運命の七日間(中)-3





試合は佐助も素直に楽しめ、またツイていることに応援チームの勝利。そして何より、幸村の一挙一動が素晴らしかった。

何を大げさなと思われようが、佐助にとっては偽りなく真実で、これまでの人生分恋をしたと感じた。
今なら、何の悔いもなく逝ける。いや、元より無いに等しかったが、満足とはこういうものを言うのだなと。


『佐助……殿…』

名前で呼んでも良いかと尋ねられたときは、それこそ本当に逝くかと思った。情けなくも、頷くしかできなかったが。

今も、勝利の喜びに湧く人の荒波の中、彼とはぐれないことだけに必死で…


(──あれ?)


…さっきまで、隣にいたのに。
幸村の姿がなく、佐助は周りを見渡す。

どこだ…?
目は良いはずなのに、やはり慣れぬ混雑にいるからか…また熱気や大歓声で、頭がワンワン鳴る。
しかし、そこまで離れてはいないはず。大声で呼べば、きっと気付いてくれるだろう。

「さな…真田、くん」

言った瞬間、頭に血が上る。こんなことなら、一度でも呼んで慣れておくんだった。

だが、照れてる場合じゃない。次はもっと大きく呼ぶが、数人から振り返られ、『そんなにいんの?』と焦った佐助は、


「ゅ……幸村!!」

「佐助ッ…」


──っえ゙

真後ろで聞こえてすぐ、背中に強い衝撃が。人の波に押された幸村が、佐助のそこにプレスされたらしい。


「すみま…っ、遅れて…ッ?」

背中に感じる密着度その他に沸騰した佐助は、とにかく顔を見られないよう前を行く。

しかしながら片手はしっかり幸村の腕を掴み、人混みを出るまで決して離さなかった。














「すごい試合だったよねぇ、本当に」
「あの店、まことに美味で…」

同時に言い、二人は止まる。

──あの後はスタジアムの周りを散策し、レストランで夕食を食べてから、電車でゆっくり帰ってきた。
駅からアパートまでの道では話題が尽き、その結果がこれだ。

「うん、ご飯も美味しかったよね」
「ほんに、全身がたぎる試合でしたな!」

またもやズレてしまい、『うっ』となる二人。だが目が合い、次第に笑みへと移っていった。


「『俺様』さ…」
「…えっ?」
「あー…、昔を思い出してたからかな」

驚く幸村に、佐助は苦笑で返すと、


「会ったばっかだけど……俺様、アンタに惚れてしまいました」


「──」


…当然の反応だろう。
完全に操ってるわけじゃないんだろうし、佐助の願いは『恋人が欲しい』ではなかったのだし。
しかし、その先を期待してなのではなく、ただ言いたかった。今日一日を隣で過ごし、どうしても伝えたくなったのだ。彼が、いずれ忘れてしまうのであろうと。


「初恋は、女の人だったんだけどね…」
「………」
「…ごめんね、言っちゃって」
「……」

幸村はふるりと首を振り、

「佐助殿、俺は…」
「勝手で悪いけど、言いたかっただけだから」

佐助は再度謝ると、動揺する幸村をどうにかしてやりたく、

「それより、『俺』だって。初めて聞いた」

「あ…」
「家族には、そう言うんだよな?…俺様も、呼び捨てで良いのに」

まぁ、無理な話だろうが。そんな意図を含めた表情で言うと、思った通り、幸村は困り顔になっていた。

「そちらも……スタジアムでは、名を呼んでくれましたのに」


(う……)


…そう来るとは。

「タイミングがさ」とか何とかごまかし、佐助は早足になるのだった。









それからアパートに帰り着くまで、二人とも無言だった。
どうせなら明日の夜に言えば良かったのだろうが、我慢できなかったのだ。

引かれても避けられても、自分のことで一杯にさせたかった。今の、このときだけでも。


「じゃ…今日は、ほんとにありがとう」
「こちらこそが…」

俯く幸村に、佐助は続けて、

「今日だけじゃなく、会ったときから。……実は俺様、両親亡くしててさ。こんな楽しいの、本当に久し振りで」



(──れ?)


何が……起きたんだろう。
突然の出来事に、佐助は呆然と固まる。だがそうなるのも当然、恋した相手に抱き付かれているのだから。

ぶつかったというオチではないようだ、腕は背中にしっかり回されている。
訳が分からなかったが、佐助も彼の背を包み込んでいた…


「…明日は、午前中は実家に帰るのですが」
「うん…?」
「昼からは…──また、ケータイに掛けますので」

幸村はパッと離れると、お休みなさいと頭を下げ、逃げるように彼の部屋へ入った。



「おやすみ…」


温もり残る腕に、片方の手で触れた。…今頃になって、熱と鼓動が高ぶってくる。

昨日と同じように、明日への楽しみが湧いた。そして、初めて──痛みと寂しさが。


……あと二日





特別な金曜日

(ちょっと寂しい金曜日)













──翌日。

早朝、幸村が部屋を出ていく音を聞いた。
今日は、天気が崩れるらしい。彼は、傘を持って出ただろうか?

彼が留守だと思うだけで、いつもより静かに感じられた。進みの遅い時計を見つめ、早く過ぎろと焦れる。いつでも取れるよう、ケータイは近くに置いておく。

十二時半、十三時、十三時半、十四時…



(何やってんだよ……)


十五時にまでなると、さすがに焦ってきた。自分には、もう今日と明日しかないのに。


──とうとう佐助は、自ら掛けることに。

だが向こうはすぐに出ず、一回一回のコール音が、やけに長く感じられた。





着信が待ち遠しい土曜日






‐2013.6.9 up‐

お題(金曜は両方とも)は、【biondino】様より拝借・感謝^^

変なとこで切っててすみません、続けたら長くなりそうで。次も土曜で、この後の話からの予定。何とか次話で終わらせたい、長くなり過ぎんよう努めます。デート描写…ロクになくて;

良かったら、次回もご覧下さい(´∀`)

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