
…いわゆる、「あ〜ん」…だ。

呆然とする政宗に、幸村はとろけそうな笑顔で、


「うーんまいぃぃぃ…!!」


と、誰もが脱力してしまいそうな台詞を言い放つ。



「…そういやぁ、慶次よう」

元親が気付いたように、「いつも着けてるやつ、どした?」

首から輪をかけるような仕草をして見せる。

そう言われて皆が慶次の首元を見ると、彼がいつもしている革製の紐のネックレスがかかっていない。


「あ――あれね。どっか落としたみたい」
「え」

「良いのー?すごい大事なものみたいだったじゃん」

やや心配そうに、佐助が尋ねた。

「ま――あ。…でも、良いんだもう。お守りみてーなもんだったし…ほら、これで願いが叶うかも〜って」

と、時計に目をやり、「やっべ、休憩終わる!――んじゃ、ゆっくりしてってよ」

慶次は素早く隣へ戻った。


その後五人は夕方近くまでダラダラと喋り続け、慶次に軽く礼を言い店を出た。


幸村は、かすがへの土産のケーキを買って家に戻る。


――玄関を開ければ、これまでと変わらぬいつもの妹が出迎えてくれ、幸村の胸に留まっていた曇天はゆっくりと姿を散らしていった。

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