再会3
終業後のホームルームが終わり、転校生二人に、大勢の生徒たちが声をかけて去って行く。転校生自体が珍しいこともあってか、他のクラスの者たちも、二人をチラチラ眺めては廊下を過ぎて行く。
「ゆっきー、待ってるからゆっくり案内してもらって来なよ」
慶次が幸村に手を振る。
「すみませぬ!」
幸村は会釈し、ドアの外で待つ元就の元へ急ぐ。
「お待たせ致した、元就殿!」
――ん?
佐助と慶次は顔を見合わせた。
「…いつの間に、下の名前呼ぶ仲に?」
「朝以来、接触なかったよな…?」
「……」
「……」
二人は廊下に出て、幸村と元就の背中を見つめる。
「…俺様ちょっと考えたんだけど、慶ちゃん付き合う?」
「多分同じこと考えた。…行こ」
まだ教室にいた政宗と元親へ、
「――んじゃ、そういうことで!行って来るわ!」
「何なら先に帰ってて〜」
見るも素早く姿を消した。
「…何だ、あいつら」
呆れたように政宗が呟く。
「こそこそしねーで、一緒に行きゃ良いのにな。毛利相手じゃあ仕方ねぇのかも知れねぇけど」
「Ah〜、あの二人を追いかけたのか。…えらくご執心だねぇ、あいつら」
クク、と政宗は笑った。
元親は、ケータイをいじる彼を見ていたが――
「なぁ…」
「Ah?」
「……」
元親は、詰まる。
「…何だよ?」
訝しげに尋ねられ、元親は言いにくそうにしながらも、
「――あの……転校生…」
「が、どうかしたか?」
やはり、そのままの顔で政宗は聞き返してくる。
元親は、探るようにその顔をじっと見ていたが…
「…何でもねぇ」
と、目をそらした。
「――んだよ。…あ」
政宗は苦笑し、「あれか?妹の方に一目惚れでもしたか?」
すっげぇ美人だったもんな、とニヤつき始める。
「いや、違――。…ま、確かに」
元親は思い直したように、政宗の、上品とは言えない笑みに付き合い出した。
「お前の方は?…俺ァ、嫌だぜ?またお前と佐助の醜い争い見るのはよ。お前らの好みは似てるからな」
溜め息をつく元親。
「似てねーだろ。だいたい、女の方が俺らの間をフラフラするだけで、別に」
――そう、いつもそうなのだ。二人に悪気はないようで、一層手に負えないことなのだが。
例えば、女の子が二人のどちらかに気があり近付く。当然、彼らはいつでも受け入れ態勢。そして、片方と付き合うことになった途端、もう一方が彼女に思わせ振りにしか見えない態度をとり出すのだ。
散々揺さぶられて、彼女の気持ちが後者に傾いた頃には、二人のその子に対する興味も失われている――そんな、目を背けたくなるような結果を招くことが、今まで何度もあった。
本人たちに自覚がないのを知ってからは、もう諦めるしかないと悟った。
無意識に張り合い、お互いを牽制している。そうとしか思えないほど、二人のとる行動はよく似ていた。
…なので、元親はあの転校生がその的にならなければ良いが、と心配している。
「てかよ、あいつら珍しいな。いつもなら、美人美人っつって真っ先に行きそうなのに」
政宗の言葉に、元親も頷いた。
「だよな。相当気に入ったみてーだな、兄の方」
「失礼な奴らだぜ、あーんな美人にロクな挨拶もなしで」
軽く笑う政宗を見て、元親は思う。…どうやら、政宗の食指はまだ彼女に動いてないらしい。
このまま、二人の興味の対象にならないことを願う…。
「――あ、俺帰んねーと悪くなった」
政宗が、何か連絡が入ったのだろう、ケータイを見て言った。
「…俺も帰るわ」
歩きざま、佐助たちにメールを打つことも忘れない。
豪快なようで、実は結構マメなところのある彼なのだった。
『生徒会室』
ドアに貼られたプレートは、重々しいオーラでも放っているかのようだ。
佐助と慶次は、誰一人として通らないその部屋の前に来ていた。
コンコン、と慶次がノックするが、返事はない。ノブをひねるが、やはり鍵がかけられている模様。チラ、と佐助を見ると、彼はニヤリとし――ポケットからヘアピンのようなものを取り出す。
鍵穴に入れ、カチャカチャやっていたが…
『カチャリ』
小気味の良い音が鳴り、二人は悪戯っぽい笑みを交わす。
サッと部屋へ入り、中から鍵をかけ直した。
慶次は苦笑し、
「いつ見ても鮮やかな腕前!どこで身に付けたんだか」
「器用なだけだってば」
決して、悪事に使うことはない。せいぜい、ヤンチャな遊び程度くらいにだ――恐らく。
「ここが良いかな?」
入ってすぐのところに別室があり、開けてみる。
中は備品や何やらが、天井近くまで届く棚にきっちり納められており、そうそう人の出入りはなさそうな様子。
二人はそこへ失礼し、ドアの前にしゃがみ込む。
ケータイをサイレントに設定していると、メールが入って来た。
「親ちゃん?」
「ん、先帰ってるって」
――ガチャガチャ
「!!」
隣の部屋の鍵を開ける音。
目配せし、二人はドアに耳を寄せて沈黙する。
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