記憶の片鱗3


「――何だったんだ?」

慶次が元親に近付くと、渋い顔でその首筋を見せられた。

「…あらら」

そこには、小さいが赤く鬱血した跡が――


「信じらんねぇ。…消えっかな、これ」
「さぁ…別にいんじゃね?誰も見ねぇって」
「…これでそう思われたら、大損した気分だぜ。本当に女からのもんだったら良いものの」

だあ、とテレビの画面を悲しげに見つめた。

「あいつ、妙なテンションだよな。…欲求不満か?」
「まあ、間違ってもお前に襲いかかりゃしねぇだろーけど…」

慶次は苦笑しつつ、「ちょっと元気ない…かな」

(やっぱそうか…)

突然自分たちを招いたのも、えらく珍しいと思っていたのだ。

「とは別で、ゆっきーと本当に仲良くしたいみたいだけど」
「ああ…まずは毛利攻略からだな…」

(毛利は中等部でも生徒会にいたな。…そのときのメンバーに探りを入れてみるか)

…って、何だってこんな――好きな女のことを知ろうとするときみてぇな行動を、野郎――それもあの毛利相手にしなきゃならねぇんだろう。

少し苦々しく思う元親だったが、これも佐助のため――

というよりは、佐助がかすがに興味を持つのを阻止するため…だと思えば。

元親は、しっかりとその決意を固めるのだった。


一方、慶次は、

(…さっけに聞きそびれたな…。俺たちみたいな『デジャヴ』的なものを感じたことがあるのかどうか)

後で聞いても良いのだが…

何か、そういう流れになれそうもないので、まあ、また今度でも良いか……と、のんびり考えていた。














「ただいま」

幸村は、リビングから続く畳の部屋で寛ぐかすがに声をかけた。

「あ――お帰り。随分やってきたな」

時計を見ながら呟く。

夜のトレーニングと称して、幸村は外へジョギングしに行くのを日課としていた。

「そうか?――店、どうだった?」
「ああ――これ」

と、かすがは白いカードを見せる。

今日は早速できた友人たちと夕飯を食べて帰ると、幸村へメールを寄越していた。

「あ――ここは…」

幸村は、チェストの上に置いていた財布から、同じカードを取り出す。

「昨日、慶次殿からもらったんだ…バイト先らしい。――食べるところもあるのか」

「ああ…ケーキ売ってるとこと中で繋がってたよ。美味しかったぞ、ケーキ。…冷蔵庫の中」

瞬間、幸村の顔が明るくなる。

「ありがとう、かすが…!」

早速箱を開け、うおぉぉぉ!と感動の声を上げる。


…表向きは兄妹の二人。

実は、血の繋がらない赤の他人。…なのだが、この関係は幸村が両親を亡くした七つの頃から。
彼女とは、その後出会い――兄妹になった。
お互い、本当の家族と強く思う気持ちは、もう本物以上のものだと言える。

二人にしては広さも充分なこのマンションを新しく用意されていた。

後見人の武田信玄の実家は資産家とかで、金銭の余裕は有り余るほどらしい。だが、親類縁者の多い武田一族で二人に肩身の狭い思いをさせたくないと、これまでずっと、二人だけの家を構え続けてきてくれたのだ。

高校に上がるまでは通いの家政婦まで雇ってくれ、たまに家に顔を出してくれたりと、信玄は家族サービスも忘れない。

幸村は彼を『お館様』と敬愛を込めて呼んでいる。

二人の家族の信頼関係がここまで築き上げられたのも、ひとえに信玄のお陰だと言える。

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