変化4


「被験者がいないということは……やはり、記憶の方は言った通りだったでしょう?ならば、問題ないじゃありませんか」


「……あァ?」



「楽しめたでしょう?普段見られない姿が」



「ふざ――」

誰もがそう言おうとした瞬間、



「っけんな、てめぇ……!」


慶次が、光秀の胸倉を掴み、


「遊び気分で幸を弄びやがって…!忘れてるかも知れねぇけどな、あいつはすっげぇ辛い思いしたんだぞ!?自分の意思じゃなく、てめぇのせいで――」



「おいッ!」

「慶ちゃん、待った!!」


殴りかかる勢いの慶次を、さすがに政宗と佐助が止め、元親が力づくで引き離す。



――そうだ、こいつが一番頭にきていたんだった……



四人は、彼の憤りを前に、かえって頭が冷えていくのを感じていた。

長い付き合いの中で、初めて他人にここまで怒りを露にした慶次を見て、驚いてしまったせいもある。



「……データとか、全部こっちにあるわけだけど。――アンタ、どうして欲しい?いや、返したりしないよ?…教師、辞めたい?」


こんな奴を野放しにするのも、危険な気がするが――


「それは…困りますね。ここなら、研究がし放題ですから。大学の研究室にもすぐですし」

「…むしろ、他行った方がよくね?それ」


「他人に研究を干渉されたくないので。――この環境が気に入っていますしね。一応、教師の仕事も」

「一応とか、説得力ねえ!!他行けや、マジで!」


「それは、勘弁して頂きたいですねえ…」

光秀は苦笑し、「あなた方を侮っていましたよ。どうやら、選ぶ相手を間違えたようだ」


少し空いた間の後で、大分頭の血が下がったらしい慶次が、


「……もう、二度とこんな真似しないと――幸だけじゃなく、他の奴らにも。……そう、誓ってくれるなら」

と、溜め息とともに呟いた。


「えー……」

佐助は不満げに口を尖らせ、他のメンバーからも、「良いのかよ」、「あり得ぬ」などとブーイングの嵐である。


「……ま、お前がそう言うんじゃな」

元親は仕方なさそうに言い、慶次の肩を軽く叩いた。


「…感謝しますよ」

光秀は微笑し、「まあ、あの薬は趣味で作った物ですから、未練もありませんが」


「ハタ迷惑な趣味…」

もはや、呆れた反応しかできない。


「――そうだ、お詫びをさせて下さい。真田くんにも」


「うるせぇッ!要らねーよ、んなの!テメーこそ、二度と幸村に近付くんじゃねぇ!」

元親が、噛み付きそうな声で吠える。


「まあ、そう言わず。――これを」

スッと、何か白い紙を一枚差し出した。


「――あ?」


写真…?


見てみると、女性が一人写っている。

ふわふわの銀髪に色白の、――かなりの美人。


「…誰だ、これ?」
「お詫びってアンタ……女、紹介してくれるってか?」
「どこまで痴れ者だ……」

言いながらも、写真を回していく。


「――うわ、超美人!見て、慶ちゃん」
「えー……?」

興味のなさそうな慶次に、佐助はいささか無理やり手渡した。


「――は?これ……」

慶次は愕然とし、「あいつじゃん――」

「え?慶ちゃんの知り合い?」



「知り合いも何も――半兵衛じゃん!あ、竹中先生!」



「は、」


「えぇー!?」という驚愕の叫び声が、見事に全員揃った。



「うっそだろー…?これが、あの…?」
「お前、よく分かったなー!」

「やっ、すぐ分かるだろ!?髪も目も――」
「だって、化粧してるし…女にしか見えなかった」


「――で、この写真が何の詫びになると言うのだ?」

元就の冷静な一言に、一同我に返る。


「そっ、そーだよ!何だコレ!?あいつの趣味?弱味として握るにしても、恐ろし過ぎんだけどッ」

すっかり目をむいた慶次が、素早く写真を光秀に返した。


「良くできているでしょう。私、ビジュアル系も好きでして。メイクが得意なんですよ」

「ビジュアル系…」

「ああ、竹中先生は元が良いので、ついこうしてしまいました。ナチュラル系ですか」


「つか、どうやってあの人に!?」

「まあまあ、そこはプライバシーの…」

「コレ見せた時点で、侵害してっだろ!!」



だが、光秀は無視し、

「こちらもどうぞ」

と、別の写真を見せた。


「これは――」

五人は、まじまじと中の人物を見つめる。

恥ずかしそうに、しかし微笑んでいる――少しタレ目がちで、サラサラストレートヘアの、いかにも初々しい美少女。


「可愛い……」

正直な感想しか出てこない。


「……こんな子いたっけ?」


光秀はもう一枚写真を出し、

「この子、知ってますか?一年生ですが」


それは、どこかパッとしない、実に気弱そうな男の子。
少しポッチャリしていて、おどおどした目がいかにも加虐心を煽りそうな――


「金吾か」

「就ちゃん、知り合い?」

「ああ。小早川のお坊ちゃんだ、親同士の繋がりでな」


「小早川って、あの――?」


小早川家は、政宗の家にも匹敵するほどの名家。

まさか、その子息が同じ学園にいたとは思いもよらなかった佐助たちである。


「――って、まさか…」

「こっちも金吾さんです」


「……マジで?」


あの美少女の写真を指し、放たれた言葉。
これは、光秀の腕前は相当なものだと認めざるを得ない。

しかし、これが一体……


「毎年、文化祭で催される『女装・男装コンテスト』があるでしょう?――私に任せて頂ければ、優勝間違いなしですよ」

「あー、あれかぁ……」


「心配なら、一度試しにやって差し上げますから」

五人を見渡し、楽しそうに笑った。



(別に、優勝なんて…)



「今年の優勝賞品は、結構豪華ですよ?そのクラス全員に、スキー研修プレゼント」

「スキー…?別に、自分らでも行けっけど」

「しかし、タダというのは魅力的じゃありませんか?ただ…クリスマス時期らしいですがね。逆に迷惑な方もいるかも知れません。まあ、その場合はキャンセルして構わないでしょうし。場所は確か…」


五人は顔を見合わせ、


「スキー……良いね、タダで」
「うん、そこは惹かれる…」

「幸村、喜びそうだよな」
「…確かにな」


「――OK」

政宗はニヤッとし、「詳しい話、聞かせろ」





と、いうわけで――…


…当初の怒りはどこへやら。

五人は、後日彼のお試しメイクを受ける約束を取り付け、新たな楽しみを胸に、魔窟を後にしたのだった。







*2010.冬〜下書き、2011.8.2 up
(当サイト開設・公開‥2011.6.19〜)

あとがき


ここまで読んで下さり、ありがとうございます!

佐助がカッコ悪くてすみません…!こういうのにしたかったから、もう取り返しつきませぬ(@゚▽゚@)
彼は頭良いんですが、そっち方面はナリ様が言うようにお子さま以下でして。何でそんな幸せなのか本当の理由に気付いてない。


薬切れたので幸村は元通りです、元親に対しては。なので、慶次と元親に共通するものは何なんだろうと必死に考えたところで答えが見つかるはずもなし。

皆ヘタレで申し訳なく。私のせいです、まだ誰も告げないのは(@_@;)

またこんな展開。次に何したいかもうバッレバレですね!だって、せっかくの現代!
半兵衛は忘年会とかの余興でやったんじゃないですかね。秀吉はどんな反応したのかなー。てか秀吉の女装が見てぇわ(^m^) 半兵衛、キュンとしたりして。
金吾さんは練習体。天海さまには逆らえません。


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