記憶の片鱗4


「慶次、って…」
「前田慶次殿。――昨日、偶然会ったんだ。あと、猿飛佐助」
「ああ…いきなり騒いでたものな。…何だか、軽そうな奴らだったけど」
「そんなことないぞ?二人とも、すごく良い方たちだ!…それに、元就殿も」
「…毛利か」
「ああ、向こうも俺のことをちゃんと覚えてくれていたんだ!」

満面の笑みでかすがに顔を向ける幸村の口元には、ケーキのクリームが付いていた。
かすがは、ティッシュを渡し、指摘する。

(…絶対、私の方が姉だ…)

心の中で笑っていると、


「…なあ、かすが」
「何だ?」


幸村は、一呼吸置いて――




「今度こそ、見つかるかも知れない。…かすがの探していた人…」


かすがは、ピタリと止まり、


「幸村…覚えていたのか…?」


幸村は微笑んで、

「俺たちが会ったときのことなのに…忘れるはずないだろう」

「…けど、どうして…」

かすがのその顔を見て、(ああ――やっぱり)と、幸村は思った。


「…俺も、そんな感じがしたんだ…。俺の探していたものも、あそこにある、ような…」

「――!本当か!?」

かすがが、驚きの表情を見せる。

「ああ…。やっぱり何だかゴチャゴチャしていてよく分からないんだが…。お前に会ったときと――元就殿に会ったとき。…そのときと同じ感じが…これまでになく強くした」

「…そう、か…」

かすがの瞳が、少し潤んだ。

「良かった…。良かったな、幸村…」




――幸村が、かすがの華奢な身体をその腕に包み込んだ。




「……おい」

かすがは身じろぎし、「これは、前にやめろと言ったはずだが…?」

「元就殿にも、人前ではやるなと言われた」
「やったのか、あいつに…!」

呆れるしかないかすが。


「仕方ないだろ…」

――こうしたくなるのだから。


両親に星の数ほどこうしてもらった記憶の強い幸村は、これがもう癖のようになっていた。
対象は、かすがと親しい友人にのみ限るが。

男女のそれとは全く別物らしく、一度テレビでそのようなシーンを目にすれば、

『は、は、破廉恥ィィィ!!』

と、鼓膜が破れんばかりの雄叫びを上げるほど堅物なのだ。
昔は、ほんのちょっとのことでもいちいちそんな反応をしていたのを、

『あまりにそうだと、逆に意識しているように思われるぞ!破廉恥野郎のレッテルを貼られても良いのか!?』

と、かすがが叱咤・特訓して少しは耐性が付いたものの、まだ一昔前の、純情な乙女程度のレベルでしかない。
あまつ鈍感なので、そのルックスから多大な人気があったにも関わらず、何度もチャンスを逃している。

かすがは、このどこかポワンとした義兄の動向ばかりを気にする内に、自分も恋愛どころではなかった。…というより、今までそんな相手に出会わなかったというのが正しいだろうが。


「――何となく、もうこういうのはできなくなるのではないかと」

幸村はポツリと、「かすがの、『その人』が見つかったら」


「…幸村」

(こいつはこいつなりに、分かっていたのかな…)


かすがは優しい表情に変わり、

「お前はずっと……私のきょうだい、だよ…」

「――本当、…だな?」

いつも聞き分けが良い彼にしては珍しい確認するような言い方。

…唯一甘えられる存在だからこそ。


「絶対、だからな…」



かすがは、力の込められる腕の中で思う。



――こいつの『その人』は、きっとあの学園に。……早く、見つかれば良いのに。

そして、この優しくて温かい…だけど、本当は不安も隠し持ったこいつを、その手で包んでやって欲しい。――その不安はきっと、出会えない限り、付いては離れないものなのだろうから。



たった一人の、私の大切な――家族。

その笑顔が続くことを願うのは、

……必然。







*2010.冬〜下書き、2011.7.3 up
(当サイト開設・公開‥2011.6.19〜)

あとがき


読んで下さり、ありがとうございます!

本当に多々すみません!土下座。
佐助は元親をからかうのが好きなだけなんです…!決して本気で嫁ぎたいと思ってないです!奴は攻めです。皆攻めです。

幸村とかすがの兄妹設定がダメな方本当に申し訳ありません…。ホントは、『かすが殿』って呼ばせたかったですが、妄想が兄妹にしやがりまして。今や自分の中で普通に; あと、二人が恋愛になることは絶対にないです。

色々ふざけまくりですみません本当に。

この長編、一日の話が長くて、次回はいきなり数ヶ月後…とかぶっ飛んだりします;
そのくせ展開とろい(^q^)

これからも幸村を加えてこのようなやりとりがありまくりです。彼がいれば少しは…(汗) 幸村をアイドルにさせる方法がズレているかもですが、止められない…(謝)

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