賑やかな週末A-4


「…ね、二人とも何の話…」

と、再び慶次に顔を向けると、既にその姿はない。

面食らって元親の方を見たが、幻だったのかと思うくらい、誰かがいた形跡すらなかった。

「――つ、」

ズキッと頭が痛み、目をつむると、

『……必ず、二人で――って――な』


見たこともないような慶次の真剣な顔が、古い映画の如く乱れがちに映し出される。


……慶…ちゃん……?


目を開けても頭痛は治まらず、逆に増してくるようだ。


何…なんだろう、これは――


「佐助、ここにいたのか!」

血相を変えた元就が、急いで佐助を教室から連れ出す。

「就ちゃん……どうしたの…」


くそ……すっげぇ頭痛い……

いつものように笑うことができない。


「幸村が――」

そのまま口をつぐんでしまう元就に、佐助の胸が不安に侵食されていく。



…旦那が、どうしたの?

――大したことないよね?


ちょっと怪我しちゃったとかさ、そんくらいの…いつもの、よくあるさぁ…

ほら、就ちゃんは旦那のこととなると、心配症になるんだ……か――ら


声に出さなかった言葉は、心の中で小さくなっていく。


佐助の目に飛び込んできたもの、それは――



「……嘘だ」



佐助は、自分が見た夢と全く同じことを呟いていた。


だって、あれはただの夢で…

あれは旦那じゃなくて、俺様の知らない誰かで…


そんな……そんなわけない



「幸村…」


震える声で元就が幸村の肩を揺するが、横たわるその身体は何の反応も示さない。


…何で。――どうして


あの夢と同じように、佐助は恐る恐るその頬に触れた。



「嘘……だろ、旦那……?」


元就を押しのけ、その身体を抱き乱暴に揺さぶった。


「嫌だッ、嫌だよ、こんな……!何でだよ……約束したじゃんか!なあ、起きろよ…っ、目ぇ開けろよ、旦那ぁ…!」


しかし、幸村の身体からは何の反応も抵抗も見られない。

いつもは健康そうな肌の色なのに、別人のように真っ白に変わっていた。

それに気付いた佐助の、喉の奥から肺までもが焼けるように熱くなり、息が上手くできなくなる。


――苦しい――……けど、


…そっか、俺――多分このまま死んじゃうんだ。



佐助は、どこか冷静にそう感じていた。


(でも何か、格好悪…。オェオェ言いながら逝くなんてなぁ…)


徐々に視界が霞み始める。





「――け、――さすけ」


…就ちゃん――かな

ごめん……





「さすけっ、佐助…!」


――え?

この声、就ちゃんじゃない…





「大丈夫か、佐助!?」





その主が分かった瞬間、佐助はパッと目を見開いた。


…周りの薄暗さに戸惑うが。

目の前の顔は、確かに先ほどまで腕にしていた、冷えきった――


「だ、んな……?」


掠れた声で、幸村の頬に手を伸ばす。


――温かいし、本物の感触…だ。


「……佐助?」


念のため、首筋を包むように触ってみると――トクトク、と安定した脈が伝わってくる。


…よほど恐ろしかったのか、すっかり身体が冷たくなっていた。


「…ごめん。――変な夢見て」

その手を自分の額に下ろし、小さく息をついた。

幸村は心配そうに、

「ひどくうなされていたぞ…大丈夫か?」
「ありがと、起こしてくれて。…てか、ごめんね?勝手に一緒に寝ててさ」

幸村が寝た後のことを思い起こし、気恥ずかしそうに言った。

「そんなことない、俺こそ知らぬ間に寝て…」
「いや、無理させちゃって悪かったよ。…あの後、順位で寝る場所決めたんだ」

小さく笑い、結果を教えてやる。

仲良く同じ布団で寝ている慶次と元親に目をやり、二人で静かに笑った。


「俺様、相当うるさかった?ごめんな、起こしちゃって」

枕元のケータイをみると、朝の五時。

「そうでもなかったと思うぞ。たまたま俺が佐助のすぐ傍に来てたから、よく聞こえた。」

ぽすっと、幸村は佐助の顔の真横に自分のそれを埋めた。

――あの甘い香りが、鼻腔をくすぐる。


「…本当に大丈夫か?」
「うん、もう平気…」

嘘ではない。…のだが。


その、心から案じていると分かる表情や瞳に、佐助は違う意味で息苦しくなる。

惜しみなく向けられる優しさに、本当にらしくもなく目頭が熱くなるのを止められないのだった。


「昔…誰かに聞いたのだが」

幸村がポツリと言う。

「――何?」

「…怖い夢を見たときは、誰かに話すと良いらしい。…正夢にならないとか」

へえ、と佐助は初耳のように応えた。
本当は、自分もそんな類いの話は知っていたのだが。

「どのような夢だったのだ?」

真っ直ぐ見てくる幸村の顔に、あの夢の姿が重なる。


(あれは、夢だ…)


佐助は自身に言い聞かせながら、幸村を見返す。


「…人が、死ぬ夢。――大事な、人が」
「――……」

幸村が悲しそうに顔を歪めた。

「それは……怖かったな」
「――ん」

もう一度、幸村の頬に軽く触れ、

「夢で良かった…。――いるよね、旦那…」

「…え?」

聞き返した幸村の声は届かなかったのだろう、佐助はまどろんだ笑みを浮かべ、

「おやすみ…」

と呟き、目を閉じた。

「あ……おやすみ…」






――夢で死んだのは、もしや…


…でも、『大事な人』――と





背後を見ると、広いベッドはまだスペースが空いてはいたのだが。

今は穏やかな顔になった佐助を改めて見やり、結局そこから動かず、そのすぐ隣で寝ることに決めた幸村だった。







*2010.冬〜下書き、2011.7.4 up
(当サイト開設・公開‥2011.6.19〜)

あとがき


読んで下さり、ありがとうございます!

どんなに広くても男同士でなんか寝たくねぇってのが本当だと思うんですけど、やっちまいました(^^; お風呂はきっと普通!裸の付き合い。あと、幸村は髪に無頓着そうですが、かすがに言われてドライヤーは慣習になりました。彼女の指導で、ちょっぴり上品です、この幸村は。

随所に戦国でやったことがありましてすみません; 自己は満足(^q^)

最後の佐助は、眠気でぼんやりしてたみたいです。多分、言った言葉も無意識。

次回はこれの次の日です;
(--;)

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