甘く溶けきった思考回路2
料理は、佐助が官兵衛の分まで用意して持って来てくれていた。
見た目も良い、人当たりも良い、頭も良けりゃ料理もできる(しかも美味い)
これだけ揃っているのに決まった相手がいないのは、彼がバイトに明け暮れているせいだと思っていたが、本当の理由はこちらだったのかも知れない。
「お前さんは、大きくなったら何になりたいんだ?」
「たくさんあって、どれにするかかんがえちゅうでござる」
「おお、そりゃあ立派だねぇ」
ついでに羨ましいね、と官兵衛は心の中で自嘲する。
「くろだどのは、なにになられるので?」
「それが、この歳になっても見つけられてなくてなぁ」
子供の前で格好をつけてもしょうがない。しかし、見栄を張る嘘すら思い付けないのも、情けない話だった。
そんな意味合いの苦笑だとは知るはずもなく、幸村は無邪気に、
「では、ほいくえんのせんせいはっ?」
「小生がか!?嫌がって、誰も来なくなるぞ」
絶望的な声と顔で答えれば、子供的にはツボだったらしく、幸村は音が弾むように笑い転げる。
夕食後の、まったりとした時間。
まだこんなに幼いというのに、幸村は一切寂しがったりしない。官兵衛は、純粋に『偉いな』と思わされていた。
「そら。まだ入るならな」
「……えっ…!!」
(ん?)
幸村の驚く顔に、官兵衛の方が戸惑い、
「何だ、嫌いだったか?」
「いえっ!だいすきでござる!!」
下げられると思ったのか、幸村は慌てて皿を掴む。
先日故郷の親戚が送ってくれた、熟れた苺の山を出してみたのだが。
「い、いいのでござるかっ?」
「遠慮なんざ、子供のするもんじゃないよ」
食え食えと差し出すと、幸村の目が輝いていく。好きだというのは、どうやら嘘ではないらしい。
「つけてもいいので…?」
(ああ──)
…それで、戸惑っていたのか。
苺に練乳をかけてやっていたのだが、佐助のことなので、『虫歯になるから』と、控えさせているのだろう。
幸村の表情は、『夢みたいだ』と叫んでいるのと同じだった。
「猿飛には内緒にな」
「……!!」
こくこくと全力で頷き、幸村は満面の笑みでフォークを手に取る。
美味しそうに頬張る姿に、官兵衛も口元を釣られながら、
「あいつは、意外と厳しいみたいだな?お前さんも、よーく教え込まれてるようだし」
「…?」
首を傾げるので分かりやすく言ってやると、
「さすけは、やさしゅうござるよ?それがしがいいつけをちゃんとすれば、これもつけてくれまする」
「…あいつらしいねぇ」
おやつに大好きな苺、さらに良い子にしていれば練乳も──そうして、こんな素直な性格に仕立てていったわけか。(無論、一端だろうが)
三成相手に効く戦法はないだろうかと、官兵衛は詳しく尋ねてみることにした。
[ 7/24 ][*前へ] [次へ#]