運命の七日間(後)-3


「二人ともそんな気はなかったよ、必死に助かろうとしてたし。でも火の回り早くて、俺様を先に逃がそうとしてさ」

だから、白い目で見られようと生き続けた。その理由が分かるまでは。だが大人になると、子供の頃より折れやすくなるのか…


──佐助の家は裕福で、街の企業に融資をしたりと、周りから敬われていた。が、徐々に父親の経営する会社が傾き、首が回らなくなっていたらしい。それを隠し、街の人々には良い顔を装っていた。

一人残された佐助は同情を買ったが、期待していた金元を失い、彼には残りと言えど結構な額が入る──さらに養子であった事実を知ると、彼らの態度は一変した。

『小さい頃から、おかしな子供だった』
『生意気で、大人を食ったような…』
『前に、動物を虐待しているのを見た…』
『養父母を妬んでいたんだろう』

…などと。



「さすけ…」

「…うん。そう呼んでよ、昔と同じように」

佐助は柔らかに言い、

「アンタに一つ文句言いたかったのは、迷惑なわけないから、話しかけてくれりゃ……でも、もうそれも良いけど」


この何日が、同じくらい夢みたいだったから。

そう頬を緩めた。




「……だ…」
「え?」

幸村の小声に聞き返すと、彼は拳を握り、細かに震えていた。

「幸村…」

「いやだ……死にたくないッ!!何故──」


──俺は馬鹿だ、何て馬鹿だったんだ…っ

嘆きながら佐助の服を掴み、項垂れる。下の暗闇の中に、涙がポタポタ落ちていった。

佐助はその肩に触れ、そっと自分の方へ引き寄せた。昨日の別れ際の幸村の気持ちが、今やっと分かった…


「大丈夫、そのためにここへ来たんだから」
「え…?」
「アンタはさすがだね…たったそれだけで、こんなになれるんだから。それとも、俺様への気持ちが、そんくらいすごいってこと?」


(っ…!?)


昨日の朝に幸村が胸を熱くした、あのはにかみ笑い。
佐助がそれを浮かべると、辺りがいきなり明るくなり、目が慣れたときには、緑の草原と青空の下にいた。


「やっと来られました〜!お邪魔しちゃって、ごめんなさいっ」

「は……?」

また急に現れた少女に、幸村は目を丸くする。

鶴姫は名乗り、自分も『魂管理人』だと告げると、

「実はあなたの管理人は、魂を陥れて早期にゲットする、悪ーい方だったんです。私、あなたの魂をずっとチェックしてたので、不正に気付いて…」

が、死を知ったことで幸村の魂はマイナスに染まり、その管理人の力でガードされ、鶴姫は幸村に近付けなかった。それで、マイナス魂である佐助の協力を仰いだのだと。

誤解からの罪も解かれ、幸村が生を強く願ったことで、彼の魂は再燃した。その勢いに負け、彼の管理人の力は弱体化──驚いたことに、彼女が持つ小瓶の中に、小さな姿で閉じ込められていた。

幸村は、ポカンとしたままそれを覗き、

「なんと…」

「これでもう安心ですよ!あなたの魂の管理人は、私になりました。言えませんけど、寿命にはまだ遠いので、頑張って下さいねっ!」

にっこり笑い、「じゃあ、あとはごゆっくり♪」と、姿を消した。












「本当に……?」
「うん。もうすぐ元の世界に戻るよ。病気も消えて」

「……っ…」

幸村はまた涙しそうになると、佐助の胸に飛び込んだ。佐助は照れながらも、今度は力を込めてその身を抱く。

温もりが、佐助を満たしていく。自分の生は、きっとこのために在ったのだ…


「ありがとう、佐助──助けてもらったのもそうだが、救われた…。辛い昔を思い出させて、すまぬ…」
「いや、親との思い出は辛くなんてないから。…アンタこそ、しなくて良かった思いに苦しんで」

ほんと馬鹿だよ。そう言うが、口振りも瞳も、違うものを語っていた。

昨日は、一生分の恋をしたと思ったのに。あれより上の感情が、まだあったのだとは。


「本当はもっと違うことを、もっと沢山書きたかったんだ…」

「へえ……例えばどんな?」
「そっ…」

れは…と詰まり赤くなる幸村を、佐助は嬉しそうに、また優しい目で見つめた。

全部伝わってるよと囁き、「俺様こそ、本当にありがとう」と、

「次に会うときはまともになっとくから、また一緒にいてくれな?──幸村」

「っ…そのような……第一、すぐ会えるというに」

自分を卑下するような言い方に眉を寄せ、ながらも名前を呼ばれて照れつつ、幸村は佐助を睨むが、


(佐助…?)


彼の全く変わらぬ笑みに、わずかな違和感を抱く。てっきり、「だよねえ、ごめん」と苦笑が返ってくるものと思っていた。
それと気のせいだろうが、その笑みがどこか…


「──あ…」
「そろそろ覚めるらしいね」
「さっ…」

幸村の身体が透け始め、佐助に触れられなくなってきた。

一緒に戻るのではないのか。幸村は急に不安になり、佐助を見返す。佐助は、「絶対大丈夫だから」と、より優しく微笑む……のに、幸村の不安は増した。

「佐助!」

完全に消える前に、茫洋な空間にも負けぬ大声で叫ぶ。


「目が覚めたら、すぐ会いに行く!だからどこにも行かず、待っていてくれ!約束──」


幸村の声は、姿とともに消えた。

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