賑やかな週末A-2


「…何をあんなに急いでおるのだ」

呆れた顔で、元就が慶次たちに尋ねる。

「二人が早く寝そうだからって、風呂の時間も惜しいみたいよ?」

呆気にとられる元就だったが、

「我は案外そうではないがな。――幸村は…」
「だ、大丈夫です!休み前は、某も夜更かしをすることがありまする」

必死に主張するところが怪しい。

「…ところで、ドライヤー…」
「あー、ごめん。俺がこっちで使ってた」

慶次が幸村に手渡す。

「元就殿…」
「我はもうほとんど乾いておるから良い」
「あ、では…すみませぬ」

幸村が束ねていたヘアゴムを外すと、栗色の髪が肩や背中に広がった。

…その仕草や流れる髪が、慶次の瞳にどこかゆっくりと映し出される。


――気付くと、幸村の手からドライヤーを取り返していた。


「慶次殿?」

不思議そうに見上げる幸村へ、

「…やったげる。俺、得意だから。――てか、やらせて?」

と、いつもの顔で笑いかける。
驚く幸村だったが、「お願い!」と頼んでくる彼の顔には、どうにも弱い。

「で、では…お願い致す」
「やった!」

ウキウキとその髪にドライヤーの風を当てる慶次。
幸村は子供扱いのようで恥ずかしいのだろう、少々頬を染めていた。

(…佐助が見れば、また拗ねそうな光景だな)

元就はそう思いながら、慶次の顔を見る。
…それはそれは、幸せそうな。


「きれーな髪だねぇ…」

うっとりしたように、慶次が指ですく。

「慶次殿の方こそ」

見下ろすような格好の慶次に向かって、幸村が視線を上げる。
慶次は長髪を低い位置でまとめ、いつもと雰囲気が違っている。

「ありがと!…さ、もう良いかな」

すみませぬ、と幸村は律儀に頭を下げた。

「Hu〜m……アンタ、髪下ろすと全然感じ違うな」

政宗がまじまじと幸村を見つめ、「Sexy…?」

「えー、そっかな?俺は可愛いと思っ」
「お待たせー!!」

がチャッとドアが開き、佐助と元親がドタドタと雪崩れ込んできた。


――はや!!


今度こそは政宗だけでなく、その場にいた誰もがそう思った。

「さーさー、始めましょっかねっと」

佐助は、端に寄せたローテーブルに飲み物をいそいそと運び始める。

「何しよっか?DVD?ゲーム?ね、旦那は何が――」

やっと幸村に顔を向けた佐助は、いきなり固まり彼を凝視する。

その理由は幸村と元親以外、全員手に取るように分かったのだが――

「だ、旦那が髪下ろ……初めて見た」
「佐助…?」

ポカンと口を開けたままの状態の佐助に、幸村は何やら心配になってきた。

佐助はプルプルと腕を震わせながら、





「――…ちょおぉぉ可愛い!!や、すっげキレイ!何か大人っぽいし!」



と、力を込めて言った。


「…男がそんなこと言われても、嬉しくないのだが…」

複雑そうにしながらも、佐助の勢いには押し負けてしまいそうな幸村。

「ごめーん!…でも、無理!だってそれ以外言えない。別に女に見えるわけじゃないからさ!それに…そんな変身できる旦那、やっぱ格好良いわぁー…」

キラキラと目を輝かせて言う佐助に、幸村は納得させられたような気分になっていた。
意味はどうであれ、最後の一言が効いた可能性が高い。


「佐助のペイントのない顔も、初めて見た…」
「…だな」

元就も、同様に頷いた。

「あ、そっか!どう?俺様、こっちもイケメンでしょ?」

無邪気に聞いてくる佐助に、幸村は思わず吹き出してしまう。

「…それ、整った顔の奴が言っても、全然面白くないぞ」
「えっ――それって……」

佐助は、何故か元親の背中をバシバシ叩きながら、

「俺様が、めちゃくちゃ男前ってこと!?」

「(そこまで言ってないが…)違うのか?」

幸村は、小首を傾げる。

「違いません!!」

「――……」

感動に震える佐助へ、幸村以外の誰もが冷めた視線を送る。

「…ゆっき〜、俺はぁ?」

慶次が甘えたように言うと、

「慶次殿も整っておられますよなぁ…。女子に人気のありそうな、優しげな…」

途端に慶次の機嫌は良くなる。

「つまり、女の子にモテモテで、優しくて性格も良さそうな?…だっろぉー!?やっぱ」
「は、はぁ…」

「Hey、俺はどうだ?」
「政宗殿は、外国の人形のような美しい顔でござる」
「――う、美しいってお前…」

予想外の褒め言葉を真顔で言われ、政宗は柄にもなく赤面した。

「美しいと言えば、元就殿もでござるなぁ」
「そ…そうか」

元就も、満更ではなさそうである。

「幸村ぁ…」

佐助のひどい仕打ちから救いを求めるように、元親が幸村を見上げてくる。

「元親殿は、すごく格好良いでござる!友人や後輩たちの面倒見も良くて頼りになりまするし、優しくて…。――本当に綺麗でござるなぁ、その目…」

感心したように、幸村は元親の蒼い瞳を覗き込むが、本人は喜びでそれどころではない。

「幸村、俺の味方はお前だけだ…!」

しかし、一人だけ性格も褒められ、周りの反感を大いに買ったことには、まるで気付いていなかった…


普段から言われ慣れている彼らだったが、幸村のように裏のない人間から言われるのは、また格別であったらしい。

それぞれ、ニヤけた顔を隠すのに必死になったり――思い切り頬を弛ませるばかりであったり……

何とも生温い空気が充満する。



(…ま、旦那が一番、性格も顔も良いと思うけどね――)



こっそりそう胸に留める佐助の口元は、かすかにほころんでいた。

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