気持ちを君に2
(…だからって、ここはなかったよな)
佐助は、心の中で大いに嘆くが、
「佐助、すごく上手かったなぁ!」
「いや、俺様も初めてしたんだけどさ…」
「何だか悪かったな、こんなに頂いて」
と、幸村が見せる両手には、お菓子やジュースが詰まった袋。
「やー、でも喜んでくれてたし…」
「であろうか?俺も本当に楽しくて…また来ようなっ?」
「──うん…」
その眩しい笑顔に、もしかしたらそう間違いではなかったかな…と、佐助の口元も緩む。
苦悩の末、彼が提案したのは、
『……旦那、ゲートボールはまだしたことないでしょ?』
デートにはあんまりだと思ったが、そこなら確実に奴らが現れる恐れはない。
元気なご老人たちに声をかければ、二人はたちまち人気者。
たっぷり指導を受け彼らを喜ばせると、昼食やおやつまで頂戴し、既に夕方にも近付く時間。
ゲートボール場は簡素な公園の中にあり、老人たちは帰ったので二人きりではあるが…色気も何もあったものではない。
「ちょっと休んでこーか」
「そうだな」
思ったより体力を使うというのにも驚きつつ、心地好い疲れの中、佐助は芝生に寝転んだ。
幸村は隣で、もらった駄菓子を口にする。
「ピピピー」
「はは、懐かしーい」
笛吹き飴を鳴らす幸村に、笑いがこぼれた。二人で無邪気に遊んでいた、幼い頃を思い出す。
「パプペフォフォーピャ?」
「『佐助もどうだ』?良いよ。旦那、それ好きでしょ」
「ピッ」
そんなこと言わずに、とでも言うかのように、幸村が佐助を覗き込んだ。
飴をくわえた唇を少し突き出し、示してくるが、
「プッ…」
「あ、ばかっ」
幼少を思い浮かべていたのもあり、それがすぐに昔日と重なった。
彼は吹くのを力み過ぎて、よくそういうことをしでかしていたので…
「おぉっ!さすがは佐助!」
「──…」
(……うそッ…)
佐助の全身から、汗が滝のように流れた。
──口の中に広がっていく、ラムネの味。
(ま、間違……っ!)
昔から、ピーナッツなどを放り投げて口でキャッチする技に長けている佐助。
小さい頃、幸村が喜ぶので何度もやってみせて…
……いたのと。
「だだだんな、ごご、ごめっ」
「いや、すまぬな!」
「へっ」
ひょいっ
「──ん、美味い」
「………」
佐助は目を疑うが、幸村は何事もなかったように、飴を再度口にした。(動転した佐助が、思わず手に出していたものを)
何という──
(う、嬉しいけど……旦那全然分かってないよな、当たり前だけど)
初めは喜び、次には『ちぇ』という思いが湧き、
「…旦那。他の奴らの前で、絶対同じことしないでよね」
「え?」
「みっともねーでしょーがよ」
「あっ、お、おぅ」
そうだな、と幸村は頬を染め、佐助はその顔に、自分をさらに追い詰めたのを痛感しつつ、
「俺様、初めてだったのにな〜」
「何?」
「間接だけど、チュウ的なの」
「ちゅう?」
「キッス。…普通、それまた食べる?小さい頃でもしなかったってのに…まぁ、間違えた俺様も悪いんだけど、」
幸村はたちまち真っ赤になり、「んぐっ」と飴を喉に詰まらせたようだ。
すぐにジュースで嚥下し、事なきを得たが、
「しゃっ、…け、なに、を…!」
「冗談だってば、全く…」
ごほごほとむせる幸村の背を笑いながらさすり、佐助の気はすぐに治まった。
あの反応は嬉しくもヘコむものがあるが、それだけ家族同然の存在だと感じているからだろう。そう落ち込まずとも良い。
それを、これから自分と同じものに変えれば…
(それが難しいんだけどさ)
苦笑し、「そろそろ帰ろっか」と幸村を促す。
未だに治まらない赤い顔に、もう何度目なのか数える気も起こらない恋をし、だらしない顔を出さないように努めた。
「佐助は…」
「楽しかったよ」
「…そうか」
聞く前に答えられ、幸村は一層嬉しげに笑うのだった。
『それは良かったです〜』
「やー、何かありがとねー」
その晩、家に戻った佐助は鶴姫に電話し、「願いが叶った」と報告したのだが、彼女も何やらずっと楽しそうで、
『ごめんなさい…もう我慢できませんっ』
「え?」
『実はですね、真田さんに頼まれてたんです。渡す短冊に印を付けておいて、猿飛さんが何を願ったか分かるように』
──…は?
佐助、思考停止。
『あっ、私は見てませんよっ?真田さんが確認して』
「…な、何で」
えへへ〜、と鶴姫は笑い、
『「いつもしてもらってばかりで、何か贈りたい」って言ってらしたから』
…じゃあ、「デート」って知って……
…………!!!?
「旦那ッ、嘘っ?どゆこと!?そゆこと?分かって…えぇ!?」
『あははは、猿飛さ〜ん、私違います〜』
「…ッ、とにかくありがとね、姫ちゃん!じゃ!」
佐助は通話を切ると、部屋を飛び出した。
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