いってしまえ恋心1
慶幸、高校生。元親が少し。
慶→幸な感じです。
恐らくベタなやり取り; また、恋愛一年生的な…。梅雨にちなんだ背景です。ほのぼの、甘さ控えめ。
(全2ページ)
『今日の運勢、一位は○○座のあなた!気になるあの人と急接近…?いつもより勇気を出して。ラッキーアイテムは『傘』で〜す』
(……よし、決めた)
珍しく早めに起きたので、朝のニュース番組の星占い枠に間に合った。
空は晴れ渡り、夏の接近を報せる爽やかな青が広がっているが、慶次は傘を片手に家を出る。
(今日こそ、は──)
いってしまえ恋心「…っかしーなー…」
「あ?」
つい、声に出てしまっていたらしい。
元親の返しに、慶次は沈んだ面持ちで、
「やー…、今日の運勢一位だったんだけど、全然当たんなかったなーって」
放課後の図書室。
慶次と元親は、本棚の整理を任されていた。
普段はほとんど仕事がなく、楽らしいからという理由で委員になったのだが、今日に限っていつもと違うことが起こったのである。
逃げ出したくも、そんな数少ない仕事をサボってしまうのは、さすがに良心が痛んだ。
「幸と全然会えなくてさぁ。休み時間に行っても、何かすれ違いで。あーあ…」
…せっかくの一大決心が。
結局、勇気は発揮されず終いだ。
「あれなー、結構当たんねーって皆言ってんぜ?」
「え、まじ?」
なーんだ、と慶次は口を尖らせ、『もう二度と、占いにすがるのはやめよう』と、胸の内で戒める。
作業を終えて教室に戻った後、「ちょいと用あっから」と告げ、帰る元親に手を振った。
(…やっぱ、いねぇよな……)
もしかして、と彼の教室や思い当たる場所に足を運んでみたが、結果は空振り。
窓の外を見れば、午後からの曇り空が濃くなっており、シトシト降り始めていた。
それだけはラッキーだったかな、と傘を手にし、昇降口へと向かう。
(え……ッ)
慶次は目を疑い何度か瞬かせたが、それは間違いもなく、
「幸…っ!」
「!──慶次殿」
驚かせてしまったようで、幸村は大きく肩を揺らし、慶次に振り返った。
「ま…だ、残ってたんだ?」
「はい、委員会でして」
「えっ、そっちも?」
俺もだったんだよーと苦笑しながら、慶次は内で弾ける喜びを噛み締める。
(占い、やっと当たり始めたかも…!)
「一緒に帰ろう」との誘いに、「はい」と笑顔で答える幸村。
それだけで、慶次の胸は幸せで夢心地になれた。
「朝は晴れておりましたのになぁ」
「!あ、待った待った」
「え?」
出入口先で、幸村が肩に掛けていたバッグを手にしたのを止め、
「結構強くなってきたし。それ(バッグで頭を覆うだけ)じゃ、風邪引いちまうよ」
「あ、いえ、大丈…」
「まーまー、良いから!」
慶次はニコニコ笑い、傘を広げて幸村の隣に立つ。
「し、しかし…」
「幸ん家のが近いしさっ、ついでついで」
「は、ぁ……」
幸村はしきりにためらうが、この素敵なシチュエーションに頭が桃色に染まった慶次には、察する余裕などないようで。
「早く早く」と急かし、ほとんど強引に引き寄せると、
「さ、帰ろ?」
「………」
子供のような満面の笑みを向けられ、幸村はバッグを肩に戻す。
それに内心小躍り状態になった慶次には、幸村の表情のわずかな変化に、気付けはしなかった。
「すみませぬな…」
「良いって良いって!」
学校を出て、二人並んで歩道を歩く。
「いつも貸してもらってっからなぁ。お返しできて良かったよ」
そう言うと、幸村も「そうですなぁ」と、慶次の冗談っぽい口振りを真似た。
慶次は、忘れ物常習犯である。
…幸村のクラスの時間割を把握済みで、借りられる確信をしてから『忘れている』事実は、極秘だが。
二人はクラスが離れているので、わざわざ会いに行く理由は、自然なものが多く必要なのだ…
「今日さぁ、全然会えなかったよな?」
「あ、はい……」
「朝見た占い一位だったのに、ちっとも当たんねーじゃんって思ってたんだけど」
「………」
慶次の無自覚の言葉を咀嚼し、幸村は少し声を詰まらせるが、
「占い……」
「うん。で、ラッキーアイテムが傘でさ〜。だから、やっぱ信じることにしよっかなーって」
「──慶次殿、あの…」
「ん?」
言いかけた幸村が、慶次の方を向くと、
(……あ)
割と大きめの傘だったのだが、二人では少々狭かったようだ。
慶次の片方の肩が濡れているのを目にし、幸村は慌てて、
「慶次殿、大丈夫ですので」
と、傘の柄を押すのだが、
「ああ、こんくらい平気だって」
慶次は慶次で、優しい笑顔で譲ろうとしない。
「しかし…っ」「良いって」としばらくやり合い、やはり押しの強さでは敵わず、白旗を上げたのは幸村の方だった。
「………」
「(やべ……)」
押し黙る幸村に、機嫌を損ねてしまっただろうか、と慶次はヒヤリとするが、
「では、失礼して…」
(え、えっ、え、うわぉ──)
幸村に身を寄せられ、慶次の頭と胸の中は、さらなるパラダイスお花畑状態に。
自分のためを思っての発言も嬉しかったが、行き着いた先のこの行動には、思わず頬をつねってしまいたくなる。
日頃から、肩を組むなどのスキンシップをよくしている慶次だが、幸村から近付かれるのは初めてだったので、仕方のない反応であった。
「こちらは、充分余裕がありますので」
「あ、うん……あ、ありがと…」
促され、慶次は傘を少し寄せる。
通学路には人気がなく、ザーッという雨音だけが二人を包んでいた。
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