賑やかな週末A-3






結局、地味にトランプやカードゲームを布団に広げてやり始めた六人だったが――

…これが、意外になかなか盛り上がり、いくら時間が過ぎても飽きがこない。


時刻は既に十二時を回っていた。


幸村は、こっくりこっくりとなってはハッとする――その繰り返しの状態になっている。

(…旦那、眠そう。そろそろ言ってやらなきゃ)

佐助がそう思い始めていたとき。

かくん、と幸村は傾き、隣の元親の肩へもたれかかった。その手から、カードがパララ…と落ちる。

「ん?――あ、寝てら」

元親が苦笑し、「おい、幸村…。――起きねぇな」

「もう、そこで寝かせたら?あっちのシングルに誰か二人寝りゃいーじゃん。…あ、それ罰ゲームにする?」

慶次が面白そうに提案した。

「うげ、お前らと一緒はぜってぇごめんだ」

政宗が、大柄な慶次と元親に嫌な顔を向ける。

「…もう一組の布団は我の物だからな」

元就は、しっかりと主張した。

「ちょ、待ってろよ――」

と、元親は幸村の身体を支えながら、座っていたソファベッドへ横たわらせ、布団をかけてやる。

「う……ん」

幸村がムニャムニャと何か言ったが、起きる様子は全く見られない。


(――ガキみてぇ)


元親は、笑いそうになるのを堪えた。


「…でも、さすがにシングル二人はキツいなー。旦那の隣、たっぷり空いてるし、就ちゃんは除けて、一番がシングル一人、二番が旦那の隣、三、四番がダブルの布団。…こうしようよ」

「――そうするか」

皆、平和なその策に同意を示す。

「…それなら、我も加わろう」
「え、良いのに。就ちゃん、初めて来てもらってそんな…」
「なに、一位か二位を獲れば済むこと」

元就は、自信たっぷりに言った。

「Ha!言うねぇ」
「吠え面かくなよ…」

政宗や元親が、挑戦的な笑みを浮かべる。

「さっけ、明日九時に絶対起こしてね!頼んだよ!?」


かくして、闘いは深夜二時近くまでとり行われ――

一位・二位のシングルに元就と政宗、三位の幸村の隣が佐助、最下位のダブルが、元親と慶次に決まる。


ダブルとは言えども、大柄コンビにとっては正に究極の罰に違いなかった…。





















――足元に散らばる、今はもう人の形をしただけの塊。



…地面に広がっていく、赤。



振り返ると、それらが道を造るように連なっていた。




……あれを作ったのは、自分のこの手。


その両の手を見てみると、そこからじわじわと大量の蛆虫が湧いてくるような――錯覚だが、身体中がぞわりとし、吐きそうになった。


別に、後悔なんてしていない。
同情も。

――自分と同じく、覚悟を決めていただろう輩たちだ。…あそこに倒れるのが、自分か向こうか、ただその違いだけのこと。


しかし、げんなりはする。…どんどん人と離れていくようで。

いっそ、人間でないモノであったら楽だったろうに。
というより、本来ならばモノであろうとしなければいけないのだ。…自分たちは、心を持つことは許されていない。そうでなければ、通用しない。


――でも。


その合理的で楽な道を――常識的に考えてもそちらの方が力を得られるとは分かっていながら、選ばないのは。

だからこそ、他者をも凌ぐ強さを狂ったように身に付け、一切取りこぼさないようにしようとするのは。



…人でありたいから。


――モノではなく。



あの人にもらったこの心。



それを失ってしまうことは、最大の罪だ。

それに比べれば、あの道を築いたことなど、何の咎にも感じられない。


…早く、こんな世の中は終わってしまえば良い。
そして、あの人の隣でいつまでも穏やかにいられたら…



『――……』



――あの人の声がする。

自分を、いつも暗いところから引き上げてくれる、あの声が。

みるみる自分は、人の形を取り戻し――彼の人の元へと走り行く。






ああ





それなのに






………どうして






さっきまで見えていた道は消え去り、目の前に横たわる身体。

足の力が失われ、膝が地に着く。

手は震え――声も出せない。





嘘だ……





――嘘だ、嘘だ、……絶対、違う!





震える手を必死に動かし、そろそろとその頬に持っていく――






(……つめたい)





プツン、と視界が暗闇に閉ざされた。

















……変な夢――


って、よく覚えてないけど。



佐助は、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
授業も真面目に聞いてはいなかったが、一向に注意される気配もないので今日はツイてるな、と思っていた。

ふと、遠くの空に何か影が見えた気がして視線をやると、四角い凧のような物が二つ、風に流れるように飛んでいた。赤と白で、何だか縁起が良さそうだ。

何だろうと思っている内にこちらへ近付いてきて、割と大きいものだということが分かる。


(――あれ、人…?)


佐助は目を丸くした。
驚いたことに、それぞれに人が乗っているではないか。
まるで空飛ぶ絨毯のように、凧を操っている。

かなり窓の近くまで接近してきたので、はっきりとその姿が見えた。

白い凧には女、赤い凧には男。
女の方は、かすがによく似ていて、

「えっ」

と、佐助は小声で叫んでしまう。

男の方は顔は見えなかったが、髪が佐助のそれと似ていた。



……まさか、ね



「どうしたの?」

ハッと顔を上げると、不思議そうに見る慶次が立っていた。

授業はいつの間にか終わっている。

「お化けでも見たって顔してるよ」
「……そうかも」

さっきさー、と窓の外を指そうとすると、

「俺も早く思い出したいから、さっけも頑張ってよ」

慶次がよく分からないことを言い出した。

「…?何のこと?」

「知らねぇけどよ、そうすりゃスッキリするんじゃねぇかって――」

元親が加わり、同じように脈略のない台詞を吐く。

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