初恋1
※幸村、慶次、佐助、政宗、元親、元就
で、前回の次の日です。
皆で、慶次のバイト先にご飯を食べに行きました。
ますます、捏造話が加わります;
今回は少し短いです。
――よし
トレーニングウェア姿の幸村は、目の前の門が開いているのを見ると、決心したように中へ入り込む。
…ここは、学園の初等部。
幸村は運動場を駆け、遊具の並ぶところへ向かった。
先日、暇潰しに皆でここに来たことを思い出す。
佐助たち四人は初等部からの付き合いらしく、懐かしそうにこの遊具で遊んでいた。
幸村は、そんなに前からの仲を羨んだものだが、今のように四人でつるむようになったのは、中等部に入ってからだったらしい。
初等部のグラウンドから中等部の敷地に抜ける道には、ちょっとした小山があり、小さな森のような空間が広がっている。
そこに立派な大木があるのだが、佐助が身軽にひょいひょいっと登っていくのを、幸村は目を丸くして見ていた。…その姿はまるで、昔に見たかすがのようで。
その木は、初等部の頃の彼がよく登って遊んでいたものなのだという。
幸村も慶次も負けじと後に続いたが、佐助のところまでは行き着けず、悔しがったのだった。
『ゆっきー、手ぇ貸そうか?』
登る際に、優しく手を差し伸べた慶次。もちろん幸村は、自分の力で登ったが…
――黄昏時が迫っている。
幸村は、大木を仰ぎ見た。
「いつもご利用ありがとな〜!」
慶次は、これ以上ない爽やかな笑顔を見せた。営業スマイルでなく地顔なので、全く疲れることがない。
隣のカフェでランチをしていた、学園の友人たちへ声をかけたところだった。
四人の女の子グループで、精算した後、慶次のいるスウィーツのブースへやって来る。
「おっ、お買い上げ?」
「うん、どれにしよー…」
一人がショーケースを熱心に覗き始めた。
他の三人は、自分たち以外に客がいないのを見て、慶次に話しかける。
その内容は、いつも恋愛ごとの絶えない慶次の近況についての質問や――さらには、人気の高い政宗や佐助、元親たちのリサーチ。
「残念ながら、最近ちっともなんだよなぁ。あいつらもさ。誰かいいコいたら紹介して?」
眉を下げ笑い、慶次は答える。
「って言ってもさ、伊達くんや猿飛くんのこれまでの彼女が皆可愛いコばっかだから、他のコは畏れ多くて近寄りがたいって思ってるんだよ」
「あー…なるほど…」
ねえねえ、と他の一人が遠慮がちに、
「真田くんは?あと、最近毛利くんも皆と仲良いよね」
「おっ!ゆっきーたちも、やっぱ人気高い?」
「そりゃもう!」
何を言いますか、という風に四人は大きく頷く。
「毛利くんは、何か柔らかくなったっていうか…すっごい感じが良くなったって評判だよ?」
生徒会長という目立つ存在から、後輩のウケも良いらしい。
「真田くんは…」
「とにかく――」
「「可愛い!」」「「格好良い!」」
最後の二つの台詞が二人ずつ重なり、どうやら意見が分かれてしまった様子。
「断然、可愛いでしょ。とことん真面目で、ピュアで、ちょっと天然で――」
「…確かに」
うんうん、と慶次も腕を組んだまま頷く。
「けど、こないだの体育の授業!すごかったよね!?てか、いつもだけど…あの、身体能力!めっちゃ格好良いってば!熱血漢っていうの?何か昔の漫画の主人公みたいだけど…逆にアレがすっごく良い!」
「だよな〜!!ヒーローみたいだよな、ホント」
「ねー!!」
と、口を揃えて言う四人に、慶次も違和感なく溶け込んでいた。
「でも、真田くんに告白しようものなら、ものすごい大惨事になりそうだよね」
「うん…。叫び声で学園中に知られちゃうか…真田くんを失神させちゃうかどっちか」
「相当勇気が要るよね」
四人はクスクス笑い合う。
――ケーキがやっと決まり、慶次が手渡した。
「あっ噂をすればだよ、慶ちゃん」
女の子の一人が、カフェの入り口を見て言った。
ぞろぞろと入って来たのは、佐助たち五人。慶次に軽く手を振る。
マンションからそのまま、皆でお昼を食べに来たのだろう。
「惜しい。もう少し遅く来るんだった」
冗談ぽく悔しげに笑い、四人は出て行った。
「バイト頑張って〜」と言い残され、慶次もにこやかに見送る。
ちょうど休憩時間に入るところだったので、エプロンを外し、他のスタッフに言付ける。
カフェに入ると、
「お疲れ〜」
佐助がヒラヒラと手を上げて迎えた。
「ナイスタイミング!これから休憩だから、俺もここで食うわ」
「やー、それ狙って来たんだよね」
今は一番忙しい時間帯を少し過ぎたところで、それも都合が良い。
「すみませぬな、慶次殿。押しかけてしまい…」
幸村が申し訳なさそうに言うが、
「いやぁ、全然!来てくれて嬉しいよ。そういや、ゆっきー初めてだよな」
「はい。でもそちらのケーキは食べたことがありまする!かすがと佐助にもらって」
「あ、んなこと言ってたな。今日も食後に是非どーぞ!」
ニコニコと慶次は言った。
オーダーを済ませた後、そう待たずに全員の分が揃い、食べ始める。
「そうか……それで俺は最近彼女ができねーのか」
至極真面目な顔で、政宗が納得したように呟いた。
「かっ、かかっ、かの……っ」
頬を赤らめてどもる幸村に、
「はいはい旦那〜、落ち着いて?深呼吸、深呼吸ー」
慣れたように、佐助が笑顔でなだめる。
「だから言ったろ?図に乗ってっから、んなことになんだよ」
元親が、ニヤニヤと政宗と佐助に勝ち誇ったような顔を向けた。
「これからは、もっと殊勝な態度見せとかねぇとな」
「そーだねぇ〜。俺様、反省した。これからは真面目にするね、
……親ちゃん一筋で」
「……っ、」
思わず、元親は口の中のものを噛まずに飲んでしまった。
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