賑やかな週末@-2
「…でも、就ちゃんには感謝してるんだよー。沢山話聞いたから、何か俺様まで旦那たちと昔からの付き合いみたいに思えちゃう」
ニコニコと笑う佐助を見ながら、元就は以前にした会話を思い出していた。
『小学校の話?』
幸村に聞けば良かろう、と冷たく言い放つ元就に、
『就ちゃんに聞いた方が貴重さがあるっていうか――。ねっ、お願い!』
毎日しつこくボードゲームだ何だので勝負を挑んでくる佐助に、元就はとうとう根を上げる。
しかし、何故元就の得意で好きなものばかりを持ちかけてくるのかは不思議だった。
『――こんなことをせずとも、幸村は誰とでも親しくすると思うが』
佐助の目的を分かりきっていた元就は、はっきりそう言ったのだが、
『初めはそのつもりだったんだけどさ?でも、就ちゃん思ってたより良い奴で――本当に仲良くしたいな〜ってね』
少しも悪びれず言う佐助に、かえって毒気を抜かれる元就。
『…そうか』
『うん、それにさー…』
佐助はしっかり元就の目を見据え、
『旦那がホント嬉しそうに就ちゃんのこと話すもんだから、俺様ももっと知りたくなっちゃった』
その、射抜くような視線に複雑な思いもしたが、幸村のことを心底気に入っているのは間違いなさそうではある。
幼なじみで、幸村を大事に思う気持ちは負けないつもりだったが、佐助の異様なまでのこの勢いには、正直驚かされていた。
よほど惹かれるものがあったのだろう。…分かる気もするが。
「――ねえ、就ちゃん今日夕方ヒマ?」
佐助がケータイを見ながら、
「政宗からメールでさ、何か――旦那と剣道の勝負するって…見てみる?」
「…ほう」
「あら?絶対興味ないと思ったのに」
「そんなことはないぞ。あやつは昔から色々やっていて、よく試合の応援に行かされていた」
「んな、行かされてたって――旦那に?」
吹き出してしまう佐助。
「真田妹にだ」
「あ、なるほど」
「…幸村がまた喜ぶものだから、もう恒例のようになっておったわ」
「へーえ……」
その相槌には少し含んだものがありそうだったが、元就は見て見ぬ振り。
「伊達も剣道は長いのか?」
「うん、小さいときからやってたみたいよ。どっちが勝つか見ものだね〜」
佐助は口角を上げる。
「剣道だけではない幸村に負ければ、立場がないだろうな」
フッと元就も不敵に笑う。
「…ギャラリー集めとこうかな。特に女の子」
「何故」
「政宗が負けるとこ見せて、ファンが減れば良いかなって」
黒く微笑む佐助に、元就は溜め息をついた。
「幸村が負けたらどうする――いや、勝つがな?万が一…。それに集中力が削がれる。伊達の取り巻きは積極的な女ばかりだからな」
「あー…そっかぁ…」
同い年には思えないほど純朴な幸村のことだ、政宗と女の子たちとのやり取りにさえ動揺してしまいそうである。
別に、女の子と話すのが苦手ではない――分け隔てなく接することのできる彼だが、恋愛が絡んでくると途端にぎこちなくなってしまう。
『は、は、破廉……っ』
と、叫びそうになるところを必死で抑え、ときに元就やかすががその口を塞ぐ。
(…俺様たちといたら、いつも爆発しなきゃなんないかもな)
佐助は心の中で苦笑する。
中和するためにも、就ちゃんにはこれからも俺様たちのグループにいてもらわなきゃだ。
「それに、幸村に惚れる者が出たら面倒だ」
サラッと言う元就に、佐助は目をむいた。
「そりゃひどくない?」
「…あやつのあの体たらくは分かったであろう?慣れないことで幸村が気を揉む必要はない。…そういうものは、あやつが自然に思えたときに、ゆっくりやれば良いのだ」
(……へえぇ)
佐助は納得しながら――さらにこの友人のことを気に入ってしまった。
「就ちゃんは、ホント旦那思いだねぇ」
今度は素直にそう言ったのだが、「フン」と元就はそっぽを向いてしまう。
予鈴が鳴り、二人は生徒会室を後にする。
「じゃあ、放課後よろしくね」
「ああ」
次の授業は、担任の小十郎の教科。
――自然と早足になる二人だった。
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カラカラとドアが開き、幸村が教室に入る。
「遅くなってすみませぬ」
教壇に立つ小十郎へ頭を下げる。
「いや、いい。で、大丈夫だったか?早退させるか?」
「いえ、そこまでには及ばぬようで。本人も構わぬと…」
「そうか…。じゃ、帰りはしっかり頼む」
「はい」
幸村は席へ戻った。
佐助や、他の四人もその顔をチラと見ていたが、どことなく浮かない表情。
授業が始まる前に、かすがが貧血で倒れたと聞かされ幸村は保健室へ行っていた。…その顔は、心配で仕方がないといったところだろう。
授業が終わり、幸村の元へかすがの友人たちが集まる。
「かすがちゃん、本当に大丈夫なんですか?あと一時間ですし、もう一緒に帰っちゃえばよろしいのに」
鶴姫が心配そうに言った。
「ありがとう、姫殿。皆様も…。休めば大丈夫そうなので、ご心配には及びませぬよ」
と微笑めば、皆納得したように離れていく。
「――大丈夫?」
佐助たちも声をかけた。
「はい、ご心配をおかけしてすみませぬ。…そうだ」
と政宗に向き、「政宗殿、申し訳ござらぬ、今日の約束――」
「バーカ、当たり前だろ。ついててやれよ」
政宗が珍しく優しい笑みとともに言う。
…だが、頭を下げる幸村の顔は未だにどこか晴れないままだった。
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