運命の七日間(後)-4
青空に浮かぶ、大きく色鮮やかな画面には、幸村がいた病室が映っていた。
彼はまだ目を覚ましていないが、
『Ahー…ったく信じらんねぇな、何もねぇとこでスッ転ぶなんざ』
『でも良かった、怪我がなくて。頭も異常なしだそうだ』
『心配性は貴様の方だろう、たかが脳震盪にあそこまで』
『Ha、呑気に寝てやがって…起きたら喝だな』
(はは……かわいそ)
あんなこと言われてら。
佐助がおかしそうに笑うと、待ち人が隣に降り立った。
「ご協力、ありがとうございました」
「いーえぇ、こちらこそ」
ぺこりと頭を下げる鶴姫に、佐助は明るく、
「じゃ、引導よろしくお願いします」
──佐助は、願いの変更に加え『追加』を希望した。彼女の力を見込み、それだけする価値はあるはずだと、詰め寄って。
幸村の『元』管理人は、魂を裏の組織に売り飛ばす悪徳者で、そこでは魂ランクは無関係らしい。
鶴姫の目的は佐助のではなく、幸村の誤解を解き、その魂を救うことだったのだ。いや、二兎を得るつもりだった、と言うべきか。
願いは、『幸村のもとへ行かせて』に変更した。自分は近付けやしないのに、他人の願いは必ず成就できるという…彼女の力は、すごいのかそうでないのか、今一つだが。
そして追加の分は、『幸村の病気の完治』
(きっかけは悪徳管理人の力だが、実際にかかっていた)
「本当助かりましたよ。あの方の魂はもっとランクが上がりますし、沢山のプラス魂を作ってくれる予定だったので」
「その一人が、俺様だったわけだ」
「…後悔はありませんか?」
窺い見る彼女に、「まさか」と佐助は笑うが、
「でも、幸村最初は落ち込みそうだから、ちゃんと見守ってあげてよ?」
自分を見つけなければ、一番良かったんだろうけど。…それも、考えなかったわけではないが。
やはり筒抜けなのか、鶴姫は微笑み、
「無理ですよ。だってお二人の魂は、必ず寄り添う運命なんですから」
「…そうなんだ」
佐助もまた笑むと、彼女の導きに従った。
(やっぱり、綺麗なところなんだねぇ…)
佐助は、地平線が見渡せる緑の上に仰向けになり、美しい夕空を見上げていた。風が気持ちよく、夏の虫の音がかすかにする。
あの世とこの世じゃ時間の流れが違うと聞いたので、案外そう待たずに再会できるのかも知れない。会ったら、まず初めに何と言おうか…
「──佐助!」
(へっ…?)
耳の側で聞こえた大声に、肩肘を着け起き上がる──前に、重いものが身体に被さり、佐助は呻きを上げ潰された。
「こんなところに、佐助…!!」
「…え、幸村っ…?」
もうそんなに経ったのかと、驚く佐助だが、
「待っててくれと言ったのに!何故、こんなところにいたのだ…!」
「え、いや、だってあの子が」
「ケータイも置いて!悪いが、鍵は壊してしまったぞ」
「鍵?」
「アパートの」
「……アパート…」
佐助は復唱し、呆けた顔で周りを見渡す。
この世とは思えない綺麗な風景だったのが、全く平凡なものになっていた。虫の声はうるさいし、こんな、何が落ちてるか分からない野っ原で寝てたのかと、
「…?……?ここ、どこ…?何で…」
「俺の実家の裏山だっ!一日走り回ったぞ、お前を探して…!」
「一日…」
よく見れば、幸村は汗だくだ。顔が蒼白に見えた気がし、佐助はようやく焦点が合い、
「これ現実…──アンタ、身体大丈夫なの!?てか、今日いつ!?」
「だっ…い丈夫、もう平気だ!昨晩医者に言われ、今朝退院して来た!本当はすぐにでも出たかったんだが──あと、今日はもう日曜だ」
……にちよう
佐助は、再びポカンとなる。とすると、これから逝くというのか?
…ナニソレ、そこはもう配慮してくれても良いのに、幸村の目の前でそんな…
「佐助…?」
幸村は心配そうに見るが、「あっ」と何かゴソゴソやると、
「あの方から、手紙を預かったぞ」
「は…」
パステルファンシーな封筒を渡され、佐助はとりあえずそれを開けてみた。
“猿飛佐助さま☆
ごめんなさい、あなたの寿命は嘘でした。あなたは大器晩成型で、真田さんと同じくらい、沢山のプラス魂を作る人なんですよ。お二人が一緒になると倍々で、管理人の私はとってもお得なわけです、エヘッ。
怒らないで下さいね、あれが一番良いと思ったので。ご両親の魂にも頼まれてて、あなたがそうならないと、あのお二人言うこと聞いてくれそうにないんです。なので、これからは存分に──…”
「手紙が…」
「…大丈夫、全部読んだから」
佐助が読み終えると、手紙は溶けるように風に消えた。
読んだ佐助の記憶も、少しずつぼやけていく。そういう仕掛けなのだろう。
だが、今日が終わりではない事実と、感じた思いは消えなかった。
「さ…」
「あはは……びっくり。親が死んだときでも、こんなに出なかったんだけど」
全然悲しくなんかないのにと、佐助は濡れた頬を緩める。確かに、その顔は笑っていた。今までにない笑顔だった。
「っ……」
幸村は佐助の胸に顔を埋め、佐助もまた彼の背に腕を回す。
平凡だが、虫はうるさいし草のにおいもすごいが、とても特別な場所に思えた。
「佐助……」
「何か、まだ実感なくてさ。…そうだ、頬っぺたつねってくんない?古典的だけど」
「い、良いのか?……では…」
と、幸村は頷くが、
「…より、覚めるかも知れぬ」
「え?」
ふっと、佐助の視界に影が落ちる。
次に落とされたそれは覚ますどころか、また佐助をあの場所へ連れ行こうとしたが、
涙は止まり、ようやく彼はその味を知れたのだった。
幸せすぎる日曜日
(運命の七日間‐幸せを知るまで‐)
![](//img.mobilerz.net/sozai/161_w.gif)
‐2013.6.14 up‐
お付き合い、ありがとうございました!
お題・タイトル・副題「幸せを知るまで」は、【
biondino】様より拝借・感謝^^
2頁目・佐助が時間を戻してと頼むとこ、鶴「…良かった」と言ってました。幸村死ぬの聞いて佐助が喜んだり(←鬱的に)絶望しなくて、と。実情話せば良いものを、そこは乙女の持論「そんなのロマンチックに欠ける」
ちゅうオチがmain話で三回くらい続いてる…すみません; まぁ今回は幸村からだし(^^; 頬っぺ・唇どっちでも良いな〜実は佐←幸の方がすごかった、という。旦那と呼ばせるまで行けなかった…でも、幸村呼びにも憧れてたので。私が書くと違和感あるけども;
三成は「見える」体質。悪徳管理人をアニキか刑部にしたかったんですが、もっと長くなるので断念。密かに鶴vsモブの戦い背景。鶴ちゃんには憧れの上司がいて頑張ってる、か、一目惚れしたアウトロー様を探して、悪徳者たちをチェックしてる、とかも入りきらんかった。どっちもコタですが(´∀`)
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