記憶の片鱗1
※慶次、元親、佐助、幸村、かすが 登場。
前回と同じ日です。その後のやりとり。
※佐助はふざけているだけです(汗)
彼は攻めです。
※幸村とかすがは家族です。それ以上のものは決してないです。
後書きで言い訳しまくりです。
「あっれー、偶然」
「…おう」
街中にある大型のショッピングセンターで、慶次と元親はバッタリ出くわした。
「佐助と転校生は?」
「ちょっと前に別れて戻って来た。家まで送ったんだけどさ――あ、ちょっとごめん」
慶次のケータイが鳴る。「さっけだ。…もしもし?」
うん、うん…と応じる慶次だったが、
「元親、今日夜ヒマ?さっけが、家来ないかって」
突然の誘いに驚く元親だったが、特に用事もないので頷く。
「――うん、たまたま会ってさ。…了解。じゃ、後でな」
通話を切り、「政宗にも連絡」
「あー…何かあるとか言ってたけどな」
元親の言う通り、彼の承諾は得られなかったようだ。「そっか、残念ー」と、政宗との電話を終える。
「でも、一応言っとかねぇとさ。あいつすぐ拗ねるもんな」
元親は苦笑し、
「確かにな。――先、家に電話しとくわ。お前も早めにやっとけ」
「あー…、だな」
引きつった顔になりながら、慶次は急いでケータイを再出動させる。
慶次の家には、彼の頭が上がらない叔母がおり、普段からその素行を厳しく注意されているのは周知の事実だった。叔父の方も、彼女には敵わないらしい。
幼い頃から慶次の世話をしてきたためか、二人はほとんど親代わりと言えるほど。
慶次の両親は異動の多い仕事柄で、学園の初等部に入ったときから叔父夫婦の元で暮らしている。
この夫婦がまた、大変仲が良く――慶次の恋愛事情の多さのゆえんであろう。
ただ、二人とも自分たちよりも十歳以上も上には見えないくらい若々しく、いつも不可思議な気分にさせられる。…それも、愛の力なのだろうか。
元親たちがそこまで詳しいのは、二人が揃って学園の教師を務めているからだった。二人の睦まじさは、職場においてもとどまることを知らない。
「…一回帰れって。…何か持たせる気だ、まつ姉ちゃん」
「良かったじゃねーか。佐助も先生の作るもん好きだしよ」
叔母のまつは家庭科担当で、その料理は絶品との定評がある。
「まぁねぇ。でも帰んの面倒…」
「買い物してこーぜ。ついでだからお前ん家まで付き合ってやるよ」
「頼むわ」
お菓子だ何だのを買い、外へ出た。
「――お前らにしちゃ珍しいよなーって。政宗と話してた」
元親が、かすがの話題を上げていた。
「今日は女の子たちのガードが高かったからな〜。気付いたら近付けなくなってたよ」
慶次の言葉に、そうだったか?と少々首を傾げる元親。
「いやぁー、でも本当に嬉しい偶然だよ。転校して来るなんてさ」
そう言う顔は、実に幸せそうである。
これではまるで、兄の方に一目惚れでもしたのではないかと思えてくるほどだ。もちろん冗談だが…
…何故か、元親はそれを口にできなかった。
「…なぁなぁ、『デジャヴ』って何なのかねぇ?分かる?」
急に慶次が全く関係ないことを言い出したので、元親は呆気にとられてしまう。
「何だぁ?突然。…あれだろ?何か、見たことあるような――ってやつ」
「や、それは知ってる。…どうしてそういうのが起こるんだろう、って話」
「どうしてって…」
元親は思案を巡らせ、
「確か…前に夢で見たこと――とかだっけか?…いや、知らねぇ。けど、何だってまた」
慶次は「うーん…」と首をひねりながら、
「何っつーか……昨日からそういうのがよくあるような…」
「――へえ」
「いや…そういうのとも、ちょっと違うっていうか…」
何て言ったら良いのかねー、と慶次は自分のことながらもどかしそうである。
その様子を、考えるように見ていた元親だったが、
「あいつ――と、初めて会った気がしない……とか?」
試すように聞いていた。
目を丸くする慶次に、元親は、しまったと思ったのだが――
「そう……それだ!そうだったんだ…!元親すげぇ!――何で分かったんだ!?」
その勢いに、逆に気圧されそうになる。
「何でと言われても――。…俺もそう感じたからよ。…あの二人に」
「えっ――」
慶次は目を見開き、「そう――だったんだ」
(…何で、ちょっと残念そうになるんだ?)
そう思った元親だったが、あえて聞かなかった。
「俺よー…昔からそういうことがよくあるんだわ。今回に限らず」
秘密をもらすが如く言う元親へ、慶次がまたも驚きの表情になる。
「そう……なんだ?俺は」
初めて、と言おうとしたが、よくよく思い起こしてみると、慶次も子供の頃にそういうものを感じた記憶があるような気がしてきた。
両親に言わせると、叔父夫婦には自分たちよりも初めから懐いていたとか、この学園に入ってから、友人の中でも旧知の仲かと錯覚しそうな者が何人かいたり。――それも、今思えばそんな類いのものなのではないだろうか。
「――俺も、そうかも。…今、気付いたけど」
「…マジか?」
「うん。…てか、何で今まで分かんなかったんだろ?」
「…人によって違うのか…」
元親は顎に手を添え、
「でも――嬉しいぜ。…ずっと不思議だったんだが、誰にも言ったことがなくてよう」
「そうだったんだ…。言ってくれれば良かったのに」
「いやー…言えねぇよ」
(お前らには特にそう感じてたってのに、誰もそんな素振りなかったんだ。…寂し過ぎんだろ)
「――ごめん」
元親は、心を読まれたのかと肝を冷やしたが、
「気付いてやれなくてさ。…お前が、そんなこと抱えてたなんて」
「いや、別に悩んじゃなかったけどよ」
ちょっとモヤモヤするだけで…
「そういやあ、元親とは初対面から絶対仲良くなれるなって思ってたっけ。お前は良い奴だって、不思議と知ってた気がする」
慶次は、明るく言った。
「……へえ」
「うん。…それにさ、俺だけだったよな?あのとき、お前が男だって分かってたのは」
「……」
嫌な思い出に触れられ黙ってしまう元親だったが、慶次は気にも留めない。
「さっけたちも、もしかしてこういうのがあるのかなぁ…」
「――どうなんだろうな」
さっきまでは、それはずっと気になっていたことであったのだが。
慶次という仲間が得られて、元親は大分満足していることを自覚する。
実際は、先ほどの慶次の言葉が単純に嬉しかっただけなのかも知れないが――
…それには気付かない振りをしておこうと思う元親だった。
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