運命の七日間(中)-2





あれから一時間ほどでイベントは終了し、幸村と佐助は解放された。
帰る前にファーストフード店に寄り、アパート近くまで来たときには、もう夜になっていた。


「バイト、急にお誘いして…」
「いや、楽しかったよ」

本心がスルリと出ていき、佐助は幸村に微笑んだ。
ああいうバイトは初めてしたし、友人とファーストフードを…そんな経験すらなかったので、本当に楽しかったのだ。

幸村は安堵したように小息をつき、嬉しそうに口元を緩める。電灯の光のお陰で、頬の色の変化が見てとれた。


(…やっぱり、そうなんだ)


苦笑が湧くも、感謝の思いしかない。
作られた運だろうが、構うものか。佐助は、別人のように幸村を真っ直ぐ捉えると、


「明日も予定なくて、もし良かったら……一緒にいたいんだけど…」

「──…っ」

増した色の濃さと即座の頷きに、佐助はまた長年振りの感覚を味わう。

翌日の訪れへの楽しみという、こんなにまで心弾むそれを…





運を味方につけた木曜日






──バイトが終わる前のあのとき、佐助に声を掛けたのは、右目に眼帯を付けた青年で、


「アンタ、あいつに何か吹き込んだんじゃねーだろな」
「え?」
「おい、失礼だろう」

いきなり凄んできた彼を、唯一穏やかそうな青年が止め、

「突然すまない。ワシは徳川、こっちは伊達に石田という。皆、真田の友人だ」

「はぁ…、…あ、猿飛です」

これが例の『ワシ』か。そう思うものの、他の二人の険しい表情には首が傾くばかりだ。
三人は、佐助の座るテーブルに着くと、

「この二人は心配性でな。真田が、急に引っ越したものだから」
「へえ…」
「あなたと親しくしてるのを見て、知り合いだったのではと…」
「や、それは断じて」

他の二人も本気ではなかったのか、態度は少し緩み、

「ならば、怪しい女子高生に心当たりは?」
「──は」
「だからそりゃねぇって。幸村が隠せるわけねぇだろ?」
「ではあの女は何だ、真田の後を隠れるように」
「お前の見間違いだろ、俺ら見たことねぇしよ」

意見を軋ませる彼らを、また徳川がなだめるよう止めると、

「いや、もしかすると彼女でもできて、それで引っ越したのかもなぁ、とも言っていて」

「……引っ越しって、そんな急に?」









『前日の日曜に言い出して、その日の内に管理人と話をつけてな…驚いたよ』

理由を聞いても、「一度、古いアパートに住んでみたかった」と、初耳な言葉を吐くのみで。彼は実家暮らしだったらしく、友人らのマンションが近所になるのは良いとしても、一抹の心配は拭えないようだ。

幸村は妙に楽しそうで、石田という彼は、見かけたその女子高生に、彼が騙されているのでは…とも。


(あの子のことだ、絶対…)


──佐助はようやく理解した。月曜からの、この幸運続きを。
彼女は、佐助の願いを叶えてくれたわけだ。『最後に優しくされたい』という、あの…

それで、幸村はああも自分の理想通りに接してくれる。いや、元々優しい人ではあるんだろうが。


(…日曜を過ぎれば、きっと目が覚めるから)


申し訳ないけど、それまではどうか。
佐助は彼の友人らに心の中で詫び、彼女には感謝をしたのだった。














『ピピピピ…』


翌朝、佐助は首を傾げながら音のする方に目をやる。今朝は早くから起きて身仕度し、ケータイのアラームも切っていたはずなのに。


(…え、うわ!)


見るとそれは着信画面で、昨日登録し合った幸村の名が…佐助は仰天するが、

「もしも、し?」
『おはようございまする、真田でござる!』
「…うん、名前見た」
『せっかくなので、呼び鈴代わりにと』

幸村は明るく笑い、『お迎えに上がっても、ようござるか?』



───────………



「あっ…」

ドアを開けた途端驚く幸村の顔に、佐助ははにかみ笑い、

「やー…あそこだったら、紛れるかなぁって」
「お似合いでござる、すごく…!」
「そ…かな」

それが彼女の魔法(?)による反応だとしても、佐助は嬉しかった。鏡の中の、昔していたペイントを施した自分と、笑顔の幸村に笑みを浮かべる。

昨日はあれ以外にもツキがあって、ポストに溜まった郵便物の中に、何と今日行われるプロサッカー戦の、ペアチケットが入っていたのだ。以前どこかで書かされた抽選ハガキが、見事当選していたらしい。

サッカー観戦は、大好きだという幸村。今日を退屈させずに済みそうで、実にありがたい話である。


「良ければ、某にもしてもらえませぬか?」
「え…や、失敗したら悪いし」
「小さいので良いので!」
「…じゃあ」

フェイスペイントの了承に喜び、ギュッと目をつむる幸村。その辺に施すつもりはなかったので笑いそうになるが、佐助は飲み込み、細い筆に色を付ける。
片方の頬の上に、今日応援するチームのマークを小さく描いていった。


(……睫毛、長ぁ…)


朝陽を浴び薄茶に透け、人形のようだとまじまじ見てしまう。鼻も唇も小さくて形が良く、というか顔が小さいのか…だから、とても二十歳過ぎには見えないのだろう。

と冷静に分析しているようで、佐助の目と頭はただ単に見惚れていた。幸村の身じろぎで我に返り、完成を知らせる。

幸村は大いに喜び、佐助も喜ばされると、二人はアパートを後にした。

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