いってしまえ恋心2



(早く言わねぇと……)


こんな絶好の機会、そうそうあるもんじゃない。…そう思うのに、慶次の口から出てくるのは、当たり障りのないことばかり。

幸村の家が近付き、焦った慶次は急いで話を終わらせ、『今度こそ…っ』と心を決める。

だが、幸村に先を越され、


「初めてでございましたよなぁ」
「え?」

何が?と尋ねれば、


「慶次殿と、学校で一度も会えなかったのは。…あ、結局は違いましたがな」

と、微笑む。


「──…」

慶次は、それにいつもの如く見惚れてしまうのだが、ババッと軽く頭を振ると、


「初めて……だっけ」
「そうでござるよ。一度だけということはあれども、ゼロはありませぬ」

「…ほんとに?」
「はい」

そ、そっかーと、慶次はぎこちなく返し、目の下をわずかに染めながら、


「幸、よく覚えてんなぁ…そんなの」
「あ、いえそれが…」

幸村は苦笑を見せ、


「実は、今日気付いただけなのでござる。あまりにも会えぬので、『そういえば…』と。クラスも違うのに、慶次殿とは、それが当たり前のように思っておったようです」

照れにも見える、くすぐったそうなものを笑みに浮かべる。



(……か……ッ…)


「〜〜…!!」と、声に出してしまえば、今度こそ間違いなく不機嫌にさせてしまう言葉を飲み込み、慶次は必死で耐えた。



(幸も、今日俺のこと考えてくれてたんだ…)


なかなか会えないなと、少しは残念がってくれていたのだろうか?

楽しみにして……彼も、楽しいと思ってくれていたのだろうか、一緒にいて。




……抱き締めたい。


数え切れないほど抱いてきた衝動が、こんなにまで狂暴になったのは初めてだった。
胸の音も、千切れそうなくらいに性急でけたたましい。

あの、明るい声が慶次を後押しする。


『いつもより勇気を出して──』







「慶次殿?」
「あ、あ……の、さ…」

急に立ち止まり向き合ってくる慶次に、幸村は彼を一層固くさせる瞳を向けた。

締め付けられる胸の苦しさに抗いながら、


「俺、幸のことが……、…ッ」



(え?)


ぐいっと肩を掴まれ、戸惑う幸村だが、



『──バッシャァッ!!』


跳ねる水音に続き、荒い運転で過ぎ去る車の音。



(う、わ……っ!)

幸村は青ざめ、


「けっ、慶次殿!」
「…や、へーきへーき」

慶次は、またもニッコリと応える。


言いかけた際、車に気付いた彼が幸村を庇い、水飛沫を足元から背中まで派手に浴びていた。

本人は、『幸を守ったぜっ』と内心ガッツポーズもので、告白への仕切り直しを練り始めるのだが、


「すみませぬ、某のせいで…!」

幸村は申し訳なさで一杯といった顔で、バッグからタオルを取り出し、慶次の濡れた髪などを拭いていく。


「幸、足は良いって!汚れっから!」
「いえ、良いタオルでもありませんので」

「そーじゃなくて」
「ぉわっ!?」

慶次は幸村と同じくしゃがみ込み、彼をほとんど持ち上げるように立たせると、


「二人とも汚れたら、俺の活躍、意味なくなんじゃん」

「──あ…」

『そうか……だが、しかし…っ』と葛藤しているのが丸分かりな百面相に、慶次は笑って、


「ありがと、助かったよ」

とタオルを首にし、幸村の頭を撫でた。



「………」

幸村は、しばらく何かを逡巡させていたが、決したように慶次を見上げ、


「あの、実は…」
「あ、ごめん、ちょっと良い?落ちそう」

幸村の肩から片方の持ち手がずれ、ファスナーを開けたままのバッグの中身が、少々危険な状況になっている。

慶次は傘の柄を首元で挟み、それを閉めてやろうとしたのだが、



(……あれ?)


中に入っていたものに、ふと手が止まる。


「幸、それ…」
「え?…あ……ッ」

幸村は真っ赤になり、バッグを自身へ引き寄せると、ざっと後ずさりをした。


「これは、その…っ」
「いや、こっちが謝んねーと」

傘からはみ出た幸村に近付き、慶次は苦笑し、


「俺がしつこかったから、付き合ってくれたんだろ?分かってるってば」


(お陰で、相合い傘できちゃったし)


幸村が、それを使わなかったお陰で。


──そう。

彼のバッグに入っていた物とは、



“ 折り畳み傘 ”……だったのである。







「いえ…、そ…うではなくて、某が、そ、の……っ」



(そういえば…)


幸村の、一層染まっていく顔を見ながら、慶次の頭にふっとあることが浮かぶ。

自分と幸村の誕生月は前後しているが、星座は同じだという共通点。

に加え、幸村は朝八時前に家を出るが、あの星占いは、七時にも同じものが流れるということ。



(……って。幸が、占いなんか見るわきゃねーよな)


この超プラス思考には、毎度毎度、自分でさえも呆れ笑えてくるものがある。


しかし、『それでも良いや』と勇気の糧にすると、慶次は傘を握り直した。







(夢の続きはこれから)






「そ、某が、一緒に入りたくて、…それで、嘘を……っ」

「俺、幸のことが好きなんだ!」


前者の告白(白状)は、後者の声によりかき消されたが、彼に嘘をつかせた最大の理由は、後ほど判明する。

──その頃には雨も上がり、夕暮れの空には虹が架かっていた。







‐2012.6.13 up‐

お題(どちらも)は、【biondino】様から拝借、感謝^^

幸村も、今日に限って珍しく占いを見て決心したんですね。なのに、すれ違い。委員会。全部、慶次と同じ。
運命の日だったという(*^^*)

ほんとは、ラブラブイチャイチャ慶幸を書きたくてならないんですが、やっぱこんなんで…(´`)

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